公訴時効を廃止した法律は憲法39条前段に抵触しない | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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最高裁2015/12/3 です。事件の概容はこのとおり

1997/4/13 強盗殺人事件発生
 事件当時は公訴時効15年(刑訴法250条1号)
2005/1/1 
 法定刑が死刑の犯罪の公訴時効を廃止する改正刑訴法施行。
 しかも、法施行の際にいまだ公訴時効が完了していない犯罪については改正刑訴法を適用するとの付則設置

2012/4/12 事件当時の刑訴法のままならば公訴時効15年満了
2013/2/22 被告人を刑事訴追。無期懲役の判決

 被告人は、棒線青色箇所が憲法39条前段に定める遡及処罰の禁止に抵触する違憲立法であると上告しました。

 これに対し最高裁は「公訴時効の制度趣旨は、時の経過に応じて検察官による控訴を制限する訴訟法を通じ、処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。」としつつ、「改正刑訴法は、その趣旨を実現するため、法定刑が死刑の犯罪について公訴時効を廃止したり、法定刑が懲役禁固の犯罪について公訴時効を延長したにすぎず、行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更したわけではない。そして、改正刑訴法施行の際、いまだ公訴時効が完成されていないのであるから、附則設置により既に生じていた被疑者被告人の法律上の地位が著しく不安定になるわけではない」という理由で、憲法39条前段には抵触していないと判断しました。

 上記最高裁が説示の中で言及している最高裁1950/4/26別冊ジュリ57号26頁評釈を読むと、当時の最高裁は「訴訟手続に関する法律が犯行後に制定されたとして、その法律を制定前の犯行に適用することは、多少被告人に不利益であるとしても、憲法39条前段の趣旨を類推して禁止されてはいない」と説示しています。
 最高裁1950/4/26補足意見では、そのものずばり憲法39条前段は実体法の事後立法を禁止するにとどまり、改正された訴訟法の遡及適用を禁止するものではないとの意見も出ています。

 思うに、憲法39条前段がその文理から実体法のみならず訴訟法の遡及適用まで禁止していたと読み込むことまではいき過ぎです。
 そもそも、当該被告人にとって改正刑訴法により何が不利になったかといえば【2004/12/31時点までは、もし2012/4/12まで逃げ切れれば改正刑訴法がなければ無罪になっていた。2005/1/1改正刑訴法により、2012/4/12以降も無罪になることは無くなった。逆にいえば、1997/4/13時点で被告人が置かれていた状況は、仮に2012/4/11まで逃げ切れず起訴されていたら無罪になることはなかったという程度の期待感】であって、その程度の地位が附則設置により無くなったというにとどまり、当該被告人が置かれていた法律上の地位が附則設置により著しく不安定になったとまではいえず、その程度の不利益を被る被告人を保護してまで刑罰権の発動を憲法で抑止するのは正義公平に反するように思われますので、私は最高裁の考えに賛同します。
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