女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第4回



「……っ!」


青年は思わず、
ガチャンと大きな音を立てて、
フォークを皿の上に

取り落とす。


 一瞬、

招待客たちの視線が、

咎めるように青年に集まった。


「……あ…、いや、……失礼」

 

咳払いをするが、

もちろんそんなことで、

この違和感は拭いされない。


平静を装い、

深く息を吐き、

フォークを皿から下ろした。


再び静かに始まった歓談に紛れて、

周囲の視線が

自分から逸れたのを感じてから、

黒髪の青年は、

そっと正面に座る彼女を盗み見た。


彼女は、


紳士と

あいかわらず親密に

身を寄せている。


伸ばした足の爪先は


器用に動かしたままで。


「……まあ、ほんとうに?」

「ああ、君にも見せたかったよ、KOKO」
 
彼女は……KOKOは、


紳士と親しげに囁きあっている。 


「……くっ」


 思わず、テーブルの下を

見下ろしそうになるのを、

必死で我慢した。



今、KOKOの爪先が、

青年のすねをなぞり、

そのまま足の間に


這い登ってきたからだ。


触れるか、

触れないかほどの力で

触れてきたかと思うと、

それが本当に足先かと驚くほど

器用に撫で回す。


「…………っ」


声をたてないようにするのが、

精一杯で、


つい体に力が入る。


「どうかした?」


「いや、……なんでもない」


連れの女性に

作り笑顔で答える。

目の端で、

KOKOの唇の形が

すうっと笑うのを


捕らえた。


こんな改まった席で、
他の男と視線を合わせながら、
誘惑してくる女など初めてだ。


黒髪の青年は、
今自分がKOKOに
誘惑されていることを知った。


体の、一番熱く敏感な場所で。





(続く)



(再)