今日はDさんの分析に戻ります。すこし長い話になりますが、お付き合いくださいね。

ぼくはこの方がずっと定型なのかと思っておりました。周囲の方とのコミュニケーションの様子を見ても、この方に発達障害の傾向があるというのが信じられない気持ちです。しかし、そこを考えていくと、発達障害としての因子を、脳に遺伝的にもっていたとしても、成長発達がそれを凌駕してしまう可能性について、考えるところがあります。そして、そのことがちまたで言われるところの「最近、発達障害が増えてないか?」という話に対するアンサーになっているように感じるのです。今日はそのあたりをお話していきたいと思います。


この記事は、視知覚認知について

定型と発達障害を比較した連載記事です

【目次】はこちら


さて、今日は先に結論を書きます。この記事でお話したいことは、

昨日の記事にも書いたこと なのですが、

今から30~40年前の日本には、

世間やご近所にあたたかいコミュニティーがあり、

そうした環境の中で、苦手があったり、ちょっと困った子達であっても、

周囲が受容し、抱擁出来る環境があったのではないか・・・ということです。


そして、ここからは仮説の域を出ませんが、

そして、現代はそうしたコミュニティーがー失われたことで、

障害因子が表出している子が多くなることで、

あたかも発達障害が増えたように見えるのではないか・・ということです。

Dさんの認知分析の中で、そうした当時の成長の可能性を感じるのです。

それでは、本題に入りたいと思います。

まずは、Dさんご自身の弁をお借りして、絵を認知していった時の様子からです。

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①まず、中央に何かを持って、
誰かに話しかけている女の子が目に入りました。
②女の子の表情がとても生き生きしていて「何か嬉しいことがあってそれを誰かに伝えているのだなあ」ということがわかりました。
③女の子の周囲に「大きなサンタさんの靴下」が数枚と
 女の子の足元には、プレゼントと思われる品物が散らばっていて
 サンタさんからのプレゼントは1つだろうから
 「サンタさん+家族・知人」からのプレゼントだという解釈をし、
 この女の子は、クリスマスプレゼントをいただいて
 喜んでいたのだとわかりました。
④(サンタさんのプレゼントは「クリスマスの朝に開封」するので、
 写真からの情報でなく、ストーリーの流れとして)
 「クリスマスの朝」と判断しました。
⑤(「クリスマスの朝ならば・・・・
  クリスマスツリーがあるはず!!」とツリーを探しました・・・)
 ツリーの代わりに「クリスマスリース」を発見!!
 何でツリーがないのよ~ と、ぶつぶつ・・・
⑥(で、「中央の女の子は誰に話しかけているのかな?」
 と視線の方向を見ると)
 右側になんか違和感のある赤色のストライプの生地が見える・・・
 でも「大人のパジャマの足元?」
 「家具にも見えないわけじゃないけど・・・」
 「パジャマだとしたら・・・」このパジャマの先に上半身をくっつけたときに、
 お子さんの視線の先と一致しない気がするなあ~
 ソファーに座ったお父さん(?)と、
 そばにもう一人大人(お母さん?)、2名の大人が居るのかなあ??
⑦(⑥で「パジャマの柄かも?」と思ったので、女の子の服装を確認)
 でも、この時に、女の子の服装がパジャマである
 という認識を持った記憶が残っていない・・・・
⑧あちこち見ているうちに、
 雪だるまのぬいぐるみがあることは認識していました。
 でも、雪だるまの右側にある白いものは「視覚には入っていた」ものの
 「ストーリー上大きな意味はなさそう」ということで、
 何であるかをじっくり見ることはしませんでした。
 そして「緑色の袋!」こっちも意識していなかった。
 そっか~ここから何点もの靴下の中に入っているプレゼント出したのかあ~
 こっちは、強く視界に入っていた記憶がないなあ(パジャマと同様です)
 やはり、「ストーリー上意味はない」と勝手に判断したのかも知れません。

所要時間:③までが5秒以内、④~⑧までで10秒くらい?(、、、かなぁ?)


