#600 【一塔両断】 国土交通省 厚木無線中継局/厚木パノラマタワー ~悲運の展望台~ | 関東土木保安協会

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あれこれ呟き投稿番号は600になりました。
関東土木保安協会です。


今回取り上げるのが、電波塔なのにタワーという、まるでテレビ塔のような華やかなイメージを抱かせる建物ながら、悲運にも立入禁止となってしまった塔になります。
それでは、見ていきましょう。


神奈川県厚木市。
相模川、中津川、小鮎川のちょうど三川が交わるこの地に、電波塔がありました。
国土交通省関東地方整備局の、相模川水系広域ダム管理所、厚木無線中継局です。
厚木無線中継局は1997年に完成した施設で、宮ヶ瀬ダムの水量調整のため建設されました。
電波塔としての機能を併せ持つため、高さは50mの鉄塔を有し、鉄塔の21mの所には展望台が設置されています。
無線中継施設なのに展望台があるとは、テレビ塔を思わせる素敵な施設ですね!

▲厚木無線中継局外観

しかしながら、タワーとは名乗っているものの、なんというか活気がありません。
少し引いて見るとこの通り、高いフェンスに阻まれて中に入ることはできません。
曜日や時間を限定して開放しているのでしょうか?
いいえ違いました。
この厚木パノラマタワー、実はかなり前から閉鎖されてしまっていて、関係者しか入れないのです。

▲フェンスがあり一般者は中に入れない

立入禁止となったのは治安の悪化による設備の損壊が発生したからです。
施設に落書きをされたり、なんと焚き火まで行われたりと無法地帯となった結果、2004年に一般者の立入が禁止されました。
このブログで取り上げる施設の中では、結構な黒歴史です。

▲螺旋階段にはもう誰も入ることがないだろう

その犯罪者達の痕跡は随所に残ります。
階段途中には無数の落書きが確認できました。
開放されていた時には、消去と被害発見のいたちごっこだったことでしょう。
今は立入が禁止されているため、景観上最低限問題ない範囲で消去し、このような目立たない上部については残しているのでしょう。
消去するのは費用もかかります。

▲随所に消されずに残る落書き

それにしても、細かい掲示から案内板まで、酷い被害状況です。
伺った時以上に、まじまじと写真を見て記事を書いている今の方が心が痛みます。
よく公園などで酷い落書き被害がありますが、あれを見ているようです。
落書きは見る者を不快にする。これは厚木市の落書きをさせない行動指針か何かに書いてあった文言でしたかね。。私もそう思います。

▲階段から展望台のほか、入口付近の被害も酷い

展望台は鉄塔に合わせたように円形です。
落下防止のフェンスがありますが、腰より上くらいは窓もなく、開放的なテラスだったようです。
登れる時に伺いたかったですね。
細かい屋根の骨組みにも落書きが確認できます。
余白があれば至るところ、という表現がそのまま当てはまるくらいです。

▲展望台部分。こちらも落書きが残る

こちらはアンテナのプラットフォームです。
鉄塔と展望台と同じ円形でコーディネートされた青色の2段は、アンテナもなく寂しい姿です。
国土交通省の施設であれば、地上の光ファイバー網が充実したいまでも、バックアップも兼ねてかマイクロ波アンテナを搭載している電波塔も多い中、ここは載っていませんでした。

▲電波塔部分。青色で環境調和色となっている

昔の様子は拝めないものかと、Googlemapで見てみたところ、ストリートビューで少し前の姿を見ることができました。
これを見ると、しっかりとマイクロ波アンテナが確認できます!
飾りなんかじゃなく、ここはアンテナの設置場所だったのです。

▲ありし日の電波塔(Google Map ストリートビュー機能より)

上のストリートビューの様子をよく見ると、電光掲示板の部分にも落書きがされているのがわかります。
いやいやいや、数百万なんかでは買えないような代物なんですが、お分かりなんですかね。。

そして目の前の電光掲示板と比較すると…あれ、形が違います。
これ、架台がピカピカで、どうやら最近昔のものから置き換えたようなのです。
電気製品ですので、期待寿命がおよそ15年~20年くらいなんでしょうか。
見苦しい変わり果てた姿を見なくてすむようになったということはよかったですが、何より緊急時に告知を行うであろう表示部に損壊を加えるとは、適切な水害管理上も宜しくなく、その点から見ても安心できます。
ここだけは、タワーが少しだけ元気になっているように見えました。

