女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第20回











黒髪のアマン20(ミス・バタフライ4)



我が目を疑うアクシデントを
目にしたのは、
何度KOKOと
愛し合ったあとだっただろう。

 


彼女が
黒髪の青年の胸の中で、
あっという間に
代え難い
特別な存在になっていたことに
気がついたのは、


青年の目の前で
KOKOが悪びれもせず、
自分にしたのと同じやり方で、
金髪の青年を

誘ったときだった。
 


目の奥で
火花が
爆ぜるのが
わかった。
 


自分ではない
別の男が、
いともたやすく、
KOKOをものにする。
 


その一部始終をただ、
黒髪の青年は
見ていなければ
ならなかったのだ。
 


金髪の青年は、
非の打ち所のない美術品のような
美しい男だった。



あまり
生きた人間のような
気配がない。
 


嫉妬で
胸が灼かれた。
 


あまりの熱に、
痛みさえ感じる。


「……KOKO……KOKO
……お願いだ」


「なあに? 
またおもしろい遊びを思いついたの?」


「僕の……
僕だけのものになって
……お願いだよ、KOKO」


「……わたくしは、
わたくしだけのものよ」
 


KOKOはそう言って、
射抜くように
黒髪の青年を見た。
 


初めて見る瞳だと思った。

 


その瞳の底に流れる
冷え冷えとした軽蔑の眼差しから、
必死で目をそらす。
 


胸の真ん中を
打ち抜かれるのは
こんなかんじだろうか。
 


先日、
猟に出て撃ち落とした鳥の血の色は
まだ、
目の奥に焼き付いている。
 


あの晩のディナーに並んだ
ジビエは、
少しつついただけで、
KOKOは興味を失ってしまった。
 


持ってこさせた
フルーツの皿から
いささか行儀悪く、
しかし彼女らしい官能的なしぐさで、
目についたものを
摘んでは唇に運んで、
果汁を指先や
尖った顎にしたたらせていた。
 


それを盗み見る紳士たちを
煽るように、
長い舌をこれみよがしに伸ばして、
したたる果汁を舐め取ってみせた。

それが彼女だ。
 


黒髪の青年は、
今頃になって思い出す。
 

KOKOは、
KOKOを求める男の顔を
見るのが、
大好きなのだ。
 


そして。
 


大好きなものを見るときの
彼女の瞳は、
ひどく魅力的に輝く。
 


自分は、
その目に捕らわれた
男の中のひとりにすぎない。
 

その思いつきは、
黒髪の青年の心を
深く
するどく
傷つけた。
 


だが、
自分は彼女を愛している。
 


青年には、
財力も名声もあった。
 

今は
うろたえるときではない。
 


彼女はまだ、
自分のことを
よく知らないのだ。
 

みっともなく
彼女の手管を責めるような真似は、
すべきではない。
 


黒髪の青年は、
まだこう思っていたのだ。
 

自分は、

他の男とは違う。
 


それを、KOKOは
まだわかっていないだけだと





(続く)














(再)