少年法61条とインターネットによる加害少年(少女)の情報露呈 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 家裁の審判に付され、又は、少年時の犯罪で公訴提起された少年(少女)については、氏名年齢職業住居容貌などにより、当該事件の本人であることを推知させる記事又は写真を、新聞紙その他の出版物に掲載してはならない(少年法61条)。
 ダイレクトに実名や住居を報道することがNGであることはもちろん、類似の仮名を用いて推知報道することも禁じられている。
 この条文があるゆえ、新聞をはじめとするマスメディアは原則として加害少年の名前も写真も一切報道しない慣行をとっている。

 原則としてという言い方をするのは、新潮社とか講談社とか文芸春秋社は、稀に少年法61条やぶりを確信して、記事掲載することがあるからだ。これまでのところ、TV局は電波免許取消や営業停止のリスクがあるのでそういうことはしていないが。

 この少年法61条の立法趣旨は、憲法で保障される少年の成長過程において健全に成長する権利を保護するとともに、加害少年の名誉やプライバシーの保護を目的とすると言われている(名古屋高裁2000/6/29判タ1060号197頁)。

 かつて大阪愛知岐阜連続殺人事件で週刊文春に仮名掲載された加害少年がマスメディアを相手取って起こした損害賠償訴訟があった。
 一審の名古屋地裁1999/6/30判時1688号151頁が週刊文春に30万円の慰謝料支払を命じ、前記名古屋高裁は次のように説示して30万円の支払を命じた一審判決を維持した。
少年法61条に違反する推知報道は、内容が真実で、それが公共の利害にかかり、専ら公益を図る目的でなされていたとしても、成人の犯罪事実報道の場合と異なり、違法性を阻却されることにはならない
 例外的に、保護されるべき加害少年の利益よりも、明らかに社会的利益を擁護する要請が強く優先されるべき特段の事情が存在する場合に限って、違法性を阻却されるにとどまる。

 週刊文春が上告した結果、最高裁2003/3/14 判タ1126号97頁は、違法性を阻却されるのは<>のような狭い場面に限らず、被侵害利益ごとに公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較考量して違法かどうか判断すべきと説示し、前記名古屋高裁の判決を破棄した。
 差し戻し審の結果、大阪愛知岐阜連続殺人の加害少年の週刊文春への損害賠償請求は全額棄却されて確定したと聞く。
 つまり、少年法61条に違反する報道をしても、マスメディアが即ペナルティを受けるとは限らないことを最高裁は宣言したわけだ。だから、ばんばん推知報道して全く構わんぞという意味までは含んでないにせよ。

 ところで、少年法61条に確信犯で違反するマスメディアがときどきあらわれるのは、少年法61条に罰則が無いこととも関連する
 戦前の旧少年法74条には違反したマスメディアに罰金刑が用意されていた。が、日本国憲法が表現の自由を広く保護していることと調和させるため、昭和23年に少年法をつくりかえる際、罰則を科すことを取りやめたという背景がある。

 そして、少年法61条の名宛人はあくまで出版社である。一個人はそもそも予定していない。昭和23年当時、一個人が全国に情報をたやすく流布できる技術は想定もされていなかったから、当然であろう。

 しかし、インターネットの普及により、一個人が、加害少年の名前も、顔写真も、自宅写真も、経歴も、全国にたやすく流布できるようになった。マスメディアが少年法61条を墨守してもザルで水を汲むような保護状態だ。しかも、インターネットに掲載された情報は、半永久で不特定多数の閲覧に供せられるから、旧来のマスメディアより始末が悪い。

 インターネット時代を迎えた今、少年法61条はマスメディアに限定しない形でかつ発信者に罰則を付するとか何らかの形で実効性を担保させる強硬路線か、それは非現実的であるしマスメディアにだけ縛りをかけることの意味が薄いなどの理由でいっそ少年法61条自体を無くしてよいという現実路線か、そろそろ国会で審議すべき時代ではないか。
 少なくとも少年法61条が保護しようとするモノがたやすく浸食されてしまう環境下で、少年法61条を従来のまま中途半端に残すのは無為すぎるのではないか。
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