女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第33回





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黒髪のアマン33(淑女の贈り物5)



こんなに、彼女を
愛しているのに。
 

なのに彼女は、
愛することを

受け入れられなかったのは、
黒髪の青年のほうだと言うのだ。



「君は僕を弄(もてあそ)んだのか」



「……あなたがどう感じるかは、
 あなたの自由。

 わたくしの愛が、
 自由であることと、
 同じことなのよ。」
 

金髪の青年は、
彼女の手をとったまま、
沈黙を守っている。
 

もう彼女の手をとるのは、
自分ではないと、
黒髪の青年は

告げられたのだ。
 

青年は、打ちのめされた。
 

そして初めて、
KOKOがどういう女なのか、
ほんの少しだけ理解した。

 
KOKOは、

誰のものにもならない。
 

自由を

束縛するということは、
彼女を

失うということなのだ。

 

彼女によって、
目覚めさせられた心は、
彼女を失うことで、
再び

死ぬのだ。



「……君に、
 ……君に

 出会いさえしなければ僕は、
 退屈に溺れながら
 こんな苦しみを知らずに
 生きていけたのに」



「すべてあなたが選んだことなのよ。」

 


黒髪の青年は、
膝からがくりと

力が抜けるのを感じた。



「……KOKO、
 ……君を愛しているんだ。

 僕だけを見ろ! 
 僕だけを愛してくれ! 
 

 欲しいものはなんでもやる。
 僕にはそれができる」
 

そのまま床を

這うように近寄って、
KOKOに

すがりつこうとした。
 

だが、彼女は
蝶のように

身をひるがえし、
かわしてしまう。
 

黒髪の青年の鼻先を、
彼女のドレスが

掠(かす)める。


 
引き剥がすためでなく、
すがりつくためには、
彼女の纏うドレスは
あまりにも頼りない。



「あなたにはできないの。
わたくしの欲しいものを、
あなたは持っていないのよ。」



「KOKO…!

 ではあの男は
 持っていると言うのか! 
 どうすれば君を
 手に入れることができる……」
 

泣き崩れる青年を、
KOKOは

なんの感慨もなく
ただまっすぐ

みつめて言った。



「わたくしは、わたくしのもの。


 ………あなたが

 あなた自身のものであるように」
 

KOKOをじっと見返す。
 

彼女は瞳をそらすことなく、
まっすぐに

みつめかえしてきた。
 

その瞳は、

静かに凪いでいて、
毅然としていた。
 

甘さも熱も、
ひとかけらも

感じられない。


「君を失ってしまったら、
 僕は生きていられない」



「そう……。
 それがあなたの選択なら、
 しかたないわ」
 
そう言って艶やかに微笑むと、
KOKOは
一度も振り返らず立ち去った。
 
青年をひとり、残して。






(続く)








(再)