女性のための官能小説 

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第36回



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黒髪のアマン36(淑女の贈り物8)



プライヴェート・ヴィラの中を
逃げるように

闇雲に歩いていると、
紳士が

執事と共に現れた。

 
よけきれずに

紳士にぶつかり、
床に転んでしまう。
 


打ちひしがれた青年に、
紳士がどこか優しげな、
いたわりを感じさせる声で

言った。



「彼女を理解することは

 不可能だ」
 


だが、

そのいたわりは、
青年の心を

さらに

打ちくだいただけだった。



青年は、

ふらりと立ち上がって、
紳士に掴みかかる。



「……うるさいっ! 
 うるさい
 うるさい

 うるさいっ!」
 


だが、

紳士は冷静だ。



「あんたに何がわかる!」
 


執事が止めようとして、
紳士に制される。 



「理解するのではなく、
 受け入れることが

 できるかどうか、
 それが彼女を

 失わずにいられるかどうかの
 分かれ道だよ」
 


青年の腕から

力が抜けた。



「そんな……!」



「それを

 受け入れることが

 できるものだけが、
 彼女と共に
 愛し合うことが許される」



「僕には…、
 僕にはそんな愛、
 理解できない…!」
 
 

胸を裂くような声で

嘆く青年を、
慈しむような目で
紳士はみつめる。
 


紳士の言葉に、
黒髪の青年は

ただ嘆き、
泣き叫ぶことしか

できなかった。
 


彼が愛した女の名前は

KOKO。
 


彼が抱える

大きな痛みの名前も、
また同じだ。












(再)