債権者破産が利用されてない一番のネックは予納金 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 破産には主に、債務者(法人・個人含む)自ら申し立てる自己破産と、債権者が裁判所に申し立てる債権者破産の2種類がある。
 平成19年司法統計によれば、自己破産事件15万7245件に対し、債権者破産事件644件となっており、私も債権者破産を破産管財人としても申立代理人(債権者側)としても受任した経験があるが、ごく珍しいことは確かである。

 自己破産のメリットは資金繰りに窮する状況からの開放、債務無しにしての再出発に尽きるのだが、債権者破産という制度がごく少なくとも利用されているのは、債権者に判決取得→強制執行に比べてそれなりのメリットがあるからに他ならない。思いつくのは次の4つである。

 第1に、強制執行をするには判決など債務名義を取得する必要があるが、債権者破産申立には必ずしも債務名義を要しない。つまり、より迅速な対応が可能といえる。

 第2に、強制執行の対象としては債務者の個別財産を特定してこれを行う必要があるが、債権者破産手続決定が出たならば債務者の総資産が引き当てとなる。つまり、債務者の財産隠しによる回収失敗をより防ぐことができる。

 第3に、債権者破産手続開始決定後の破産管財人の、双方未履行双務契約の解除や、破産前に債務者がおこなった詐害行為や偏頗行為に対する否認権行使が期待される。つまり、債務者の引き当て財産の増殖がありうる

 第4に、債権者破産手続開始決定の効果として、債務者に破産管財人に対する説明義務を課したり、破産裁判所に対する重要財産開示義務を課すことができる。しかもこの義務違反は刑事罰の対象とされている。その分、強制執行に比べ、債務者の財務状況や資金の流れを破産管財人に調査してもらい、裁判所を介して公に入手できる

 といいながら、債権者破産の利用件数が少ないのはなぜか。

 1つには、債権者破産申立にあたっては、債務者に対し債権を有していることの疎明に加え、支払不能や債務超過といった破産手続開始要件があることを債権者が証明しなければならないという手間にある

 自分が幾ら債権をもっているか、この証明は契約書だったり納品書だったりで容易であるが、債務者の総負債>総資産であることを資料で疎明することはそう簡単ではない。
 不動産の有無は登記簿謄本という公開情報を使って疎明できるが、預金が幾らあるか、売掛金が幾ら残っているか、商品在庫はどのくらいあるのか、かたや債務者が全体でどのくらいの負債を負っているのかは、外部の者である債権者にたやすく知りうる情報ではないからである。

 そうはいっても、裁判所もその辺りの困難さは分かっており、自己破産に比べると詳細な内部資料の提出は求められず(破産管財人を選任した後で調査させれば済むという考えもあるのだろう)、それまでの債権者との支払交渉経緯などを付加して、支払不能をにおわせる程度の疎明で済んでいるようだ。
 
 もう1つ、債権者破産が利用されない最大のネックは、債権者が予納金を裁判所に準備しなければならない点である。
 予納金というのは、破産手続をすすめていくうえで必要と見込まれる手続費用に充てられ(例えば、いろんな活動をしてもらう破産管財人の将来の報酬)。
 そのほか、予納金を低く設定してしまうと、債権取立の一手段として債務者を威嚇する目的で債権者破産を利用されることが考えられなくもないので、濫用的申立を防ぐため、債権者破産においては自己破産に比べ、同じ負債額や企業規模であってもより高額の予納金納付を求められるのが常態である。

 この予納金が準備できないため、ハートサービス社に対する債権者破産は実現せず(予納金設定350万円)、アフリカントラストに対する債権者破産も実現せず(予納金設定500万円以上見込)、近未来通信に対する債権者破産は実現したが1900万円もの予納金が必要となった。
http://mainichi.jp/select/news/20130420k0000m040135000c2.html

 そんな中でようやく、国庫による予納金仮支弁が日本で初めて、この福岡地裁で偽装質屋の「恵比寿」「ダイギンエステート」で却下されず、初適用されたのである。
http://mainichi.jp/select/news/20130501k0000m040079000c.html
 国庫仮支弁(破産法23条1)とは、裁判所が申立人の資力・破産財団になると見込まれる財産の状況・その他の事情を考慮して、申立人らの利益の保護のため特に必要と認められる場合に発動される。

 国庫仮支弁はあくまで国の税金による一時的な破産手続費用の立替であって破産手続を経て全て回収できることを想定しているようだからポイントは、破産手続によって形成される破産財団によって全額仮支弁額を回収できる見込の疎明が申立時点でできるかどうかあるようだ
 福岡地裁の上記ケースは、債務者の財務状況を外からうかがうことは一般に困難なため、債務者内部の資産によって全額仮支弁額を回収できるのかのの立証がきわめて困難であるにもかかわらず、くじけずその疎明にはじめて成功したものということになる、天晴と思う

 最後に、国民が利用しやすい司法制度を目指して始まった司法改革であるが、LSだったり裁判員裁判だったり利用者に手間や金をかけさせる改悪が中心で(ほぼ唯一の例外が労働審判制度)、実際に消費者被害にあった国民を救済するために金の要る場面へのサポートは、前記ハートサービス社などのケースで分かるようにまるで放置されている。

 真に国民が利用しやすい司法制度を目指すのであれば、国庫仮支弁の制度に広報費をふんだんに使っている法テラスが乗り出すとか、市井の弁護士や消費者被害にあった国民の自助努力にのみ頼る現在のスタイルを改善するよう消費者庁などを中心に検討すべきであろう。
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