Tの意志に沿う | Tへ

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ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

いつも夜が明けると

今日は何日の何曜日か頭を巡らせる。

時計を見てゴミの日であれば時間を気にかける。

愛犬の朝食の時間も意識しながら

実際は身体が動かずに横になったまま時間が過ぎる。

種類によっては規定の時間よりゴミの回収車が遅いのが助かる。

不眠と睡眠不足で気持の良い朝を迎えたことがほとんど無い。

いつもずっと疲れている。

重い腰を上げて自分に緩く渇を入れて

ゴミをまとめて愛犬にご飯をあげて出ていく。

寝癖も直さずに表へ出るような事など

関東で暮していた頃には有り得なかったのに

今は自分の身なりにさえ手が行き届かないほど

ズボラになっている。

ゴミを捨てにいき帰宅して気付いたけど

昨日干した愛犬のヒンヤリシートを取り込み忘れていた。

深夜の雨に濡れて湿っていたから

そのまま放置しておいたけど

なんだか気が回らない自分が悲しい。

愛犬のサークルやトイレを掃除して

足を拭いてあげて1時間はサークルから出して

自由に遊ばせてあげる。

その間に一緒に遊んであげたりTの本を読んだりして過ごす。

この時間が好きなわけでもなく気持は切ない。

ただTの購入した本は居酒屋や季節の旬の食べ物が

私の知らない調理法で沢山綴られていて

読みながら回想したりしてとても味わい深く面白い。

午前中に何度かトイレに立った様子のTは

午後になってもずっと起きてこなかった。

心配になり彼の眠る部屋を覗いて声をかけたら

表情が青白くて額に汗の粒が浮いていた。

救急車を呼ぼうと言ったら一度はうなずいたのに

嫌だという。

とりあえず処方された栄養ドリンクを飲むように言った。

冷蔵庫で冷やしてあったエンシュアをグラスに入れて

ゆっくりと飲むように伝えた。

けれど冷えていたせいもあり

その後、彼はお腹を壊してしまった。

汚れたトイレから寝室までを拭きながら

もう無理だと感じた。

汚れた下着を交換する前に

風呂場で洗い流して

新しい下着とパンツを渡したけど

フラフラとして履くこともままならない様子だった。


「救急車、呼ぶからね」


そう言うと頑なに首を振る。

入院の支度をして再度Tに言った。

それでも嫌だと首を振る。

このままでは栄養失調で生命の危機に繫がるし

私自身も支えられないと伝えたけど

嫌だと言う。

トイレも風呂場も寝室も廊下も

酷い臭いが充満していたので換気をして

冷風を流した。

汚れたTの下着は洗濯機には入れられず

泣く泣く手洗いした。

夕方になってフラフラと彼が起きてきた。

まるで何事も忘れているかのように

手を振っている。

状況を説明して飲み物を渡した。

今の状態では食べ物を口にしてもリバースするか

お腹を下してしまうから

無理強いをするのはやめた。

水分を摂っても、もう下る様子はなかったけど

万が一を考えて明日は病院へ行こうと伝えた。

うなずいていたけれど忘れてしまうのだろうな。

しばらく一緒に過ごしたけど

水分ばかり補給して何も食べたくないと言う。

軽いお煎餅を1枚だけ口にしただけで

食欲は無い様子だった。

彼の胃腸が心配で栄養ドリンクはやめておいた。

机の上には筆談用のボロボロになったメモ帳がある。

雑に扱っているものだから

所々のページが剥がれて切れ落ちていく。

その数枚を拾って目にとめた。

入院中に彼が看護師さんに書いていたメモが数枚あった。


「明日で帰りたいと思います」


「帰りたいです」


「どうしても明日か え り」


「何とかお願いします

 毎日通います

 どうしても帰りたいです」


「明日で帰りたいんですけど誰に言えば良いですか?

 何かすることはありますか」



入院当初

どれだけTが家に帰りたかったかと思うと

胸が苦しくなる。

彼が入院を拒む気持は充分に解る。

私には最低限のことしか出来ないけれど

Tが家に居たいと言う思いを知って

安易に入院させるのはどうかと考えた。

買物へは行かれないから

明日は冷蔵庫にある食材を調理して

何が何でも食べさせないといけない。

それでも無理なら

やっぱり入院させようと思う。

病院は安心だけど過去を振り返ると

彼は本人が最悪と感じた時に自分から

救急車を呼んでと言う。

それも

そうとう我慢した上だった。

呼ばないで欲しいと言うのなら

生命に関わる事であっても

私は無理強いしないことにした。

彼の意識がある限り彼の意志を尊重して見守るしかない。

それが凶と出ても

それはTが望んだことでもあると思うから。

声を失い

日々呼吸に苦しむ彼を前に辛い気持は拭えないけれど

出来る限り全てはTの気持を

優先しようと思った。