【上記を書き出して、気付いたこと】
※他の方が見えていた「女の子のパジャマ」に気がついていなかった・・・・こと。
(今見直したら「パジャマ」でした・・・)
自分の視覚情報で足りないものを、
 ストーリーを組み立てて補足
 (視覚で再確認・ストーリーの再構築)する習慣があること。
 (多分、実生活では「音」も結構大切な補足道具・・・かも。
 音を聴いて参考にすること多いですってことかな

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こうした内容だけから判断しても、十分な認知と想像力を働かせてらっしゃる上に、所要時間も短く(ただ、認知プロセスの内容からして、実際の所要時間は申告の倍くらいはかかったのではないかと言う気もします。)、定型的な認知の可能性を感じます。あえて言えば、「自分の視覚情報で足りないものを、 ストーリーを組み立てて補足 (視覚で再確認・ストーリーの再構築)する習慣がある」という言葉でしょうか。この言葉をぼくは以前、ある方から聞いた事があるのですが、それは当事者の方でした。でも、そうして考えてみると、うまく言葉でいえないのですが、上記の認知プロセスにおける思考に、少し発達的な雰囲気を感じるところもあります。

それで、もうひとつ気になった、「多分、実生活では「音」も結構大切な補足道具かも」について、Dさんにメールでもう少し詳しく聞いてみました。返信はこうでした。

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私の場合は、音に限定して言えば、
テープレコーダーで記憶しているような印象なのです。
ですから、質問に対し、
聴いたことをそのまま再生する能力はあります。
音は結構聴ける方だと思っているので、
音を補足することはないと思っているけど・・・
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ぼくはこのメールを頂いて、大変驚きました。

こうした認知の仕方は、聴覚優位の発達障害の当事者に、

よくみられる傾向だからです。

「聞いた事をそのまま再生する能力」というのは、言い換えると、

「聞いた記憶を要約して記憶するのではなく、

 そのまま録音したように記憶する」という事なのだそうです。


定型の記憶と言うのは、整理整頓され、

インデックスを着けて、分類されて保存されるそうです。

その分、検索速度は速く、事実は般化され、

抽象概念として活用が利きます。

そのかわり、細部の記憶については、非常に曖昧です。


反して、発達障害の記憶と言うのは、

まるでビデオテープで録画したように、

そのまま脳に刻まれる方が多いそうなのです。

ですから、思い出そうとすれば、

そのシーンを細部まで再現できるそうです。

その分、記憶の検索速度は遅く、

抽象概念化や般化はされません。

効率のよい記憶とはいえないわけです。


Dさんは、この1年ほどの間、何度もグループワークでお会いしたり、メールも下さる方なのですが、その文面を見ても、想像性の障害があるようには思えず、むしろ思慮深くこちらの状況を酌んでくださる印象があります。また物事の本質をスッと捉えきるところ、また、状況判断の適切さなどで、定型的な思考パターンを感じる方です。Dさんは、こうした深い話しをすることがなければ、普段の様子はどうみても定型そのものです。個性的なところもあるかもしれませんが、充分性格の範囲で語れるものと感じます。


しかし、そのDさんの根本に発達脳としての認知パターンがあるのなら、この方の生い立ちや幼少期の成長に一体どのような事があったのか?、どうすれば、これだけの認知の発達成長が出来るのか?、新たな驚きと出会った気がするのです。


昨日も書いたのですが、ぼくもこの2年と数ヶ月で、いろいろな発達障害に関わる方との出会いがありましたが、Dさんの他にも、同年代のお母さんで、「私も小学校低学年まではかなり多動で、良く怒られていました」とおっしゃる方を3名知っています。いずれも、今は定型と変わらぬコミュニケーションをされており、社会的にももちろん自立され、生活しておられます。


この年代の方が育った時代・・・、つまり今から30~40年前には、社会に、自然と苦手のある子もあたたかく受容し抱擁する力があり、そんな環境の中で、発達特性は成長とともに薄れていったようなことが、あったのではとの仮説が浮かんできます。


育児パパのあったか・やさしい発達障害談義-toku

杉山登志郎先生は、著書で「どう考えても、近頃発達障害が増えているとの考えを否定できない」と書かれるとともに、「幼少期の脳の可塑性がもたらす、障害的欠損のカバー」について言及されています。


話が長くなりましたので、続きは次回としたいと思います。




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