ワインが約束とおり保管されなかったときの倉庫業者の賠償責任 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 ワインコレクターXが、業者Yのワインセラーにコレクション800本を月額3万4650円の保管料を支払って保管させていました。
 一般的なワインセラーの説明 http://www.winecellar.jp/whats.html

 業者Yのパンフレットには《ヴィンテージワインを、常に14度前後の温度・常に75%程度の湿度、必要最小限の光。。。などで保管しています》と記されていたので、Xはワインの熟成を楽しみにしつつ、年数回ワインセラーを訪れたりしていました。
 そんなX(の妻)がワインセラーを平成18年6月に訪れたところ、ワインを保管している段ボールが水分を含んで変形して潰れていたこと、そして、ワインセラーの内部に仕切り壁や扉が設けられ、倉庫内の風通しも無くなり天井にカビが発生していることを、発見しました。

 大事な大事なワインを預けていたXは憤慨し、Y業者との対応策協議がまとまらず自宅地下にワインを引き揚げた後、①毀損されたワインの減価分1000万円②これまでY業者に支払った7年間の保管料250万円③ワインのコレクションが時間の経過により熟成するどころか逆に毀損されたことによる精神的苦痛の慰謝料1000万円を業者Yに賠償請求したのです。

 この事件の原告代理人は私と知己はありませんが、ワインにお詳しいらしい札幌の高橋智弁護士がつとめられたようです
 http://www.takahashi-law.com/news/2011/04/post-853.html

 札幌地裁2012/6/7判タ1382号200頁は、業者Yにはパンフレットに記した定温・湿(保持)義務違反があったと認定しながらも、X(の妻)自らやワインの専門家がテイスティングしてみたものの、何か変だなと感じるか感じないか程度のレベルであり、結局、ワインセラーに保管されていたワインの旨味や風味に(減価を裏づけるだけの)変化が生じたかどうかは不明だったという認定の結果として、

前記義務違反によりワインがどのように変化したのか、どの程度質が低下して減価したのか判然としないと減価分全額の請求を斥け
②少なくとも平成18年1月以降、未清算の平成18年9月分までの保管料30万円を返金する必要があると命じ(ちなみに平成18年10月分以降の保管料は任意に業者YからXに返金済みだった)、
③ワインの減価が認められない以上、いかにXがワインに愛着を持っていても、それはワインの状態に対する抽象的な不安にとどまると慰謝料全額の請求を斥けたのです。

 《プロの業者が契約違反をしていながら、ほとんど金銭補償してもらえない》、この結論はワインコレクター感性に真っ向反する結論なのではないでしょうか。
  ワインは風味自体が数値化されていない商品ですので、仮にコンディションの良いワインと化学的数値を対照しても、その数値の差異がどう風味に作用するのかすら原告側では科学的に証明できず、また、民訴法248条には損害の発生自体までは推定機能が無いので、結果、原告Xは泣き面に蜂になってしまったわけです。
  仮に民事陪審があったら、だいぶん結論は違うんでしょうね。


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