女性のための官能小説 

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第27回






黒髪のアマン27(生きた媚薬7)


その夜のディナーの前に、
すれ違いざまに、
黒髪の青年の

耳元で
紳士が囁いた。



「KOKOに

弄(もてあそ)ばれるのは、
どんな気分かな?」
 


夕暮れ時、
KOKOと

抱き合いながら、
プールで聞いた足音は、
もしかしたら

執事のものではなく、
紳士のものだったのかもしれない。



「最高の気分ですよ」

弄ばれてなど

いない。
 


KOKOと自分は
愛し合っているのだ。
 

青年は、
紳士を蔑(さげす)むように、
睨んだ。



「……もしも君が本当に
 心からそう思っていられるのなら、
 君は立派なアクセサリーに

 なれるだろう」
 


初めて会ったときから、
青年は
この

取り澄ました顔を崩さない
紳士が
気に入らなかった。
 


もしもここが

自分のプライヴェート・ヴィラで、
彼が

招待主でさえなければ、
すぐにでも

目の届かない場所に
叩き出してやったのに。



「……侮辱する気か?」



「侮辱するつもりなどない。
 それがわからないなら、
 君にはKOKOの

 アクセサリーはつとまらない」



「僕はアクセサリーじゃない。
 ……恋人だ」
 


紳士は答えず、
黙って静かに

微笑んで立ち去った。
 


だが、彼は

客たちの前で、
わざと

黒髪の青年を

じっと見つめながら、
言ったのだ。



「KOKO……、
新しいアクセサリーは

気に入ったようだね」
 


客たちは、

一瞬、

しんと静かになり、
明らかに、
なりゆきを

見守っていた。
 


KOKOが、
紳士に

微笑みを返し、
また

何事もなかったかのように、
客たちの歓談が

始まる。
 


黒髪の青年は、
その場では
必死に

平静を装うことしか

できなかった。



席を立つのは

簡単だ。
声を荒げて

反論することも。
 


しかしそれは、
屈辱だ。
 

その夜、
黒髪の青年は
KOKOの

寝室で、荒れた。
 


凶暴な

獣のように。
 

KOKOはそれも、
気に入ったようだったけれど。





(続く)

(再)