宗玄武は海難事故で記憶をなくしている、卑弥呼の使者として中国に向かう途中に海西県の劉備一族の劉美麗に助けられた・・・
美麗「……ひどい傷。これほどの深手を負いながら、暗い海を渡って、どうしてこの海西の地に流れ着いたのですか?」
美麗「あなたは誰……? 纏っている鎧も、その顔立ちも、中原の人ではないのに。……不思議ね。初めてお会いしたはずなのに、その苦しげな吐息を聴いていると、私の胸まで張り裂けそうになる。まるで、ずっと昔から、あなたの帰りを待っていたような……そんな懐かしい香りがするのです」
美麗「父上はいつもおっしゃいます。『絶望の淵にこそ、天の意志がある』と。もし、あなたがこの嵐を越えて私の前に現れたことに意味があるのなら……お願い、死なないで。目を開けて、私に教えてください。海の向こうにあるあなたの物語を。そして、私がなぜこれほどまでに、あなたを放っておけないのかを」
玄武:「なぜだろう……美麗様、あなたの髪の香りを嗅ぐと、私は見たこともないはずの、黄金に輝く稲穂の国と、そこに立つ一人の女性を思い出す。胸が張り裂けそうなほどに」
美麗:「それはきっと、あなたの魂が、私を呼んでいたからです。海の向こうのどなたかではなく、今、ここにいる私を」
劉美麗「父上、失礼を承知で申し上げます。こちらが、海西の浜辺で私が救い、そして我が軍の窮地を、その身一つで救ってくださった宗玄武殿です」
劉備(静かに、しかしその双眸で玄武の魂を見透かすように見つめる)
劉美麗「彼は海の向こう、倭国者でありながら、記憶のすべてを波に置いてこられました。……ですが、父上。私は、彼の中に流れる『懐かしさ』を知っています。それは、父上が掲げる『仁』の志とも、亮が描く『理』とも違う……。民の悲しみに寄り添い、理不尽な暴威から私たちを護り抜く、真の英雄の鼓動です」
玄武「……名もなき流れ者に過ぎぬ私を、娘御は『希望』と呼び、救ってくださいました。劉備殿、あなたの掲げる平和が、この方の瞳を曇らせぬものであるならば、私はこの腕を、あなたの盾とし、剣といたしましょう」
劉美麗「関羽叔父様も、張飛叔父様も、彼の武勇には敵いませんでした。……ですが、私が彼を父上に引き合わせたのは、強さゆえではありません。彼こそが、父上の目指す泰平の世に、なくてはならない『魂の守護者』だと確信したからです。どうか、彼を信じてはいただけないでしょうか」
張飛「……おい、兄貴! 納得いかねえ。あの野郎、何なんだ! 俺の蛇矛を片手で受け流しやがって……。この張飛様が、一度も掠りもしねえなんて、天地がひっくり返ってもあり得ねえはずだ!」
関羽「……騒ぐな、翼徳。あの方は『強い』のではない。我らとは見えている世界が違うのだ。……私の青龍偃月刀が空を切り、まるで見えない壁に押し返されるような感覚、お前も感じたはずだ」
張飛「ああ、感じたよ! 殺気じゃねえ、何かもっと冷てえ……海の底に引きずり込まれるような妙な気配だ。兄貴、あいつは本当に人か? 呂布の奴まで、あんなに大人しく引き下がっちまって……」
関羽「呂布は、力でねじ伏せられたのではない。自らの『武』が、あの男の『玄(静寂)』に飲み込まれたことを悟ったのだ。……翼徳よ、我らは劉備兄者のために命を懸けると誓った。だが、あの玄武が美麗様の傍にいる限り、我らの武勇さえ不要かもしれん……。それが、何より口惜しく、そして……心強いのだ」
張飛「ふん、面白くねえが……兄貴がそう言うなら、そういうことなんだろう。だがよ、あいつが美麗様を泣かせるようなことがあったら、その時は相手が神様だろうが何だろうが、俺の蛇矛で風穴を開けてやるぜ!」
関羽「……その意気だ。我らは我らの道を行く。だが、あの男の動向からは目を離すな。彼が龍となるか、嵐となるか、まだ誰にも分からぬのだからな」
呂布「……まさか、この呂布が、手も足も出ずに敗れる日が来ようとは。お前の剣、それは武術などではない。理を超えた、荒れ狂う嵐そのものだ」
玄武「……」
呂布「この俺様を軽くあしらうとは……宗玄武、お前の前では、我々の磨き上げた武勇はただの子供騙しか。……いいだろう、敗北を認めよう。この呂布、今日を以て『天下無双』の名を返上する」
玄武「……」
呂布「だが、お前がその強さを持っているからこそ、俺は安心した。……玲綺を頼む。あの子は私の娘だ、並の男では手に負えん。お前のような『化け物』だけが、あの子を幸せにできる唯一の男だ」
呂玲綺「……父上があれほどまでに、他人の武勇に惚れ込む姿を見たのは初めてだわ。関羽や張飛を子供のようにあしらうなんて。あなた、本当は人間ではなく、海の向こうの『神』か何かなの?」
玄武「神などではない。ただ、守るべきものを失った過去があるだけだ。この腕に残る力は、かつて守りきれなかった者のための祈りに過ぎない」
呂玲綺「『守るべきもの』……。今のあなたには、この中原に、その守るべきものがあるというの? それとも……まだ、海の向こうの記憶を追いかけているのかしら」
玄武「記憶は波の彼方だ。だが、私を救った温もりや、今ここで私に酒を注ぐあなたの手の震え……それは確かだ。玲綺、あなたの槍は鋭いが、その瞳の奥には父君とは違う『優しさ』が眠っているな」
呂玲綺「……ふん、お上手ね。そんな風に女の心まで射止めるなんて。父上は『今すぐ婚礼を挙げろ』と息巻いているけれど、私はまだ、あなたの武の全てを知ったわけじゃないわ。……今度、手合わせ願えるかしら? 武器ではなく、あなたの『心』がどこにあるのか、確かめたいの」
呂玲綺「……私の負けね。あなたにはやはり武神が宿っているのね・・・」
女王卑弥呼・・・
















