退職した従業員の残業代に付加される利率は何%か | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 退職した従業員が、在職中に残業をいっぱいしていながら、サービス残業のため残業代がもらえず未払いのままだったと、退職後に残業代請求を行う事態が増えました。依頼を勧誘する弁護士や司書のウェブサイトもいっぱいあります。
 この場合、本来支払われるべき残業代のほか、遅延損害金を加算して請求してよいと法律は定めています。
 今回取り上げるのはその遅延損害金の%は幾らなのかという問題です。

  まず債務に遅延損害金を付するという合意をハッキリした形でかわしていなくても、本来支払うべき賃金債務が本来支払われるべき期限とおりに支払われず遅れてしまった場合、法律はその賃金額に対して一定の割合の遅延損害金を加算して支払うようにとを命じます。

 会社に雇われた従業員が賃金を請求する場面で使う法律が2つあります。
 1つは商法514条です。会社が支払う賃金は商事債務にあたりますので(商法503条)、年6%という商事法定利率を用意しています。
 もう1つは賃確法6条1項です。退職手当以外の賃金について、退職日を始期として年14・6%の加重された利率を用意しています。
 一般に賃確法は商法の特別法と位置付けられていますので、旧来の弁護士は、これまで賃確法6条1項を優先させて、訴状起案の際にはごく当たり前に年14・6%の付帯請求を行い、訴えられた会社側もこの利率の部分を正面から論点に持ってくることをせず、あくまで元本たる未払賃金は幾らかの部分だけ争ってきました。

 ところで、賃確法6条1項の隣にある6条2項には、一定の場合にこの年14・6%の利率を適用しないという除外規定が設けられています。具体的には、除外規定の1つである賃確法施行規則6条4号の解釈について裁判例が分かれているため、今後は労働審判で遅延損害金を請求しない場面などでは、遅延損害金が何%かという、この論点も大きくフューチャーされそうな気がします。

 つまり、賃確法施行規則6条4号は【支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること】と規定されていますが、それは一体どのような場合を指すのかが争われているのです。
 もし賃確法6条1項を適用されれば100万円の元本なら1年間の遅延損害金は14万6000円ですが、賃確法6条1項の適用除外となれば1年間の遅延損害金は6万円で済みますので、元本が大きい場合にはその差は無視できません。

 適用範囲を狭め労働者に有利に解釈しているのは大阪地裁2010/7/15労判1023号70頁です
 
《賃確法6条2項に天災地変その他のやむを得ない事由という文言、賃確法が賃金の支払の確保措置を通じて労働者の生活の安定に資することを目的としていることに照らすならば、賃確法施行規則6条4号に該当するのは、単に事業主が裁判所において退職した労働者の賃金請求を争っているというのでは足りず、事業主の賃金支払拒絶が天災地変と同視できるほどの合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められた場合に限られる

 適用範囲を狭めず企業に有利に解釈しているのは東京地裁2011/9/9労判1038号53頁です
 《そもそも賃確法6条1項の趣旨は、退職した労働者に対して支払うべき賃金を支払わない事業主に対し、高率の遅延損害金の支払義務を課すことにより、民事的な側面から賃金の確保を促進し、かつ、事前に賃金未払が生じることを防止しようとする点にあるが、ただそれはあくまで金銭を目的とする債務不履行に係る損害賠償について民法や商法への督促を定めたものである。
 そうすると、賃確法6条2項や賃確法施行規則6条は、その例外的規定の適用を外し原則的利率に戻すための要件を定めたものであるところ、賃確法施行規則6条4号の内容を限定的に解さなければならない理由はない。
 むしろ利率に大きな隔たりがあることや賃確法6条5号にバスケット条項を設け適用範囲をより広げていることに鑑みると、賃確法施行規則6条4号の除外事由にあたるかどうかは、これを柔軟かつ緩やかに解することが法の趣旨に合致するものである
 このように考えるならば、賃確法6条4号にいう合理的理由とは、事業主が確実かつ合理的な根拠資料が存在する場合だけでなく、必ずしも合理的な理由がないとはいえない状況で事業主が賃金の全部または一部の存否を争っている場合も含むと解するのが相当である。》
 ちなみに東京高裁2014/2/27労判1086号5頁、東京高裁2004/11/24労判891号194頁は、事例判決ながらその説示ぶりからは後者に立脚している感じです

 最高裁は民法468条について過失を含むかどうかという債権法改正で無くなる条文を巡る論点について今頃やっとこ結論を出すよりも(2015/6/1 )、今回取り上げた論点に関する結論をとっとと出してほしいですね
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