弁護士に押収拒絶権がないとされた宮崎婦女暴行ビデオ事件 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 最高決2015/11/19 がでました。
 この宮崎婦女暴行ビデオ事件では、被告人の弁護人からの被害者側への働きかけのあり方をめぐってネット上で激しい批判 が巻き起こり、場外乱闘として第三者から弁護人への懲戒申立 もなされているようです。

 論点を最高決に絞って説明します。
 裁判所は、第1回公判後、必要があるときは証拠物を差し押さえたり、提出を命じることできます(刑訴法99条1項)。いずれもブツの占有主体を私人から国家機関に移す強制処分です。任意提出された後は領置されます(刑訴法101条)。

 ところで、医師・歯科医師・助産婦・看護婦・弁護士・弁理士・公証人・宗教の職にある者は、業務上委託を受けて保管するブツで、それが他人の秘密に関するブツであれば、押収を拒否することができます(刑訴法105条本文)。これを押収拒絶権といいます。
 押収拒絶権がこれらの者に法律で付与されている立法趣旨は、職務類型上他人の秘密を委託されることが多い職業の者が、有益な職務の遂行に支障をきたさないよう、その者を利用する者一般を保護することを狙ったものです。

 宮崎の事件では、弁護人が被告人から被害者とされる者との性交渉を撮影録画したビデオカセット原本を預かり、複製コピーを捜査機関に提出しそれを使って刑事公判が進められているのですが、検察官がビデオカセット原本の没収を求刑したことを踏まえ、一審裁判所が提出命令を出したところ、それに対し弁護人が押収拒絶権を根拠に抗告したため、最高決に及んだ経緯のようです。

 最高決は「既に複製DVDが公開された刑事公判で証拠調済みであるから、もはやそこに記録された内容は秘密性を喪失した」という理由で、ビデオカセット原本に対する提出命令は正当としました。

 これってでも、押収拒絶権の位置づけを知りたかった法曹にとっては肩すかし決定なんですよね。
 例えば、仮にビデオカセットが8本があるとして、そのうち5本だけ弁護人が被告人の了解のもと複製DVDを提出したものの、残り3本については何らかの事情で複製DVDの提出了解が得られなかったとします。弁護人がビデオカセット8本とも預かっていたします。
 その場合、捜査機関が追起訴するかどうかを検討するために証拠収集しようと残り3本に関する押収命令を裁判所にて獲得したとしても、弁護人は残り3名については押収拒絶権に基づき押収を拒否できるという解釈は依然成り立つわけです、上記最高決の文意からは。
 法解釈としてはありうるんだけど、法律を離れた社会人感覚からはどうもスッキリしない。
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