犯罪前科を刑事事件の証拠にできるのか | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120907/trl12090722530004-n1.htm
 結論からいえば、例外的場面を除けば、できません論点では、原則論を押さえること、そして、その例外をシッカリ把握することが大事です。司法試験での論文答案展開過程を想い出しました。


 最高裁2012/9/7 判タ1382号85頁は許されていない原則論が採用される理由をこう説明します。

前科は、一般的には犯罪との間で、自然的関連性(=その証拠あることが訴訟で問題となっている重要な事実が存在することの蓋然性を、その証拠がなかった場合よりも高めたり減じたりする関係が成立すること)を有している。

 反面、前科とくに同種前科には、被告人の犯罪性向という実証的根拠の乏しい人格評価につながり、事実認定を誤らせる危険がある

 また、不当な偏見による誤判を回避するためには、訴訟当事者が前科の内容にまで立ち入った主張立証を行わなければならなくなり、その過程で争点が拡散する危険がある。


 従って、前科証拠を被告人と犯人が同一人物であることを証明するために証拠として使用できるのは、①前科犯罪が顕著な特徴を持ち、かつ、②いま起訴されている犯罪と相当程度類似しているため、③前科犯罪自体で被告人と犯人が同一人物であることを合理的に推認させる場面に限られる



 このように、証拠の持つ証明力が証拠に付随する誤判等の危険よりも類型的にまさっているという関係が成り立、これを法律的関連性あるといいますが、前科には法律的関連性なしが原則なのです。

 前記最高裁2012/9/7のほかにも、犯罪前科を刑事裁判で使用してよいと明言したケースが2つあります。

 1つめは、最高裁1966/ 11/22 判タ200号135頁で、犯罪の客観的要素が他の証拠によって認められる場合には、詐欺の故意のような主観的要素を被告人の同種前科の内容で認定してもよいと説示しました。

  2つめは、最高裁1953/5/12 判タ31号67頁で、犯罪事実の立証が終わって、量刑を幾らにするかの情状立証の場面ならば、公務員である被告人に暴行の習癖があることを証明するために過去の類似事実(≒前科)の証明を許してもよいと説示しました。

 このように犯罪前科を使って被告人に不利な事実認定を行うこと、刑事訴訟法は厳しく制限し、裁判所もそういう態度で臨んでいることわかったと思われます。


 ところが、性犯罪などで顕著ですが、性行動の強要がないことや被害者にも落ち度があることを弁護人が反証しようと、被害者の過去の性的行動を追及する姿がときおり見受けられます。

 このような弁護人の行動は、①法律的関連性が実証されていない中で裁判体に被害者に対する不当な偏見をもたらすのではないか、また、②被害者に無用の羞恥心を抱かせたりプライバシーを過度に侵害することになるのではないかレイプシールド法を日本でも導入してルール化を図るべきではないかの意見も出ています。
http://d.hatena.ne.jp/manysided/20101028/1288259834

 レイプシールド法の国内導入にあたっては、被告人の防御権の保護との関係で(例えば尋ねることを全く許さないとすると、弁護側の武器がなくなり、いったん起訴されてしまうと冤罪をくつがえす機会を逸することになる)、即導入でなくさらなる議論が必要と思われます。

 ただ、前科という被告人の過去の犯罪行動歴に対して法が古くから法律的関連性乏しきものと扱ってきたことに比べると、性犯罪被害者の過去の性的行動も等しく、法律的関連性が乏しいといえるのに、法は余りに被害者に無保護すぎ、バランスを失している気がするのです。
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