最高裁2015/12/16 は予想外に長く、いま私が解説できるのは多数意見に限定されます。
山浦善樹裁判官の反対意見 ・寺田逸郎裁判官の補足意見 ・岡部喜代子裁判官の意見 ・木内道祥裁判官の意見 などは新聞記事などでご確認下さい。
当事者代理人となったのは離婚に関する本を何冊も出しているさかきばら法律事務所 のご面々ですので、上告理由も複数の条文にわたって展開されています。
例えば、織田嘉門(おだかもん)さんと大場真理(おおばまり)さんが婚姻届を書こうとした際の状況を想像してもらえるとよいでしょう。
第1、民法750条は憲法13条に違反するか
(上告人の主張)
憲法上の権利として保障される人格権の一内容である、憲法13条の幸福追求権として保障される、氏の変更を強制されない自由を侵害している。
氏名は、社会的にみれば個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するモノだからである(最高裁1988/2/16 判タ662号75頁)。
*この最高裁1988/2/16は昭和50年のニュース番組で在日韓国人が自らの氏名を予め表明した意思に反して日本語読みによって呼称された件について、当時の観光的な呼称が是認されていた状況下では違法ではないと判断された事例です。
(多数意見の判断)
1、氏は婚姻及び家族に関する法制度の一部として具体的にその内容を法律が規律しているものであるから、氏に関する人格権の内容も憲法上一義的にとらえられるべきものでなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度を待って初めて具体的に捉えられるものである。
従って、具体的な法制度を離れて、片方の氏が結婚により変更されること自体をとらえて、直ちに人格権を侵害し、違憲であるか否かを論じることは相当ではない。
2、法規定は、氏の性質に関し、氏に名と同様に個人の呼称としての意義を認めつつ、名とは切り離された存在として、社会の構成要素である家族の呼称としての意義を付与している。
そして、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして1つに定めることにも合理性がある。
3、あと、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であって、自らの意思に関わりなく氏を改めることを強制されるわけではない。
現行法制度の下における氏の性質に鑑みると、婚姻の際に氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえず、憲法13条に違反しない。
第2、民法750条は憲法14条1項に違反するか
(上告人の主張)
96%以上の夫婦において夫の氏を選択するという性差別を発生させ、ほとんど女性のみに不利益を負わせる効果を有する規定であり、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反する。
(多数意見の判断)
民法750条は、入籍の際にどちらの氏を称するかを夫婦間の協議に委ねているもので、夫婦同氏という制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。
夫婦間の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めるとしても、それが民法750条の存在それ自体から生じた結果ではなく、憲法14条1項に違反しない。
もっとも圧倒的多数の夫婦が夫の氏を選択する状況が、夫婦となろうとする者の真に自由な選択の結果によるものかについて注意が求められるわけで、仮に社会に存する差別的な意識や慣習による影響があるならば、その影響を排除して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは憲法14条1項の趣旨に沿うものである。
この点は、憲法24条2項の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討にあたって留意されなければならない。
第3、民法750条は憲法24条に違反するか
(上告人の主張)
夫婦になろうとする者の一方が常に氏を改めることを婚姻届の要件とすることは、実質的に憲法24条1項に定める婚姻の自由を侵害するもので、また、憲法24条2項に立法裁量があるとしても民法750条は個人の尊厳を侵害することとなり、憲法違反である。
(多数意見の判断)
1、憲法24条1項は、婚姻することそれ自体に対する直接の制約を定めたものではない。
仮にポリシーとして夫婦別姓を保有するため入籍しないことを選択する者がいるとしても、その者に憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したということはできない。
2、婚姻及び家族に関する法制度を定めた規定が憲法13条や憲法14条1項に違反しない場合に、さらに、憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨やその制度を採用することにより生じる影響につき検討し、憲法24条2項の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものか否かという観点から判断されるべきである。
3、夫婦同氏制には、家族という1つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し識別する機能がある。子供としても、いずれの親とも等しい氏を名乗ることによる利益を享受しやすい立場に置かれる。
これに対して、夫婦同氏制では、改姓によりアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の人生で形成してきた社会的信用・評価・名誉感情などを維持することが困難になったりするなどの、不利益を受ける場合があり、妻となる女性がその不利益を受ける場面が多いと推認できる。
さらには、この不利益を避けるため、あえて入籍しないという選択をする夫婦が存在することもうかがわれる。
4、しかし、夫婦同氏制があっても、婚姻前の通称を使用して社会生活を送ることが近時広まっており、上記不利益は氏の通称使用が広まることにより一定程度緩和できる。
総合考慮すると、民法750条は、直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは言い難く、憲法24条には違反しない。
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