#668 【マニアな一基】 東電PG鳥羽線No.8 ~2回線片寄せの直角度鉄塔~ | 関東土木保安協会

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北風凍みる上州の冬。
空っ風に吹かれながら見てきたのは、群馬県版鉄塔カードの写真でちらりと出てきた面白い鉄塔です。
こちらは2022年2月の記録になります。


関越道の前橋インターの北にある前橋市鳥羽町。
ここに、鉄塔カードのサイトに掲載されている面白い鉄塔があります。
鳥羽線No.8鉄塔といいます。

▲前橋IC近くの鳥羽(とりば)町にある

大きな鉄塔は上越幹線で、その下に立っているのが鳥羽線です。
上越幹線側が154kV+66kV(将来用)という設計のため、そのさらに下に立つ鳥羽線はかなり低く、周辺環境に配慮しています。
それでも、架空地線もありますし、垂直配列ですし、配電線側の地中化も無いですし、周辺環境と鉄塔とが無理し合わず見事に調和してきれいに収まっています。

▲上越幹線No.81(1983.3,60m)と鳥羽線No.8(1973,23.8m)

鳥羽線側は1973年の建設、上越幹線側は1983年に建てられたようです。
上越幹線が歴史ある送電線のため、こちらが元々立っていて、その上越幹線に配慮した形で低高かつ特徴ある形で仕上がったものとみられます。
その後、83年頃に上越幹線の建替工事が行われ、今の状態になったのでしょう。

▲腕金は垂直配列の2回線を片寄せしている

No.8は鳥羽線の需要家の工場敷地内にあります。
下写真で言うと左側が北側になり、こちら側は電線路は道路に張り出す形で引かれています。
手前が西側で、こちらは敷地内に食い込むような形で引かれています。
電線路が完璧に道路側に張り出していないのがまた面白いですね。

▲道路側に張り出したようなルートを求めた面白い腕金だ

ここまで変わった形の鉄塔にするのであれば、線下用地制約くらいしか考えられないのですが、そこまでシビアにできていない辺り、何か当時の上越幹線側との兼ね合いなどの成り行きがあったのかもしれません。
このNo.8が建っている敷地も同じ需要家のものなので、若番側に引き込みを設けることもできたとも思ってしまいますが、過去の航空写真を見る限り、鉄塔若番側の敷地の方が遅く造成されたように見え、それもそもそも敷地も小さいため、こちらの敷地に変電設備を設けることはできなかったのでは?とみられます。

▲支持碍子が並ぶ腕金側から見ると凄い形である

私みたいな人間は、こんな特異なものが好きなのに「何でこんな変な設計に」と構えてしまうのでこんな駄文を書くわけですが、設備を建てたり持つ人間からすれば、簡素で省力的な物が望ましいわけで、その点ご理解の上見ていただければと思います笑。

道路側に張り出している北側へ行けば、腕金直下から見上げたアングルで拝むことができます。
これまた面白い、この鉄塔ならではの素敵な視界ですね。

▲北側は腕金が道路直上となりこんな視点で拝める

また話を戻してしまうと、ここまで特殊な鉄塔を作るなら、途中から地中引き込みに変えてしまってもいいような気もしますが、あえてそうしてない辺りがまた面白いところです。
考えれば考えるほど面白いですね、鳥羽君は。

▲下段は2回線を引き下ろせるような腕金設計のNo.81

さて、上写真が鳥羽線No.8の北に建つ上越幹線No.81なのですが、下段に施工されている66kV用の腕金を見てください。
相毎で前後方向に形状を変えています。これは引き下ろし可能な設計ではないでしょうか。
この次の老番側の鉄塔では下段併架の設計は消えるため、明らかに鳥羽線の需要家を意識したような設計です。
上越幹線側を辿ると、すぐ北で66kVを分岐しそこから併架できるように設計されているため、後々の系統変更を意図されているように見えます。
(上の方の望遠写真に上越幹線若番側の様子がちらりと写ってます)

▲工場敷地内で2回線を引き下ろす鳥羽線の最終鉄塔No.9

面白いところに来るとたかだか一基二基であれこれ話してしまいます。
若番側に行ってみます。
こちらにも面白い鉄塔がありました。

▲鳥羽線No.7も片寄の特徴ある形状だ

1つ前のNo.7が、同じく垂直配列の2回線並びで片寄せという、アンバランスな特殊鉄塔でした。
どうやってもここは道路上を通したかったのでしょう。
それまでは普通の鉄塔が多くルートもあまり厳しくないのですが。

▲線下制約の関係で道路上を流したかったのだろう

小松台線や富士電機吹上線などを見ると、高さをつけるとかなり塔体へ負荷がかかるのかがっしりした支持物が多いイメージがありますが、この子は見た目はそれほどごつくはないです。



▲鳥羽線No.7

こちらも腕金直下だけは入ることができるので、腕金結界は見拝めます。
振れ止めの支持碍子で離隔距離を詰め詰めにして、恐らくは腕金の張り出しは最小になるようにされていることでしょう。

▲こちらも道路上に張り出している

低圧配電線と並べて撮ってみました。
並べると気付きますね。鉄塔では珍しいようなこの形状も、配電線側からすればよくあるD型腕金と同じなんですよね。
支持物が建っているところから少し離して、かつ縦並びで配線したい。
それをどうやって叶えるかは、技術的、法的観点からの最適解が選択され、今日の日本の風景を描いています。
鉄塔がメインとなる送電線よりもさらに配電線は底無し沼ですね。

▲電柱の低圧配電線とあわせて親子のようだ

最後に、鳥羽線の需要家はLIXIL前橋工場なのですが、この工場は2023年3月に閉鎖が予定されていると知りました(文末リンク参照)。
となると、需要家とも契約解消となり、跡地がどうなるかにもよりますが、鳥羽線の存在意義も一旦消えることになります。
また、上で触れた上越幹線側の下段の66kV準備を見るに、系統上の問題がなければ、鳥羽線無しにこの地への需要家対応の引き込みは容易に対応できそうです。
そもそも借地の話などある中、昨今の情勢の変化もあり保守費用にはシビアになっているのはあるはずで、支持物数は減らしたいのが所有者側の思いでしょう。
鳥羽線の最期は見えてしまったようなものではないかとも思えます。
はて、需要家撤退により鳥羽線は遊休設備として残置となるか、全撤去となるか。
はたまた跡地の開発により再活用されるか、新線からの供給となり不要となるか。
この辺の動きが出てきそうな、そんな2023年です。



〈参考〉
・TRANSMISSION TOWER : 鉄塔カード