女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

”よりぬき”公開


 










彼女と彼女の蜜月3 (風の吹かない家2)




ジョルジャは
その夜、
夢を見た。

 

いつからだろう。
 


それはときおり、
ジョルジャの前に

現れる。
 


色のない、
モノクロの世界に佇む、
いにしえの騎士。
 


いつも
街角から見上げている
城跡の中に、
白いマスクをつけた、
ス・コンポニドーリが
立っている。
 


彼女の
黒いマントが、
湖から吹き上げる
強い風に
音を立ててたなびいていた。
 


その城下には、
朝霧に煙る
静かな湖が
広がっている。
 


そこまでは、
いつも見る夢と
同じだった。
 


でも、
今日は
いつもと違う
気配が

ただよっていた。
 


息づかいが
聞こえてくる。
 

聞いてはいけない、
秘密の音だった。
 


耳をふさいで、
木々の間を
ジョルジャは

逃げた。
 


けれど、
その熱い

息づかいは
いつまでもいつまでも、
ジョルジャを
追いかけてくる。
 


逃げ惑いながらも、
ジョルジャは
どこかで感じていた。
 


逃げることなどできない。
 


震えながら、
目を開けると、
そこには昼間見た
リムジンに乗っていた
女性がいた。
 


あられもない

淫らな姿で、
でもなぜか
神々しいほどの

美しさで。
 


彼女は、
その豊満な体を
揺らしながら、
男と

戯れていたのだ。
 


淫らな音を

立てながら、

何度も

何度も

かわされる

口づけは
激しい。
 


ジョルジャの
知らない
口づけだった。
 


目をそらさなきゃ……。
 


あんな姿を
見てはいけない……。
 


そう思うのに、
目が

離せない。
 


神様……!
 


祈っても

祈っても

その光景は
消えなかった。
 


あらわな

白い太腿を、
男の大きな手が
荒々しく

つかむ。
 


彼女が
揺れると、
豊満な乳房も
大きく揺れ、

その谷間に
光る汗が
流れた。
 


……母さん! 
母さん、助けて!
 


再び、
ス・コンポニドーリが現れ、
マスクの白が
怪しく光った。


ジョルジャは怯えた。


彼女自身が
ス・コンポニドーリに
乗り移ったように、

何度も

何度も

大きく剣を振るう。
 


見えない何かを、
追い払うように。
 


逆らうことの
できない何かに、
このまま
どこかに
連れさられて

しまうようだった。
 


昔、
母をそうしたように、
その何かは
ジョルジャに
迫っている。
 


ス・コンポニドーリの手が、
そっとマスクをずらすと、
そこには、
昼間見た
彼女と同じ、

ふっくらとした
潤んだ赤い唇が
見えた。



「………カタン………
 カタン………

 カタン……」
 


何かの音が、
ゆっくりと

響いてくる。
 


その音が
ジョルジャを包み、
ジョルジャは
目を覚ました。



「………っ!」

 


それは、
祖母が
機を織る音だった。
 


今日も、
祖母の朝は

早い。



「………起きなきゃ……」
 


ベットの上で
体を起こしたが、
まだ体が重かった。



「……早く

 朝食の支度を
 しないと……、
 おばあちゃんに
 叱られちゃうわ…」
 


室内に
機を織る
単調な音が
響いている。
 


天井を見つめても、
染みしか

見えやしない。
 


古びた天井の縁が、
機織の振動で
わずかに

揺れていた。





*********












(再)