「イケメンとか可愛いとか煽るようなこと言ってんじゃねぇよ。自分のほうが全然可愛いくせにさ」
バックヤードでソファにもたれ掛かりながら、ボーっと天井を眺め煙草を燻らすユノに、ユチョンが煙草に火を点けながら聞いた。
「はい?それって先輩がいつも言われてることじゃないっすか?
今更どうしたんすか?」
「なんでもない。おまえに言っても理解できないことだし」
「なんすかそれ、言ってみなきゃわかんないっすよ」
「いいや、わかる。おまえに話したところで解決にもならんしな」
なんでいつも会いたいと思ってしまうのか、気づくとジェジュンのことを考えてしまうのか。
ユノは認めたくなかったが、自分はジェジュンに一目惚れしたのだと結論づけた。
男に一目惚れしてしまったなんて口が裂けても言えない、とユノは思った。
「っていうか、ぜんぜん本数減ってないじゃないっすか!」
目の前の灰皿にある吸い殻の数を見て、驚いたユチョンがぎょっとした顔をした。
「無理無理無理!
もう減煙なんて無理だし、禁煙なんてもっと無理」
お手上げと言わんばかりに掌をひらひらして見せた。
「先輩なんかイライラしてますね。
無理に禁煙なんかしないで、吸ったらいいんですよ、吸いましょ吸いましょ」
そう言うとユノの肩をポンポン叩き、スーッと深く煙草を吸い込み、フーっと紫煙を吐き出した。
『ジェジュンは煙草なんて吸わないんだろうなぁ』
そう思うのは、花々に囲まれて清涼感のある空気ばっかり吸ってるやつが、わざと汚染された煙を自らの肺に送り込むという行為が不釣り合いだと思ったからなのと、美しいジェジュンはきっと良い香りがするはずだという勝手なイメージからなのだった。
ふと気が付くといつもジェジュンのことを考えている。
出会った時からそうだ。
いくら美しいといったって、ジェジュンだって男だ。
彼女や好きな人がいるかもしれない。
自分がこのまま片想いしてどうにかなる相手ではない。
女性を手の上の駒のように自由に操ってきたユノにとって、こればかりはどうすることもできない相手なのだった。
「天下のチョン・ユンホ様が、なんだって一人の男に掻き乱されなきゃならねぇんだ」
「ユノから誘ってくれるなんて、久しぶりだから嬉しかった」
常連客のスジンが嬉しそうに顔を赤らめ、ユノに腕を絡めた。
接客が終わった後のアフターとして枕営業することはたまにあった。
ジェジュンのことが頭から離れないのは、最近ご無沙汰で欲求不満になっているからだと思い
スジンを誘ってホテルで体を重ねた。
相手が燃え上がり声を上げたり強請ったりすればするほど、冷めていく自分がいた。
あやうく萎えるところだったが、ことの最中でも考えたのはジェジュンのことだったのだ。
妄想の始めは、『ジェジュンだったらどんな風に女を抱くんだろう』だったが、そのうちに自分の下で甘い喘ぎ声を上げ、乱れる姿にまでエスカレートし、それを想像すると堪らなく興奮した。
男を抱く妄想がすんなり出来て、それに興奮してしまっている自分に驚いた。
ジェジュンだったら、どこを攻められたら弱いだろうか、ジェジュンの唇はどんな味だろうか・・・・。
相手はスジンだったが、ユノの頭の中は完全にジェジュンとのセ.ックスになっていて、ことが終わった後に嬉しそうに微笑み、寄り添うスジンに申し訳ない気持ちになった。
シャワーを浴びホテルを出て、スジンを送ったあと家に帰ったユノは、ぐったりと疲れベッドに倒れこんだ。
上辺だけの愛なんてどこにだって落ちている。
本当の自分を愛してくれる人なんていない。
本当に「命をかけてでも守りたい」くらい愛せる人なんているのだろうか。
もうしばらく女を抱きたくない、と思った。
抱くとしたら・・・・・
真っ先に浮かぶのはジェジュンの白い肌、屈んだ時にTシャツの隙間から見えた白い鎖骨と滑らかそうな胸。
こんなことは初めてだった。
男を抱きたいと思うなんて何かの間違いだろ、自分に突っ込んでみたが、欲望は日に日に強くなる気がした。
「勘弁してくれよ」
首を振ってベッドから起き上がり、煙草を探した。
気持ちが動揺したときはすぐにニコチンが恋しくなる。
帰った時テーブルの上に放り出した、客からプレゼントされた黒い革のシガレットケースを見たが、中身は空だった。
いつもカートンで買い、仕舞っておく引き出しを開けてみたが、そこにも在庫は無かった。
「買いに行くか」
家に煙草が無いなんて、それだけで気持ちが落ち着かない。
上着を羽織ると、ユノは家の近所にある酒・煙草を扱う24時間営業のスーパーに向かった。
スーパーに向かう途中に、小さい公園がある。
公園の前を通りかかった時に、ベンチに人が座っているのが見えた。
見たことのあるような横顔にハッとなった。
座っているのがジェジュンだと分ると、ユノの胸は激しく高鳴り、そのもとに近づき声を掛けようとした。
瞬間、ジェジュンが目を擦っているのを見て、泣いているのだと気づいた。
そばに立ち尽くし、声を掛けようか迷っていると、ジェジュンがユノに気づいて、慌てて手の甲で涙を拭いた。
「あれ?こんばんは、ユノ。もしかしてユノの家ってこの近く?」
なんでも無かったように潤んだ瞳で微笑むジェジュンに、ユノの胸は切なく痛んだ。
ゆっくり近づき、隣りに座った。
「あぁ、すぐ近くのマンションだよ。ジェジュンはどうしたの?こんな遅くに」
「あそこのスーパーが24時間営業だから、店の閉店後によく来るんだ」
そう言うと、公園のすぐ隣りにあるスーパーの名前が、赤い字で印刷された白いビニール袋を持ち上げて見せた。
「そうなんだ、俺もコレきらしちゃってさー」
今度は、ユノが煙草を吸う仕草をして見せる。
「そっか。ユノは煙草吸うんだよね」
その時に気づいた。ジェジュンの前ではまだ吸ってないことに。
この間カフェで一緒だったときも、全く吸いたいと思わなかったのだ。
誰かを好きになってその人と一緒にいると、夢中になって煙草なんか目に入らなくなるのか。
自分でした発見にユノは驚いた。
「ジェジュンは吸うの?」
「ううん、俺は吸わないよ」
あぁ、やっぱり思った通りだ、ジェジュンはきっと良い香りがするのだろうな、その白いうなじに鼻を埋めてみたい、なんて変態じみた考えが顔を覗かせた。
優しい声で優しい表情で話すジェジュンは、月明かりに照らされてほんとに綺麗で、抱き締めたくなる衝動をユノは必死に抑えた。
「あのさ・・・・さっきなんで泣いてたの?」
どうしても理由を知りたくて、そっと聞いてみた。
「やっぱり見られてたかぁ」
そう苦笑しながらも、ジェジュンはゆっくり話し始めた。
