書名:高慢と偏見、そして殺人
原題:Death Comes to Pemberley(死がペンバリー館にやって来る)
作者:P・D・ジェイムズ(イギリス作家)
出版:ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス
内容:紆余曲折の末にエリザベス・ベネットとフィッツウィリアム・ダーシーが結婚してから六年。子供にも恵まれ、二人が住むペンバリー館では平和な日々が続いていた。秋、毎年恒例の舞踏会の前日、館にはエリザベスの姉ジェーンとビングリーの夫婦、ダーシーの従兄フィッツウィリアム大佐、若い弁護士が滞在していた。フィッツウィリアム大佐は、ダーシーの妹ジョージアナへの求婚を考えているようだ。夜になると嵐が吹き荒れ、一台の馬車が森から館へ向けて暴走してきた。馬車に乗っていたエリザベスの妹リディアは、夫が殺されると半狂乱で助けを求める。リディアが乗ってきた馬車の御者の案内でダーシーたちが森へ駆けつけると、そこには無惨な死体と傍らで放心状態のリディアの夫ウィッカムがいた。死体はウィッカムの友人で、取り乱したウィッカムは彼の死を自分のせいだと言う。一行が遺体を担架で館に運び入れると、ダーシーは騎馬で判事に事件を通報する。ダーシーと一緒に館にやって来た判事は事情聴取のあと、殺人容疑でウィッカムを逮捕する。舞踏会は中止され、事件は一族の人々を巻き込んで法廷へ!
※原書初版2011年
※1813年に発表されたジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』の六年後を描いた続篇。
※『高慢と偏見』は、18世紀の英国の田舎が舞台である。訳者あとがきによると、当時、英国では女性が自活できる職業は殆どなく、結婚できなければ、死ぬまで父親や男兄弟に養ってもらわなくてはならなかった。主人公のエリザベスの家族はいちおう上流階級に属する大地主ではあったが、息子がいなかったため、ベネット家が所有する不動産は男子のみが相続できるという限嗣相続のせいで、いとこのコリンズ牧師が相続することになっていた。そのためエリザベスを含む五姉妹は、良い条件の男性と結婚することが期待された。また当時は階級意識が強く、古くからの名門であり母親が伯爵令嬢、かつ年間一万ポンドの収入があるダーシー家と、中流階級の親戚がいる年収二千ポンド程度のベネット家では、まったく格が違った。また名家でも、財産を相続できない次男、三男になると、裕福な女性を妻にもらわないと経済的にたちゆかないという事情があった。そうした時代背景のもとで、エリザベスと姉のジェーンの恋愛と結婚の顛末を生き生きと描写した作品が『高慢と偏見』である。
ウィル:ウィリアムの愛称
シラバブ:ミルクやクリームにワインやりんご酒で味をつけ、砂糖を加えた飲み物
朝の五時から部屋の掃除と片付けと火おこしにとりかかっているメイドたち
七時十分前に、蝋燭に火を灯して、廊下を静かに歩いてジョージアナの部屋に向かった。どうやらメイドはもう立ち働いているようだ。この階でメイドたちに会う可能性はまずなかったが、会ったとしても、彼女たちは微笑み、壁際にぴったり身を寄せてエリザベスを通すだろう。
使用人部屋に入って行くと、十六脚の椅子が引かれ、エリザベスは糊がパリッときいた純白の午後用エプロンやひだつき帽子の列に目をみはったが、家政婦の指示で、スタッフ全員が舞踏会の朝に、一分の隙もなく身支度を調えたのだと思い出した。