女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

”よりぬき”公開





紳士の贈り物11(晩餐の密やかな愉しみ2)




「バカンス中に申し訳ありません」

 

ディナーを終え

書斎に向かう紳士に、

つき従って歩く

執事へと、

書類を手渡す。



紳士は

短く息を吐いた。

 


KOKOのいない場所では

自分をコントロールすることは、

あっけないほど

たやすかった。


「仕方がない。

時間を作ってやれ」

 


優秀な執事だが、

彼だけでは

解決できない

事柄もある。

 


どうしてこう、面倒は

起きて欲しくないときに

限って

起きるのだろう。



せっかくのバカンスに

水を差す連中が

腹立たしい。



「私が直接話をしよう」

 


紳士と

歩調を揃えて歩く

執事が、

一瞬足を止め

軽く頭を下げる。



「では、会合の合間に」



「しかし、明日までだぞ。

明後日にはゆっくりしたい」



「かしこまりました」

 


紳士はふと、

思い出したように訊ねる。



「KOKOはどうしている?」

 


気分を

損ねさせられたときは、

心地よいことを

思い出せばいいのだ。



今は、現実から

解き放ってくれる

夢のような存在が、

そばにいるのだから。



「……お楽しみ頂いているようですが」

 


一瞬の間ののち、

執事は目を伏せて答えた。



「彼女は私の全てだ。

 なんでも彼女の

 思うままに」



「……」

 


執事が、なにか

言いたげに押し黙る。



「なんだ? 何かあるのか?」



「いえ。かしこまりました」

 


頷いた紳士の胸に、

ほんのわずかに

黒い予感のようなものが

よぎったが、

片づけなければならない

仕事はまだある。

 


仕事は

手早く終わらせよう。

 


楽しむために、

ここまで足を

のばしたのだから。

 


だいいち

ここには

彼女がいる。

 


一刻も早く、

KOKOとの

バカンスを楽しむために、

紳士は

気持ちを

切り替えることにした。

 


彼女を

喜ばせることができるならば、

どんな事でもしよう。


その思いが、

彼女に会えない

彼の時間を過ごす時の

彼を支えていた。



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(再)