時計はもうすぐ5時になろうとしていた。
4時頃から鈍痛のような感覚があったけど、それがどんどん強くなる感じがしてきた。
時折見にきてくれる看護師さんに訴えてみる。
私 『ちょっとなんかさっきからお腹が痛いんですよ〜』
看 『そっか多分ね〜さっきのエコーでもまだ血腫のようなものが見えてたのでそれを異物として出そうとする痛みなのかな〜と思いますね〜それか赤ちゃんが出てくる痛みかも知れないけどお尻の方に違和感とかないですよね?』
いや、もう結構お尻というか下の方が痛くなってるんやけど…お尻に違和感はないしいきみたくもないからもうすこし様子見てみよう。と心で思う。ガマンしよう。でも痛い。
AM5:30 ものすごく痛い。そうや!時間を測ってみよう!携帯を手に痛くなった時間、実際に痛い時間、痛くない時間、全て測ってみる。
…どう考えても1分間隔。1分おきに痛みが来て、2、30秒痛んでからまた1分おさまる。
たかが血腫が出てくる為にここまで間隔の波続く?4人の子を普通分娩した時と何一つ変わらない、痛みも何もかも。
むしろこんな短い間隔ですごく痛いのが何時間も続いている訳だから今までの出産よりも苦しい。
通常それほどの短い間隔になれば今までならすぐ産まれて来ていたから。
様子を見に来てくれた看護師さんに再度訴える。
だけど看護師さんもあのエコーからこんなに早い展開は考えられなかったようで『痛いね〜…でもどうする事も出来ないから…』と呼吸法を促してくれる。
私は痛みの中、口から息を吐くことに集中しながら心の中でこれは血腫なんかじゃないとずっと考えていた。
気づけばAM7:30。時計を見て驚く。
もうこんなに長い間1人で痛みと戦ってるのか…。
病院のベッドが壊れてしまいそうなくらい強い力で握る。痛みの間は深呼吸して落ち着いたと思ったらすぐにまたとてつもない痛みが押し寄せる。
このままでは気が狂ってしまう。
母に報告を兼ねてLINEする。毎回出産の時は本当に母の存在が心強いから。
でも日曜の早朝既読にはならない。
痛みと痛みの間があまりに短すぎる。何度測ってももう何時間も1分間隔のまま。
だけど精神がもう持たない、痛すぎる、これは絶対におかしい。
1人静かに何時間か耐えたけどさすがにナースコールを押した。
看護師さんがすぐに来てくれた。
看 『やっぱり痛い〜?』
私 『これはもうダメです、耐えられない』
看 『分かった、そしたら一回先生にエコー見てもらいましょうか』
先生が来るまでの間もベッドで静かにのたうちまわる。
その間看護師さんが声をかけてくれて腰をさすってくれる。
さっきまではひとりきりで耐えていたから、看護師さんの声かけがすごく心に沁みる。
数人の先生、看護師さんと共にエコーの機械がやって来た。
ちょっとエコーの間まっすぐ向いてね〜と言われても痛みが来てる間はそんな事出来る訳ない。
体をよじりながら必死にエコー可能な体勢に持っていく。
エコーに映るかんちゃんを見て数人の先生、看護師さんまでもがあ〜と声を漏らす。
先生 『あ〜ダメだもう出て来ちゃってる!yaaiさん、yaaiさん、非常に残念だけれどもごめんなさい、もう止められない。』
ふとエコー画面を見るとかんちゃんが頭を下にして斜めに映っている。私は痛みのピークの中、分かりましたと答えるより他がない。
痛みがおさまる数秒の間に、こんな時他のお母さんは嫌だ嫌だってなるのかな、私は死んでもいいからお願い、どんなに痛くてもいいからってそういう風になるのかなってよぎった。
私は母としてとても冷酷な女だ。自分のこれ以上の痛みに比例してかんちゃんがもう助からないことを受け入れた感じがあった。
今生きてるんですかって聞けなかった。
今起こっている事を必死に対処していた。
先生の誰かが『ご主人をすぐに呼びましょうか』と声をかけてくれたけど、『大丈夫です、ゆっくりで』と答えた。こんな状況見せられない。
トラウマになってしまうかもしれない。
お願いだから、全て終わってから来て欲しいと心で願った。
エコーをみてしばらくした頃に『ブチっ』と何かが溢れた。
看護師さんが誰かに時間を見て!と叫んでいる。かんちゃんが出てきた?
私 『赤ちゃん?』
看 『ううん、今のは破水ですよ、だけど赤ちゃんもうすぐそこまで出てきてくれてるからね、お母さんもう少しやからね』
泣けて来る。かんちゃんはもう助からないのに、声かけてくれる言葉は、無事に産まれて来る赤ちゃんの時のようで。
かんちゃんがまだまだ小さいから、張り裂けるような痛みはないけど、自力で出てきてくれるチカラもないから、いきみ続ける。
もう生きてないかもしれないけど、通常のお産の時は無駄なところでいきむと赤ちゃんが産道で締め付けられて苦しくなるからといきむタイミングは本当によく声をかけられる物だからいきむのも怖い。
時折助産師さんが指を膣内に入れて回し確認する。
いろんな意味で精神が崩壊しそう。
それを見兼ねて1人の先生が痛み止めを使いましょうかと提案してくれた。
私はすぐさま頷いたけど、これで、ああ本当にかんちゃんはもう助からないんだなと思った。
普段のお産じゃどんなに痛くとも、こんな事絶対に提案されない。
痛み止めの点滴が身体に入ったのか分からないくらい同時期に4度『ブシャッ』という感覚とともに何かが大量に溢れ出た。
もう一度助産師さんが時間を見て!と叫ぶ。
3回目の何かが出た感覚の後、すごく楽になったのを覚えているからきっとこの時にかんちゃんが産まれて来てくれたんだと思う。
助 『9時9分です!赤ちゃん産まれたよ〜yaaiさん〜!赤ちゃんこっちで綺麗にするから一旦お預かりさせてもらいますね〜』
産まれてすぐの我が子を見てもあげられなかった
でも、涙も出なかった
達成感もない
まともに痛みを受けていたこの身体でさえも
まるで他人ごとのように感じている
器具でガチャガチャと、まだ胎盤の一部が残っているからとかき出すような音も聞こえたように思うけど、どこに思いを、思考を持って行けばいいのか本当にやり場がないとはこの事を言うんだなあと絶望したのを覚えている。
