女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

”よりぬき”公開










紳士の贈り物20 (蝶の戯れ2)



「あ……ああ、
………はあ

……っん」
 


ベッドの上で
身をよじる
KOKOの口から、
思わず吐息が
こぼれる。



「……KOKO、
君は今、
素晴らしい微笑みを
浮かべているよ」
 


紳士は
幸福の
絶頂にいた。
 


彼女を今、
悦ばせているのは、
自分だ。
 


KOKOの頬が、
バラ色に染まっていく。



いつしか、
KOKOの吐息は、
淫らな甘い
喘ぎ声に
変わっていった。
 


絡み合う
女性たちの姿は、
まるで美しい蝶が
戯れるようだ。
 


その側の椅子に
腰掛け、
紳士は静かに、
とろりと舌に
まとわりつくような
ブランデーを嗜んだ。
 


たまらない幸福に
酔っていた。
 


その舌が
味わっているのは、
酒ではない。
 


KOKOだ。
 


KOKO自身の心を、
舐めているような

気さえした。



「素晴らしいよ、

KOKO。
……これでいいんだね」
 


KOKOの
白い肢体の上をすべる
舌の赤は、
何度も
何度も
肌を舐めるうちに、
より赤くなってゆく。
 


まるで、
バラの花びらが、
KOKOを
愛・
撫しているようだ。
 


このまま、
彼女がのぞく
天国の雲の上を、
共に歩こうと、
体の奥から沸き上がる
歓喜に
身を任せようと

したときだった。
 



何かが
床に落ちる音が響く。
 


その後で、
逃げるように
駆け出す軽い足音も。
 


ふわりと広がった

薫りから、
その足音が、
バラを運んできた花屋の
少女のものであることを、
紳士は悟った。
 


怖れるものは

なにもない。
 


なすべきことは、
このままバカンスの間中、
彼女と彼女の
求めるものに

従順な、
高貴な

下僕に
徹することだ。
 


KOKOは、もう
彼女の体を
這い回る

たくさんの舌以外に、
何かを感じとることは

できないだろう。
 

高く
喘ぐばかりだ。
 


紳士の声は、
耳に届いてはいまい。



「………KOKO……
 僕の女神………
 僕は君を、

 愛しているよ……」
 


届かないと
わかっているときに

呟く
愛の告白は、
彼女の耳に

直接囁くときよりも
ずっと容易だった。
 


受け入れて

もらえるだろうかと、
返事に怯えて、
少年のように
震える必要が

ないのだから。
 


バカンスには
限りがある。
 


KOKOを、
この館から
送りだす前に、
次のバカンスにまた
彼女を招くことが
できるだけの強さを、
手に入れなければ

ならなかった。
 


紳士は
強く目を閉じる。
 


耳からだけでなく、
全身を包み込むような
KOKOの甘い喘ぎ声を、
彼女の手を離したあとの
日々の支えとするために、
一心に記憶に刻みつけた。





*********


















(再)