賃貸借における自力救済条項と弁護士の振る舞い方 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

福岡若手弁護士のブログ「ろぼっと軽ジK」は私です。交通事故・企業法務・借金問題などに取り組んでいます。実名のフェイスブックもあるのでコメントはそちらにお寄せ下さい。

 九弁連主催の2013年夏季倫理研修の民事設問は示唆的だった。
 自力救済が禁止されていることは知識として重々知っている弁護士であっても、ついクライアントである賃貸人の要望に押されて、なし崩しに「やっちまったなぁ~」=クールポコ状態を迂闊に生み出しかねないことから、今回とりあげることにしました。

 元ネタは福岡県弁月報2013年9月号38頁で、少し簡略化してます。
 またAnswerは福岡県弁研修委員会が示している見解ですけれども、それが正しいか否かは実際に懲戒事例として扱われてみないと分からない部分はあります、1つの考え方を示すものとして読んでください。

< アパートの家賃を滞納している賃借人Bがいる。弁護士Xは、賃貸人A社からBの立退手続を依頼された。 >

Q1:XがBに退去催告通知を出す際、A社の強い希望に従って、「任意の退去無きときは、荷物を搬出し、カギを変更する。。。というのがA社の意向です」という表現で通知を発信した。

Q2:XはBと交渉したが話し合いがまとまらず、通知書記載の立退期限にA社従業員とアパートに赴いた。A社従業員とBが押し問答になった末に、Bは「これ以上付き合っていられない」とアパートを外出した。
 A従業員の希望は、この場での荷物搬出とカギ変更だったが、Xは「荷物搬出やカギ変更がいいとはいえないので、実際にやるかどうかはA社のほうで判断して下さい」と述べて、Xはその場を立ち去った。
 そして、A社は自分の判断で、荷物搬出とカギ変更を実行した。

Q3:A社とBの賃貸借契約書には「賃料滞納の場合に、荷物搬出・カギ変更されても賃借人は異議を言わない」なる特約があった。A社従業員は、Bは賃貸借開始時に異議権を放棄したのだから問題ないと信じていた。それについてXは特にA社従業員にコメントしなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
A1:Xの文書は自力救済を予告するもので、違法行為を助長している(職務基本規程14条)。A社の意向による(≒X自身の意向ではない)という間接話法を用いていても、違法行為の助長という点では同様

A2:そもそも、A社従業員による自力救済を予測しながら、漫然とアパートに同行し、しかも、自力救済の可能性があがっていながら現場離脱したという行動自体に、Xの自覚が足りないとの指摘あり。
 同様に「A社が判断して下さい」という言葉は、依頼者が自力救済が可能なものと誤解しても構わないという態度であり、同様にA社の違法行為を助長しているとの評価をうけてもやむを得ない

A3:この特約は自力救済することに、賃貸借契約当初からお墨付きを与えるもので公序良俗(民法90条)に反するものだから、この特約の有無によってXの責任が軽減されるとは言い難い。
 
↓ランキング参加中。更新の励みになります。1日1回応援クリックを
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村