認知症の男性の家族へのJR東海からの請求が棄却される | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 結論からいうと、予測とおり破棄自判 でした。
やっと最高裁ウェブサイトに2016/3/1 がUPされました。

 認知症の男性と同居していた妻に賠償責任を認めた名古屋高判2014/4/24判時2256号16頁は、こういう理由づけをしていました。
一方の配偶者が精神保健法5条にいう精神障がい者になった場合には、精神保健法の保護者制度に照らしても、その者と現に同居して生活している他方の配偶者には、民法752条に基づき、精神障がい者となった配偶者に対する監督義務を負う。
 そして、本件で線路に立ち入った男性の妻は、自らの監督義務を怠らなかったとまではいえず、JR東海に対する賠償責任を負う


個人賠償責任保険について、別居している被後見人による事故(例:認知症の親が1人暮らしでときどき面倒を見に行く関係。その親がボヤを起こした)に備えて、保険賠償による適用範囲を同居の親族から別居の親族に拡大する約款改正の動きもあるそうです。期待しています。

 上記名古屋高判に対し、最高裁はこう説示しました。
A:精神保健法の保護者制度そのものが平成25年に廃止されている。
また、保護者の精神障がい者に対する自傷他害防止監督義務も平成11年に廃止されている。
B:また、後見人の被後見人に対する身上配慮義務は、成年後見人が契約などの法律行為を行う際に成年被後見人の心情に配慮すべきことを求めるにとどまり、成年後見人に対し、事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督することまでを求めるものではない。
C:民法752条は夫婦間においてお互いがお互いに対して負う義務であって、第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課すものではない。
 同居義務が履行を強制できず、協力義務はそれ自体抽象的だし、扶助義務があるといっても直ちに第三者との関係で相手方を監督する義務があると基礎づけることはできない。
これらの規定があるからといって、夫婦の一方が当然に、民法714条1項にいう責任無能力者の法定監督義務を課されているということはできない(α)

 例外的に、最高裁1983/2/24 判タ495号79頁でも触れられているが、法定監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、民法714条1項類推適用により、法定監督義務者に準すべきものと扱われる場合には、その者が特別に責任無能力者の行為について賠償責任を負う場合がありうる。
その特別に賠償責任を負う場合にあたるというためには、①親族関係の有無や濃淡②日常的な接触の程度③財産管理への関与の状況④責任無能力者本人の問題行動の有無や内容⑤それに対する監護の実態や内容など、諸般の事情を総合して、その者が精神障がい者を現に監督している、あるいは、監督が可能かつ容易であるなど、衡平の見地からその者に監督責任を問うのが相当と言える客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである(β)

 本件では、認知症の男性と同居していた妻は(β)にあたる事情が無いので、当然(α)のみが適用され、妻が賠償責任を負うべき法律上の根拠がないとして、JR東海の賠償請求は全面的に退けられたのです。

 ちなみに、20年以上も別居して生活している長男に対しては、認知症の男性の生活全般に対して配慮しその身上を監護すべき法的義務を負っていたとは認められないという、上記名古屋高判の説示は、最高判でも特に変更なく維持されました。

 とはいえ、補足意見では、請求棄却という結論は一致しているものの、長男は前記法定監督義務者に準じる存在である、ただし義務懈怠はなかったという意見 も展開されています。危険です危険です。
 裁判官同士でもいろいろ意見はわかれたのでしょうね。学者の以下のコメントが私の心に残りました。

>最高裁判決の枠組みでは、家族の中で高齢者と密接に関わる
>人ほど法定監督義務者に準じる存在として、第三者に対する
>賠償責任を負うリスクが高まる(β)。
>自宅での介護離れを招きかねない。
>少子高齢化、すなわち、少人数で介護を行うことが当然となる
>時代に向けて、認知症の人が関わる事件や事故の負担を
>社会全体で どのように負っていくべきなのかしっかりと議論して、
>新たな法制度を作ることも含めて考えていく必要がある

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