動機の錯誤に関する判タ1445号5頁塩原学裁判官の論文が面白い | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 例えば12頁の注32。基礎学習が不十分な法律家だと、この辺を勘違いして、こんなケースでも動機の錯誤による無効(新法だと取消)を主張しがちです
単なる見通しの誤りは錯誤にあたらない。例えば、立地が良いので値上がりすると思って土地を購入したが、予想に反して価値が下がった場合がこれにあたる。仮にこのような動機が表示され、相手も同じ認識であったとしても、それは見通しの誤りがあったというにすぎず、錯誤ということができない。
 また、売買契約の前提とされた新駅設置計画が実際に存在したが、売買契約締結後に予期しない事情で計画が撤回された場合も、売買契約締結時の事実誤認がない以上、錯誤にあたらない。
 判タ1247号62頁論文でも、錯誤の対象となる事実と認識の同時存在に言及しており、東京地判2010/1/29判タ1326号212頁でも、意思表示をした時点で不確定な将来発生する事象に関する予測期待は、意思表示に影響する錯誤の対象となりうる事柄ではないとしている》

 大審院と最高裁の判例を事例を抑えて丹念に分析しており、12頁の帰納【】は基礎知識として押さえておくべきでしょう。
【表示の錯誤と動機の錯誤を、表示に対応する意思の有無で本質に相違があるものと捉え(二元論)、その動機が明示黙示に法律行為(意思表示)の内容となったか否かを重視するので、たとえ動機が表示されていても解釈上、動機が法律行為の内容とされていない場合には、動機に存在する錯誤は法律行為の効力には影響を及ぼさない】

 でも要素の錯誤には当たらないとした個別の判断(賃貸借契約を合意解除し建物を明け渡す調停が成立した後に、賃貸人には建物を自己使用する必要が実はなかったことが判明した最高判1953/5/7とか、建物請負契約において建築確認を受けられなかった最高判1959/5/14とか)には、私個人は疑問があります。
 ただ、錯誤ある表意者と取引の相手方とのいずれを保護することがリスク分配の観点から妥当か(=動機が法律行為の内容になっているとして、表意者の錯誤により取引が無くなるリスクを相手が負うことが適正か)という利益衡量も実際にはなされているという指摘もなされていますので、一刀両断はできません。
 23頁では、法律行為の内容化の考慮要素として①類型性質②対価性③表意者の表示など契約締結過程における当事者間のやりとり④属性⑤そのほか法律行為の趣旨目的など、が挙げられていました。

 なお改正債権法では『表意者が法律行為の基礎とした事情について、その認識が真実性に反する錯誤の場合、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた時に限り、取り消すことができる』という感じで立法化されました。
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