濃霧は危険 | kanoneimaのブログ

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私的備忘録

書名:濃霧は危険
原題:Welcome to Danger
作者:クリスチアナ・ブランド(イギリス作家)
出版:国書刊行会(KITEN BOOKS)
内容:十五歳のビル・レデヴンは、デヴォンシャーの大地主レデヴン家の跡取り息子として過保護に育てられてきた。九月、十四歳の娘がいる名付け親の家で休暇を過ごすよう両親に命じられたビルは、家庭教師とお抱え運転手のブランドンに説得されて霧の漂う中レデヴン館を出発した。シルバーのロールスロイスに乗せられたビルは目的地に向かっていた筈だったが、霧が濃くたちこめた荒れ地の途中で、いきなりブランドンの勝手な都合で車から引っ張り出されて置き去りにされてしまう。其処から一マイル離れたボースタル少年院では、「ナイフ」の通称で呼ばれる二十歳のウィリアム・フィップスが以前からの計画に従って脱走する。此処はダートムアのどこかで今は夜の八時から九時の間ということしか分からないビルは、湿った霧の冷たさをしのぐために歩くうちに道路から外れて完全に迷ってしまう。荒れ地をさまよい歩くビルは、やがて一軒の農家を見つけドアをノックするが、「銃で撃つ」と怒鳴る女性の声が飛んできた。ちょうどラジオで受刑者が脱走して荒れ地を逃げているというニュースが流れたばかりだったのだ。脱獄者の特徴は「平均より身長の低い細身の青年」で、窓からビルを見た女性は勘違いして追い払おうとしたのだ。仕方なくドアから離れたビルは、農家の納屋に忍び込む。ワラの山で横になったビルは夢うつつで学校の課題で出された『マクベス』を暗誦すると、暗がりから「そいつはシェイクスピアだ!」とささやく声が返ってきた。その声の人物の姿は見えず、直ぐに出て行った。翌朝、ビルが目を覚ますと、自分のジャケットの代わりに少年院の制服の上着が残されていた。霧は晴れたが朝の空気は冷たく、しぶしぶ少年院の制服を着たビルは農家の女性に事情を説明することを諦める。農場の周囲には民家がなく荷馬車の小道があったが、人に出会って問答無用で撃たれることを恐れ、ビルは荒れ地に足を進めた。ビルは空腹を抱えて歩くうちに、廃墟から煙が立ち上っていることに気付く。注意しながら近づくとベーコンの匂いが漂ってきた。誤解されないように少年院の制服を脱いだビルは、崩れた壁から足を滑らせて転がり落ちた。ベーコンを焼いていた女の子が気付いてビルに名前を尋ねた。詮索されないようにファーストネームだけ答えたビルが食事を御馳走になっていると、女の子の双子の兄で眼帯をした少年パッチが現れる。妹がポニーに乗っていなくなると、パッチは飼っているシャム猫のサンタクローズを紹介してくれた。ビルが自分の事情を打ち明けようと決心したとき、誰かが廃墟に近づいてきて、パッチに隠れるように指示される。パッチはビルが脱ぎ捨てた少年院の上着を見つけていたのだ。ビルが隠れると、廃墟の戸口にスーツを着た小柄な青年が現れた。パッチが応対すると、にやついた笑顔の青年は「マクベス」と名乗り、少年院から逃げた少年を追っていると説明する。ナイフを持ち歩く危険な少年の行方を聞かれたパッチは、一芝居うって「ビルはタヴィストックに行った」と若者を騙して去らせる。隠れ場所で会話を聞いていたビルは、昨夜の納屋での出来事を思い出し、「マクベス刑事」が悪党の一味だと悟る。隠れ場所から出たビルは、パッチと会話するうちに兄妹も悪党の一人ではないかと疑い、自分を悪党仲間だと思わせたままにしておく。パッチの提案で上着のポケットに入っていたメッセージを読むことにする。封筒に入っていた紙には暗号文が書かれており、二人は解読に取り組む。すると、レデヴン家の家宝であるルビーの宝飾品「レデヴンの花」が狙われていると解る。ビルとパッチは暗号文の指示に従い、待ち合わせ場所に向かう。だが、途中で義足の大男に出会い……。にやついた若者、ヴァイオリン、片手が鉤爪の男との、追いつ追われつの冒険が始まる。荒涼とした大地と海が広がるイギリス南部のダートムアを舞台にしたジュヴナイルの傑作。
※原書初版1949年
※作者クリスチアナ・ブランド(1907~1988年)は、イギリス領マラヤ(現在のマレーシアの一部)で生まれ、イギリス領インド帝国で育つ。イギリス帰国後の十七歳の時に親が破産した為、さまざまな職を転々とする。1941年に作家デビュー。
※巻頭の【炉辺談話(ろへんだんわ)】に、イギリス(英国)という国の成り立ちについて注意書きされている。イギリスという国名は、日本で用いられている通称で、正式な名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」。イギリスというユナイテッド・キングダム(連合王国:略称UK)は、言語も歴史・文化も国旗も異なる四つの国――イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという四つのカントリー(「国」)が、同君(どうくん:イングランド国王・女王)連合型の単一主権国家を形成している。本作の主人公、イングランド出身の地主の息子ビルがウェールズへ旅立つという事が、大きな冒険であることが理解できるという訳だ。
※邦題について、ブランドの代表作『Green for Danger:緑は危険』と『The Fog of Doubt:疑惑の霧』を結合したもの。
※本作は1949年の英国版を底本としつつ、1950年刊行の改訂米国版(Danger Unlimitedというタイトル)のいいところを訳者(宮脇裕子)が取捨選択したJapanese Editionということになる。

ジュヴナイル:児童文学

ウィル:ウィリアムの愛称

片方の目を覆っている黒い眼帯だ。頭に巻いたゴムで留めてある。パッチ(眼帯)と呼ばれているということは、一時的につけているのではなく、ふだんもずっとしているのだろう。
猫がいる。「名前は何?」
「サンタの爪(クローズ)だよ」
ウィリアムの愛称はビル。

「プリーストホール(司祭隠れ場)に入って。」
「壁と壁のあいだに食器戸棚みたいなのがあって、宗教改革のあとの時代にカトリックの司祭を隠すために使われていたんだ……。」

「『レッド(赤い)デヴォン』なら聞いたことがある。赤土(あかつち)だからね」
「それが、ぼくの名字の由来なんだ。祖先はレッド(赤土の)デヴォンの大地主で、世代が下るうちにスペリングがReddeven(レデヴン)になり、それが名字になった……」
「たぶん、これはRed Devonを意味しているんだ。」
レデヴンの小麦粉(フラワー)。レデヴンの花(フラワー)。
「ブランデーなんて名前の人、聞いたことある?」
「ブランドンなら、知り合いにいるよ」

槙肌(まいはだ):ヒノキやコウヤマキの甘皮を砕いて繊維とした物で、舟や桶などの水漏れを防ぐために合わせ目や継ぎ目に詰めるのに使われる

「金曜日(カトリック教徒が肉を食べない日)に魚を食べる人はおおぜいいる」