女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第29回







叶姉妹オフィシャルブログ「ABUNAI SISTERS」by Ameba








黒髪のアマン29(淑女の贈り物1)



プライヴェート・ヴィラの

門の前で、
執事と

押し問答している自分が、
黒髪の青年は

信じられなかった。
 


どうして、
自分がKOKOに会うことを
拒否されるのか。
 

わけがわからない。
 


たしかに、
少し前の夜、
KOKOと

言い争うというほどではないが、
やりあった。
 


機嫌を損ねているのなら、
少し時間をおいて、
なにか
彼女の欲しがるものでも
プレゼントしてやればいいと、
そう思っていたのだ。
 

いや、思おうとしていた。
 


黒髪の青年は、
焦れて声を荒げると、
執事に詰め寄った。



「なぜだ!」



「……ご本人が、会いたくないと」



「KOKOがそんなことを

 言うはずない!」



「では、正確に
KOKO様のお言葉を

お伝えせねばなりません」



「………彼女はなんと?」



胸騒ぎがした。
 


それも、とびきり嫌なかんじだ。



「お聞きにならないほうが……
よろしいのではありませんか?」



「……くっ! 言え! 
言うんだ! 
彼女はなんと言ったんだ!」
 


執事の落ち着いた声に、
憐れみのようなものを感じて、
黒髪の青年は

彼に掴みかかる。



「もう、

 あなたにお会いする必要は
 なくなった、と」



「………嘘だ」
 


ふいに、

彼女の部屋で嗅いだ、
バラの香りがした。
 


彼女がいるような気がして、
黒髪の青年は

ふりかえる。
 

だが、彼女はいなかった。
 


かわりに、怯えたように
自分と執事の様子を

うかがっている
黒髪の少女が

立っている。
 


バスケットから
溢れるほどの

バラを抱えて。
 


執事が、
門の外に立っている

少女の姿をみとめた。



「……バラを、

 お届けにあがりました」
 


少女を

じっとみつめる執事の視線を、
彼女は

まっすぐ受け止めた。


執事が、
しばらく黙ったまま、
少女を見つめたあと、
彼女に向かって、
頷いてみせた。
扉を開けて、
招き入れてやる。
 

少女は、急ぎ足で
黒髪の青年の横を

すりぬけ、
中へと入った。
 


続いて、

黒髪の青年も
中へ入ろうとする。

 
すると、

執事はさっと身を引き、
ドアの中から、
屈強なサーヴァントが出てきた。



「邪魔だ。……どけ! 
僕はKOKOの恋人だぞ!」
 


執事は、もう黒髪の青年に

直接答えようとはせず、
サーヴァントに静かに、
だが、

断固とした固い声で
言い渡した。



「お帰り頂きなさい」



サーヴァントが
黒髪の青年の前に、
立ちはだかる。



「ふざけるな!」
 


プライヴェート・ヴィラの中へ
入る直前、
少女が振り返り、
興奮する黒髪の青年を見る。
 

目が合うと、
彼女の目が
再び怯えたように

見開かれる。
 


失礼な女だ。
 

普段ならば、
ろくに目にも留めない。
 


だが、
彼女の

黒い大きな瞳は

ひどく印象的で、
さっと伏せられた

長く濃い睫毛は、
美しかった。
 


一瞬、
少女に

目を奪われたすきに、
サーヴァントが

強く肩を押した。
 


使用人に体に触れられ、
門の外に

押し出された事実は、
黒髪の青年の

プライドを傷つけた。



「気安く触るな!」



「………」
 


サーヴァントは、
目を合わせない。
 

礼を尽くした
謝罪の言葉も

なかった。
 


なんてことだ。
 

ふざけるな。
 


黒髪の青年は

激高した。
 


これは、

主人の賓客の恋人として
扱われないだけでなく、
すでに客人に対する

態度ですら、ない。
 


サーヴァントが
黒髪の青年を

外に押し出し、
ドアを乱暴に閉める。



プライヴェート・ヴィラの中へ
去ろうとする執事は、
振り返ろうともしなかった。



「馬鹿にするな! KOKOに会わせろ!」
 


黒髪の青年は、
声を限りに罵倒した。



「僕を誰だと思っている!」
 


サーヴァントも、
門に閂をかけてしまったあとは、
忙しいと言わんばかりに、
プライヴェート・ヴィラの中へと
去っていった。
 

(続く)

















(再)