DNA鑑定を根拠に親子関係不存在確認請求訴訟はできない | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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http://www.yomiuri.co.jp/national/20140717-OYT1T50074.html
 相変わらずメディアの速報は不正確なので、最高裁2014/7/17 の意味を私なりに説明してみる。
 婚姻中に妻Bが懐胎した子Aは夫Cの子どもと推定される(民法772条1項)。
 妻Bが出産した子Aが、実は妻が婚姻中に不倫していた元彼Dの子どもであった場合、夫Cは「子Aは自分の子どもじゃないんだ!だから、子Aの戸籍の父親の欄から自分を消して真の父親元彼Dに書き換えてほしい、子Aを自分の戸籍から外してほしい」と思うかもしれない。そのとき夫Cはどういう法的手続をとれるか?
 
 民法が夫Cのために明文で用意しているのは、嫡出否認の訴えである。嫡出否認の訴えの場合、証拠としてDNA鑑定を出して問題ない
  しかし、嫡出否認の訴えは夫Cが子Aの出生を知った日から1年以内に提訴しなければならない(民法777条)。
 この民法777条の出訴期間は余りに短すぎると批判されているものの、家庭内の秘密や平穏をできるだけ乱さず、平穏な家庭で養育を受けるべき子の利益が、長期の提訴を許すことで不当に害されることを予防したほうがよいという立法理由を尊重し、別事件の最高裁2014/7/17 でも合憲と扱われた。
 
 従って、子Aが生まれたことを知ってから1年経ってしまえば、そののちに夫Cは子Aが自分の子どもでなく元彼Dの父親だと知っても、もはや嫡出否認の訴えを利用することはできない。
 
 しかし、民法に明文はないが、嫡出推定の及ばない子に該当するならばいつでもだれからでも親子関係不存在確認訴訟を提起して、父子関係を否認できるという運用がなされている。嫡出推定の及ばない子に限っては嫡出否認の訴え以外に方法があるというわけだ。
 
 今回夫Cは「自分と子Aが親子でなく子Aの父親が元彼DであることはDNA鑑定でハッキリしている。こういう場面も嫡出推定の及ばない子として親子関係不存在確認訴訟を使わせるべき」と主張したわけだ。

 それに対し、このたびの最高裁は【嫡出推定の及ばない子に該当するのは、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われているとか、遠隔地に居住して性交する機会がなかったことが明らかな場合に限る(最高裁2000/3/14 判タ1028号164頁】とこれまで言明していたこの外観説は揺るがさず、DNA鑑定などで父子関係の不存在が科学的に証明されようとも、血縁説まで親子関係不存在確認訴訟の利用は広げないことを宣言したのである。

 その理由として、子どもの身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなることにはならないと言っているが、おそらく、血縁説まで広げると、子Aが自分の子どもか疑う夫Cが子AにDNA鑑定などを行うための資料提供を強く求めたり、その結果をもとに子Aを紛争に巻き込むおそれがあるなど、子どもの利益を害する事態が頻発するおそれがあると見通したからではないかと推察する。
 つまり、最高裁は、生物学上の親子であるかどうかという科学的真実よりも、子どもを紛争にやたらと巻き込まないことに保護すべき価値があると判断したわけだ。

 ただし、最高裁といっても、小法廷5人の裁判官中3人の多数意見にすぎず、2人は反対意見=血縁説まで広げるべきという主張をしている。
 反対意見の意味するところは「子どもの利益を保護するとかいっても外観説も一定の限度で子どもの利益よりも真実の父子関係を重視してるじゃん。血縁説は斥けるけど外観説は維持するとか、説得力ないじゃん。両方とるか両方斥けるならわかるけどさ」というもので、理屈から言えば私もこちらに分があると思う。でも外観説を斥けるなら大法廷で審理しないといけないんだよね。多数意見も反対意見も、どっちも説得力のある読みごたえある判決です。

実は実際の事案はさらに複雑で、夫Cと妻Bが結婚中に妻Bが子Aを出産し、その直後に夫Cに実は不倫相手Dの子どもであると告白したものの、夫Cはそれでも自分の子どもとして育てると言ってくれたけど、出産後1年半経ってから夫Cと妻Bは離婚することになり(子Aの親権者は妻B)、妻Bは子連れで不倫相手Dと再婚したものの、子Aの父は戸籍上も法律上も夫Cのままなので、DNA鑑定を添えて、子Aと夫Cとの親子関係不存在確認訴訟を提起したという案件のようです。
 このままだと、夫Cには血のつながらない子Aに対する面会交流権が発生するというのも妻Bの提訴動機だったようです。

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