良識の府参議院は、直ちに臓器移植法改正案を可決し、小児の命の救済を


わたしは、国際比較医事刑法研究者の立場から、80年代における海外臓器移植実態調査研究を行い一貫して「脳死肯定」の立場で論陣を張って臓器移植法改正案のA案に賛成してきた。移植法が97年に成立して12年が経過しているのに、脳死者からの臓器提供は、僅か約80件に留まっている。同じく移植法が97年に成立したドイツでは年間約4,000件以上の臓器提供者がいて、すでに5万人近い人の命が救われている。わが国も海外渡航移植を人道的見地から黙認したり、闇ルートで臓器を買いあさる臓器密売組織犯罪グループを放置したりしている現状が、結果として、お金のない海外の患者の命を日本人がその札びらで奪っているのである。「脳死を人の死」と認めない移植反対論の審議委員が日本の臓器移植の発展の大きなネックになっている。自己決定権は、個々人に与えられた権利であり、脳死反対論者が他人の権利(善意で臓器を提供する権利)について、とやかく言う権利はないはずである。脳死肯定論者は、この移植法により脳死否定論者の自己決定権を奪う積もりは全くない。上記のような国際的恥辱行為の原因の一つに、実質的に「臓器移植禁止法」となっている現行法の問題をどう解決するかがわが国の政治家(立法者)の責務である。この改正案を政局の具にしたり、医学の進歩を認めず、旧態依然の政治イデオロギーで「人の命」を弄ぶ反対論者には、立法者に対する国民の信頼はもとより国際的信頼を得られないであろう。廃案だけは回避したい。ドナーカードを持たない提供者でもその忖度で提供意思を承認するA案を一日も早く成立させ、人間の尊厳と個人の自己決定権の尊重を認めている先進法治国家の仲間入りを果たすべきである。それこそが新「民主党」が掲げる「友愛」「人命尊重」の政治理念に資するものである。

2009年6月27日


加藤 久雄(弁護士・元慶應義塾大学教授)





臓器移植法改正案のA案に賛成。

移植法が97年に成立して12年が経過しているのに、脳死者からの臓器提供は、僅か約90件に留まっている。同じく移植法が97年に成立したドイツでは年間4,000件

以上の提供者がいる。すでに5万人近い人の命が救われている。わが国も海外渡航移植をしたり、闇ルートで臓器を買いあさり、そのことによりお金のない患者は、日本人により命を奪われているのである。「脳死を人の死」と認めない移植反対論者が日本の臓器移植の発展の大きなネックになっている。

自己決定権は、個々人に与えられた権利であり、脳死反対論者が他人の権利について、とやかく言う権利はないはずである。

この改正案を政局の具にしては、相変わらず立法者に対する国民の信頼は得られないであろう。改正案を一日も早く成立させ、先進国の仲間入りを果たすべきである。加藤 久雄・弁護士(医事刑法)

今からでも間に合う「裁判員制度」実施の延期を

裁判員制度が21日にスタートする。国民の7割以上が制度導入に消極的であるにもかかわらず何故強引にスタートしなければならないのか、人道主義的民主主義的刑事政策論を展開している筆者には理解できないところである。筆者は、死刑廃止論の立場から国民に「生命か自由かの『踏み絵』をさせるな」と論陣を張ってきた。そして、国民参加による新しい刑事裁判制度は、重大な「刑事事件」に限定して、職業裁判官3人、素人裁判官の裁判員6人の計9人の裁判官で構成され、「死刑」判決も9人の裁判官の多数決で決まる。しかも、各裁判官の意見は匿名性が維持され、民主主義の少数意見の尊重という大原則は無視される。これまでの刑事事件での「起訴前鑑定」や起訴後の「司法鑑定」は、いずれも法律のプロを相手にしたものだからこそ、判例では「心神喪失」「心神耗弱」は裁判官の判断事項であるとされて来たのである。しかし、殺人事件の精神障害被疑者の約86パーセントが不起訴処分になり、裁判員制度の対象事件にならない。アメリカのように、「金持ちは精神病院へ」「貧乏人は死刑か刑務所へ」という差別的裁判が横行することになる。また、司法精神鑑定医には、死刑が相当と思われるような重大事件にかかる「司法精神鑑定」をめぐり素人裁判官(裁判員)6人を説得できるような鑑定の簡易化・平易化が要求される。これでは、刑事裁判の科学化・客観化に悖るだけではなく、実体的真実発見の原則が形骸化され、被告人の公平な裁判を受ける権利が侵害される。弁護人(とくに国選弁護人)は、9人の裁判官、数名の検察官、被害者の遺族(被害者側の弁護人)など10数名と時間とスタッフの不足のため不十分な証拠資料を基に弁護活動を展開しなければならない。強大になりすぎた検察官の「起訴便宜主義」の抜本的改革(例:起訴法定主義への転換)がない限り、「有罪」率100%のセレモニー裁判という検察不信は払拭されないであろう。この裁判員制度が小泉路線の民営化政策華やかなりし頃の産物で、刑事司法の民営化であるとすれば、アメリカナイズされた小泉路線に対する反省が生まれ、立法府も大きな転換期を迎え政治情勢も激変しようとしている。解散・総選挙も間じかである。その際に、裁判員制度、死刑制度の是非について国民投票を行い、民意を反映できる制度設計が行われるまで制度の延期を提案したい。

(加藤 久雄・弁護士・元慶應義塾大教授・刑事政策)