従軍慰安婦をめぐる裁判で国が争い方を変えるそうだ | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 例えば、’無実’と’無罪’には差がある。
 無実とは当該犯罪事実が存在しないこと、無罪は当該犯罪事実が存在すると合理的に裏付ける証拠が存在しないことである。
 ドラマ「リーガルハイ」シーズン1第1話でもその差は顕れていた。つまり、被告人が無罪を勝ち取っても、被告人が本当はその犯罪事実はやっていない、無実であることが証明されたとまでは言えない場面もあるのだ。
 
 民事事件でいえば、訴えられた被告が勝訴するためには、必ずしも[原告が訴える事実が存在しないこと=無実]を争わずとも勝利できる場合がある
 例えば、原告にはそもそも被告を訴える権利が付与されていないこと、原告の主張する事実が仮に存在していても既に期間の経過により時効消滅していること、どっちにしたって、被告は原告が訴える事実が真実なのかどうなのかにタッチせずに、勝訴することができる。

 従軍慰安婦を原告とする国家賠償訴訟で、国はこれまで積極的に事実を争う方針でなく、勝訴という結論を得るために後者の方法をとってきた。
 例えば、在日韓国人が従軍慰安婦を強制されたことを理由に国家賠償を求めた東京高裁2000/11/30判時1741号40頁における、国の抗弁は次のとおりであった。どれもこれも法律論である。
1、日韓請求権協定2条1項により完全かつ最終的に解決した。
2、20年の除斥期間の適用は排除されない。
3、国に立法不作為の義務違反は存在しない。
4、そもそも原告が構成する権利の根拠自体が国際法やら国際慣習などハッキリしないものばかりである

 実は上記東京高裁2000/11/30では、国は全く事実の存在自体を積極的に争っていないため、控訴審判決文を読む限り、従軍慰安婦たちの主張をまるまる前提に被害事実があったと認定し、その被害事実のとおりだとしたら日本国に責任が生じる余地もあると言及している。
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 控訴人(従軍慰安婦たち)の従事していた慰安所の設置は、戦地での旧日本軍兵士管理の一環として行われたものであって、旧日本軍と民間業者の関係は、軍の管理する土地における民間の慰安所経営者に対する営業許可という行政処分があったと認められるが、

 現実の慰安所における慰安行為ないし売春行為に旧日本軍の公権的監督が日常的に及んでいたとまでは認められず、旧日本軍と慰安所経営者との間には、慰安所の設備と営業を軍が専属的かつ継続的に利用するといういわば専属的営業利用契約に相当するいわゆる下請的継続的契約関係かあったものと推認するのが相当である。
 また、民間業者と従軍慰安婦との関係は、従軍慰安婦に強制売春を強いる隷属的雇用関係であったと認められる

 また、旧日本軍は、客となる兵士を対象として慰安所の利用規則を作成するなどして、慰安所の利用を事実上管理していたと認められるが、控訴人(従軍慰安婦たち)の所属していた慰安所の場合においては、従軍慰安婦との関係では、従軍慰安婦を直接徴用したとか、これに強制売春を強いるような直接の公権力関係又は契約関係があったと認めることはできず、また、控訴人(従軍慰安婦たち)自身が旧日本軍ないし日本国の機関によって慰安所に強制連行されたり、徴用されたと認めることもできない。 

 そうすると、控訴人ら(従軍慰安婦たち)は、その意思に反して雇用主である慰安所経営者によって従軍慰安婦として雇用契約を締結することを強いられ、隷属的雇用関係の下で、慰安所の経営者及び旧日本軍の管理を受け、劣悪な労働環境の下で、日常的に長期にわたり圓団本軍人に対する強制的売春を強いらていたものであると認められるから
 
 当時の公娼制度を前提として考慮しても、控訴人ら従軍慰安婦を雇用した雇用主とこれを管理監督していた旧日本軍人の個々の行為の中には、控訴人らの従軍慰安行為の強制につき不法行為を構成する場合もなくはなかったと推認される。

 そのような事例については、被控訴人(従軍慰安婦たち)に慰安所の営業に対する支配的な契約関係を有した者あるいは民間業者との共同事業者的立場に立つ者として民法七一五条二項の監督者責任に準ずる不法行為責任が生ずる場合もあり得ることは否定できない
 (なお、旧日本軍の慰安所ないし慰安婦に対する管理監督の関係が軍行政の公権力の行使と認められる場合には、国家賠償法の成立前には民法の不法行為等の規定は適用されないから、右のような不法行為責任を論ずる余地はないこととなる)。

 控訴人(従軍慰安婦たち)は、旧日本軍の慰安所設置とその運営は、従軍慰安婦に対する組織的、集団的強姦行為であったと主張する。
 前記認定事実によれば、その営業の方法は、当時の公娼制度を考慮しても、相当性を著しく欠くが、控訴人の従軍慰安婦としての労働は基本的には売春業者との雇用関係下における売春行為であったと認めざるを得ない。

 ただ、個々の場合の慰安婦の意思やその具体的態様において、強制的姦淫といわれても仕方がない事例もあったと認めざるを得ない(もっとも、控訴人は本訴において右のような個々の場合の不法行為を特定して主張ないし陳述している趣旨とは認められない)。

  したがって、被控訴人(国)は、控訴人らの昭和一三年から約七年間にわたる従軍慰安婦としての労働につき、個々的には民間営業者とともに、民法七〇九条、七一五条二項により不法行為責任を負うべき余地もあったといわざるを得ない
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 東京高裁判決でこう書かれていても国は完全勝訴していたわけで、国は言われっぱなしになるのもそれもよしとこれまで対応していたわけだが、タカ派の安倍総理は事実自体を積極的に争っていく方針に今後転換していくようだ
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150129-OYT1T50125.html

 これまでの訴訟では「狭義の強制でなく広義の強制であっても法的責任が発生する」という漠たる法律構成で緩やかに事実認定してもらい、専ら法律論に終始していたのだが、今後は事実認定の部分もそうたやすい話ではなくなるようだ。
 従軍慰安婦については’新ゴーマニズム宣言’でも結構とりあげられていたが、正々堂々と事実を審らかにしていく方針に転換することは納税者である私にとって歓迎すべき事態と指摘しておこう。
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