▲新しい電光掲示板は架台の鋼材もピカピカだ

落書き被害というと、田舎に住んでいた私の幼少期の記憶では、その昔(80年代-90年代)は相当色々な公共空間にペイントや傷がありました。
公園やガード下は落書きで埋められ、小さい頃は治安が悪いようなイメージに萎縮していた記憶があります。
電車のサッシには相合い傘の傷が彫られ、ファストフード店のテーブルには学校名や学生の名前の傷が彫られ、トイレには油性ペンで電話番号が書かれていたものです。
たった20年前の話なんですが、それが当たり前だった感覚から人気の怪談系ドラマの「世にも奇妙な物語」では「トイレの落書き」という話が作られたほどです。
その話は駅の公衆トイレに無数の落書きがあり、その内容をもとに主人公が巻き込まれていくストーリーになっていました。
今では、治安が悪そうな駅のトイレに入っても、落書きよりトイレットペーパーがないことにショックを受ける方が大きいほどで、飲食店などでもテーブルの損壊はほとんど見ません。
一部の大衆の良心が増えたのか、落書きよりも他の行動をとるようになったのかわからないですが、面白く喜ばしい変化だなと思いました。

▲見物客が誰もいなくなったタワーの敷地内

そんな中、厚木市自体では落書き被害がまだまだ多いようで、市では「落書きをさせないまちづくり行動指針」を策定するほどです。
私も以前車で市内を通過した際に、道路のアンダーパスなどで派手な落書きをよく目にした記憶があります。
恐らく、この令和の今タワーを開放したとしても、まだまだ施設損壊のリスクがあるのではないかと思います。
ふと振り返ればあちこちで落書きは減ったよな…と思いつつも、この地ではまだまだそうではなさそうな話を見てしまうと、このタワーが再び開放されることはもうないのかな、とも思えてきます。

▲お洒落な街灯。普通の同省の一無線施設では見られない凝った意匠だ

仮に落書きが減ったとしても、焚き火なんてされたらそれこそ危なっかしくて、河川の通信施設へのダメージがあろうものなら目も当てられないですね。
立派な階段も手すりも、関係者以外はもう誰も触ることも登ることもできないのかもしれません。

▲昔はこの立派な階段を登ってタワーに向かったのだろう

建物を見てみます。下部の建物は八角形です。
角を落としたのかな?と思わせるデザインと、ツートンカラーの配色で、優しい印象を受けます。
国交省の建物感ある佇まいですが、やはり凝っています。
明かり取り用なのか小窓が散らされた壁面です。

▲明かり取りの窓だろうか

敷地内にはポールが並んで置いてありました。
フェンスができる前は、敷地の境はこのポールしかなく、管理車両が出入りするときはこれを抜き差しして運用されていたのでしょうか。
今ではフェンスが立っているため、常に抜きっぱなしでフェンスのゲートを開閉して出入りしているようです。
なんとも悲しい光景です。

▲車両進入防止用のポール

展望台の派手な落書き被害。
有名なところでは、同じ神奈川県の湘南平テレビ塔があるかと思います。
あちらもフェンスには愛の証の南京錠が結ばれたり、派手な落書きがされたりと酷い有り様です。
しかし、現在も立ち入ることができるのは、隣接地が公園であり監視の目が多少はある点や、南京錠の問題を恋人の聖地として認め専用のモニュメントを設けることで、訪れる公衆の誘導を図っている点などが影響しているのではないでしょうか。



公に開かれた、明るい公共施設。
人を呼ぶ魅力がある公共施設。
縁の下の力持ちとなるインフラ施設は地味で理解もされにくいため、あの手この手で様々なアピールをしてその必要性を訴求していく事が求められ、その結果多くの人が訪れようとする施設が完成します。
しかし、その目論みを通り過ぎて、招かざる無法者達を呼んでしまうこともあります。
何故この建物は存在するのか?
この建物は重要なのか?
この建物は誰が管理しているのか?
この建物でこのようなことをしていいのか?
まるでイタズラ大好きな小学生への問いかけのようなのですが、もしこのような問いかけの答えがわかった上で損壊へ進むような方々がいるのだとしたら、きっと一部の開かれた空間への光はまだまだ降ってこないかもしれません。




〈参考〉
・相模川水系広域ダム管理所 : ダム管理について 


・厚木市河川みどり部河川ふれあい課 : 相模川厚木市水辺拠点創出基本計画(pdf)