生きるために食べて | Tへ

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ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

早朝からハッピーが起きて走りまくっている。

私の寝ている頭の上にダイブしてきたり

足先を噛んだり

耳元で音の鳴るボールを噛んでパフパフ鳴らすから

寝ていられなかったけど

ハッピーが楽しいのならそれでいいと黙認している。

そんな中ずっと考え事をしていた。

食べなくなってしまったTをなんとかしたい。

お粥を作ったとしても水分が多い食事は

逆流しやすいと思うから

どうしたら食べられるか考えた。

水分は少しずつでもかなり摂っている様子だから

栄養剤のエンシュアを飲ませるのが良いのかな。

それもきっと逆流してしまいそう。

昨夜、私が寝ている間にコンビニへ行った様子だった。

朝起きると

お弁当とオニギリが2つ置かれていた。

食べるつもりで買ったみたいだけど

食べる様子はなかった。

あとで聞いたら

お弁当は私に買ってきてくれたみたいだけど

高いし勿体ないのにと思う。

私は自分で調理して食べるから

気を遣わなくて良いのにと思いながら黙っていた。

きっとTは自分で買ってきた

オニギリもお弁当も食べないと思う。

午後になり

思い立って冷蔵庫にある食材で

彼にお弁当を作ることにした。

食べられるか解らないお弁当を丹念に作ることに集中した。

ロス野菜で安かったピーマンを刻んで炒めて

つゆの素で味付けした。

数少ない牡蠣は市販のパン粉でフライにした。

白出汁と梅の汁で人参を固煮にして型を取って

飾り切りにした。

ゆで玉子も作って輪切りにして

キュウリも飾り切りして水分を抜いた。

大きなわっぱ弁当箱に試行錯誤しながら

ドカ弁の牡蠣フライ弁当を詰めてみた。

作っているうちに

Tは寝床で寝てしまった様子だった。

お腹が空いて写真だけ撮って

1人で食べてしまおうかと思ったけど

彼が起きてくるのを待った。

食べられないと解っていたけど

盛ったお弁当を見て欲しかった。

夕方になりTは起きてきた。


「ねえ、見て見て。」


そう言ってキッチンに置いておいたお弁当を見せた。

Tはパチパチと拍手してくれた。


「食べる?」


無理と解っていながら聞いてみた。

少しとジェスチャーで彼が伝えてくる。


「一緒に食べようか。」


そう聞いたらウンウンとうなずいてくれた。

Tの部屋で晩酌しながら

取り皿を片手に2人で

ドカ弁をつついた。

食べられないかと心配していたら

パクパクと箸が進む様子で嬉しかった。

牡蠣フライの4個あるうちの3個は

Tが食べていた。

お弁当を全て完食した後

まだ食べられそうだったので

本人が買ってきたコンビニのお弁当も

温めて一緒に食べた。

お米より

おかずに箸が進む様子だった。

コンビニのお弁当は

ご飯を半分残してしまったけど

だいぶ食べてくれたので安心した。

ビールでも日本酒でもないお酒が飲みたいと言うけど

酎ハイしかないと伝えた。

買物に行っていないのでワインはきれていた。

そう言えばTが飲み残したウイスキーが

少しだけあると伝えたら

飲みたいと言う。

わずか少しだけのウイスキーを渡したら

チビリチビリと口にして

もう寝るとジェスチャーで伝えてきた。

階段をちゃんと降りられるか心配だったけど

無事に寝室へ辿り着いた様子だった。

きょうも食事を摂れないかと

ずっと気がかりだったけど

お弁当を作ったら食べてくれたから安心した。

食べたくなったのか若しくは

気を遣って食べてくれたのかは解らないけど

多分、食べたくなったのだと思う。

無理かなと思いながらも

作ったお弁当が

無駄にならなくて良かったと思うし

食べてくれたのが

とっても嬉しかった。

冬場は空気が乾燥して

尚更、呼吸が苦しそうで

きょうは長めに生理食塩水の吸引をした。

気管孔の中は痰が固まって

かさついて呼吸を妨げるから

命にも関わる。

本来なら1日4回はするべき所を

1回でそれ以上はしたがらない。

苦しいと思う。

鼻と口から呼吸したいと思う。

でも

肺につながる管を食道に繋げたら

誤嚥で肺炎になる危険が伴う。

だから喉の穴から呼吸するしかないのかな。

シャントなら

ピアスのように穴を繋げて

鼻と口に空気が入り話すことが出来るのに

中々それをやってくれる病院はない。

だからじれったい。

声を失ってから

彼の笑顔が少なくなってきたのを知っている。

ただ

ハッピーといるときだけは

ささやかに笑ってくれる事に救われる。

苦しくなければ

ぺろりと完食出来たドカ弁の写真を

深夜に眺めながら

穏やかな時間が流れていく。