女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第1回  

大好評につきまして

もう一度公開することに

いたしました。






いつもの退屈なディナーだと、
たかをくくっていた。

見るものも、口にするものも、

交わされるやたらに含みのある、

それでいて実のない会話も、


相手や場所が変わるだけで、

たいした差はないと、

そう思っていた。



 だが、その夜、

黒髪の青年は、

いつもとは全く違う夜になることを、

体で知ることになる。

 ディナーの席で、

そんな悪戯をされたのは、

初めてだった。



「……っく」



黒髪の青年は、息を飲んだ。
目の前に、白く輝くおおぶりのオーキッドが咲き乱れているのかと思った。

どれほどぼんやりしていても、

目を奪われてしまうその匂い立つような華やかさと

凛 とした輝きは、黒髪の青年の瞳の奥に焼き付いて離れなかった。

視線を逸らしても、

目の中にくっきりと刻まれた彼女が、

ちょうどワインを飲み干すわずかな時 間だけ、

自分をみつめていることは気づいていた。


けれど、


彼がじっとみつめると、

彼女は目をそらしてしまう。

よくある駆け引きだろうと、


そう思った。

アプローチが大胆なだけの、

大人の遊びに過ぎないと。



けれど、

彼女の目が

自分を捕らえている間、

心臓がどくんと


脈打つのが分かるほど、

胸が高鳴ったのも


事実だ。



彼女のヒールの固い爪先が、

タキシードのパンツの裾を

めくるように


ひっかけたかと思うと、

そのまま臑をなぞり上げ、

膝頭まで


這い上がってくる。



 悪戯にしては、


度が過ぎている。
 

今日テーブルについているのは、

そうそうたるメンバーだ。

粗相は、少なくとも


若輩の青年には

許されない。

父にはそう言い聞かされて、

送りだされている。



「………」



 彼女の爪先が、

膝頭をくるくると撫でる。

くすぐったさは、

じわりとした熱に


すりかわっていた。



 すっと、足が離れるのがわかって、

青年は詰めていた息をそっと吐いた。



「………ふふ」



 彼女は、


隣の紳士に


何か熱く囁かれながら、

首をすくめて、

こちらをじっと見ている。



 彼女の足が、

テーブルの下で動いた。



「……っ!」



 青年は、

びくりと肩を震わせ、

思わずガチャンと


フォークを取り落としてしまった。



周囲の視線が刺さるようで痛い。



「……失礼」



 彼女の爪先が再び、

触れてきたのだ。



しかも今度は、

臑でも膝でもない。



……もっと、


秘密の熱い場所だ。





(続く)
========

(再)