女性のための官能小説 

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第6回





ディナーの席を後にした

KOKOを、
黒髪の青年は

追うように出てゆく。


彼女の姿を
視界から奪ってしまった
重い扉を押し開けると、
真っ正面にKOKOが
佇んでいた。


悪戯っぽく、
こちらを見て微笑んでいる。


「………君は……」


 KOKOは、しいっと
指を唇にあてて見せて、
先へ行く。


 カツン…カツン…と
エントランスに響く、
彼女のヒールの高い音よりも、
胸の鼓動が早くなるのがわかった。
 
螺旋状の階段の手すりを、
愛撫するように
撫でながら上がる彼女の後を
追う間も、
腹の底がざわつくほどもどかしかった。


「………KOKO……」


「…………ふふ」


 KOKOは、
濡れたような目で

じっと見つめかえし、
はぐらかすように、
くるりと背を向けた。


「……もう追ってきてしまったの?」


「………っ

……ああ、KOKO……」


青年は、体の芯に
赤々と燃える火が
投げ込まれたような感覚に震えた。

 

体中の血が
オイルに変わって、
燃えさかりながら
体を駆け巡るようだった。


「KOKO!」


駆け寄って、
背中から抱き寄せて、
そのままあらわな肩の丸いラインを
なぞるように唇を寄せると、
彼女のふっくらとした唇から、
熱い吐息が漏れた。


「ああ…………、んっ」


そのまま、
首筋に舌を這わせると、
吐息はますます甘くなった。


それが、痛みなのか、
痛みに似た熱なのかもわからないまま、
KOKOの首筋に顔を埋め、
深く息を吸い込む。


高価なパフュームの薫りなら、
嗅ぎ慣れていた。


だが、
KOKOの体から
匂い立つむせるような薫りは、
強く甘くとろりとした酒のように、
青年を酔わせる。


父親のコレクションの中でも、
最も高価な酒を初めて
口にしたときのことを思い出す。


あのときと同じような
ふわりとした酩酊が

青年を包んだ。
 
体が浮き上がるような感覚のあと、
気がつくと、
青年はKOKOの腰を
強く抱きよせ、
階段の中ほどの大きな鏡に
押しつけていた。


「……ああ、こんなこと…
夢でも見ているみたいだ……」


「……ふふ…、良い夢?
それとも悪い夢かしら?」


そう言って、
目を細めるKOKOの

濡れた唇は、
ディナーに出てきた

血の滴る柔らかな肉よりも、
ずっと美味だ。


食欲に似た強い衝動を感じて、
唾液が湧き上がるのを
何度も飲み込んだ。

すべりこんできたKOKOの
よく動く舌が、
歯列をなぞりながら

唾液をすする。


青年は何度も顔を傾けながら、
唇を離すことができなかった。


階段にしつらえられた、
大きな鏡に、
彼女の体を押しつけながら、

ドレスの裾をまくり、
太腿をまさぐる。


鏡についた彼女の手を、
すうっと美しく細く尖った指の先まで
何度も愛撫した。


肩から脇、
そして後ろから
そのまま胸をわしづかむ。

てのひらをはじくような豊かな胸は、
やわらかだがそれだけではない。


「………ああ………」


「このまま、ここで………」


そう言うと彼女は、
目を閉じたまま、
唇の端を承諾の笑顔の形に引き上げた。




(続く)

(再)