病院を拒む | Tへ

Tへ

ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

昨夜はTが寝るまで起きていて

もう寝ると階下へ降りていくのに手を貸した。

いつも万が一が隣り合わせなだけに

特に夜は目を離さないようにしている。

Tに水と薬を渡したら

キッチンの椅子に腰掛けて飲んでいた。

私は洗い物を片付けてから眠ろうと背を向けていたら

一向に彼が立ち上がらずにいる様子が気になり振り向いた瞬間

椅子ごと背後へひっくり返っていた。

駆け寄って声をかけたけど

丁度、後にTの洗濯物が山積みになっていたので

怪我をせずに済んだ。

危険なので立ち上がらないように

はったまま寝室へ行くように伝えた。

既に敷いてある布団に辿り着くと

そのままパタリと横になって眠ってしまったけど

夜中にトイレに起きることがあるから

部屋に明かりが射すように

引き戸を開けて廊下の電気を点けておいた。

もう大夫前に寝室の電気を購入したのに

椅子に登っても私の背では天井に手が届かずに

未だに取り付けることが出来ない。

ふらつくTに頼むことも出来ず知り合いもいないから

どうすることも出来ずに放置している。

もうひとつ電気を買いたいから

有料だけど一緒に取り付けて貰えるように

店に依頼しようとは思っているけど

色々とあって腰が重くて行動できずにいる。

関東を離れて知り合いのいない田舎町で

Tと暮すことを決めたのは自分だった。

知り合いも相談する人も居ないこの街で

気楽と言えば気楽だけど

いざという時に頼る人が居ないのが困る。

もう少し地域の人と交流の場を見つけて深めて

知り合いを作るのが良いのだけど

今更という気持も多少はある。

車椅子を押してTと頻繁に買物に行くから

広いスーパーでも店員さん達は私たちのことを

覚えてくれている。

コンビニでも病院でも覚えられている。

だからと言って知り合いではないし

なんだか孤立した気持は拭えない。


今日はTを病院に連れて行くつもりでいた。

昼近くになって起きてきたTは

いつもと変わらず一瞬、頬が痙攣していた。

昨夜は私が作った出汁巻き玉子と獅子唐の煮浸しを食べて

カツオのたたきには手をつけなかった。

病院に行こうかと聞いたら

嫌そうに首を振って

スーパーの方を指さして


「買物に行く」


口だけ動かしてそう言っていた。

起きてきたTが麦茶を飲み終えたら

彼の運転でスーパーに行った。

彼の寝ている間にお米をといで3時間後に炊いている。

今日は料理を作ろうと思っていた。

けれど

お総菜コーナーに行くと

あちこちで鰻が売られている。


「そうか

 今日は土用の丑の日だね。」


いつもは見かけない櫃まぶし弁当が沢山並んでいた。

Tが指さすので見に行くと

すぐに手にとって、それをカゴに入れていた。

食欲が出てきたのかな。

それとも食べないと入院させられると心配しているのかな。

掻き揚げも食べたいと手に取り4個入りの肉入りコロッケも

カゴに入れていた。

お米は炊いたけど

食べられるなら買ったものでも食べてくれればいいと思った。

ロス野菜も少しカゴに入れた。

最近は生野菜よりも温野菜を摂ることが多い。

ピーマンも種ごと調理するようにしている。

私は生野菜のサラダが好きだけど

Tは温野菜を良く食べるので彼に合わせて食べていたら

いつしか温野菜が美味しく感じるようになってきた。

特に獅子唐の煮浸しは数年前に

Tが作ってくれて

関西風の出汁の味が浸透したそれを食べて感動した覚えがある。

作り方を教わって

それ以来、私も作っている。

関東では料理に醤油をよく使っていたけど

こちらへ来てからは白出汁を頻繁に使う様になった。

いつものように安い栄養ドリンクを購入して

イートインでTと飲んだ。

わずか数分の憩いの時間は

私にとっても彼にとっても

ささやかな気晴らしでもある。

彼が声を失う前は

この場所で

ラーメンを食べたりインドカレーを食べたっけ。

今は最高に美味しいたこ焼き屋さんも出来たけど

テイクアウトして食べる事はあっても

ここで食べることはない。

外食できるのであれば居酒屋とか行きたいよねって

時折Tに言うけれど

食事中に逆流してしまう危険があるから

中々難しい。

個室だったらまだ行かれそうだけど

田舎だから近隣に店も無く

 

駅前の店までの往復のタクシー代だけでも馬鹿にならないし

そんな贅沢は無理だった。


買物から帰宅して

ひと息ついたら

櫃まぶし弁当を食べるというので持っていった。

蓋を開けるとワサビとお茶漬けの出汁が付いていた。

半分食べて残りは、お茶漬けに出来る様に

考えられているお弁当だった。

箸休めは奈良漬けではなく

生姜の甘酢漬けというのも珍しい。

最初の一口目から頬張っていたから

お腹が空いていたみたい。

ある程度、食べ進んだら箸を置いて止まってしまった。

やっぱり完食は無理かな。

黙って様子を伺ってTの食べるペースを見守った。

頬張っては箸を置いて休み

しばらくして再び頬張り箸を置くのを繰り返す。

量的には大盛りではないけど

時間をかけて逆流する事なく

全て完食していた。

1日に1食でも食べられたら安心する。

本人もふらつく自分の状態を恐れているかもしれない。

お茶漬けにすることなく食べられて安心した。

私は炊いたご飯にふりかけをかけたもの2杯と

Tのコロッケをもらって食べたけど

揚げ物のせいか胃がもたれている。

180gのミックスナッツも一人で半分近く食べてしまった。

そう言えばTの食べた櫃まぶしには

私が漬けた山椒の実を乗せておいた。

この実を噛むと舌がシビれて独特の香りもして

それで箸が進んだのかは謎だけど

今日は病院へ行かずに鰻を食べてくれて嬉しかった。↓