彼女になれますか? 【AKB創作小説】 -7ページ目

彼女になれますか? 【AKB創作小説】

AKB48のメンバーをモデルにした長編創作小説サイトです。男体化あります。少し不思議な学園ラブコメ風な内容になる予定です!チームK&二期生中心。







最終話 約束よ その6







***



日が暮れて夜が来た。
昼間の天気が嘘のように再びザアザアと降り出した雨。

ここのところ安定しないその天気を、部屋の窓から見上げ不審に思う天使。
恋をした影響だろうか?と自分自身を怪しむが、今はまだ影響は出ないと上司は言っていた。
このくらいで出るならもう少し早く消されてるだろう、と冷静に考えながら窓の外を見つめる。

ついに明日、跡形もなく消えてしまう。
自分という存在がなくなる。

そう実感すると怖くて仕方ない。手が震え、涙が出そうになってしまう。
でも絶対に泣かない。泣きたくない。
最後は笑顔で終えるんだ。

サエはそう考えると一度深呼吸をしてから再び真っ暗な窓を見つめた。

時はすでに夜の10時。
なのに一向に帰ってくる気配のないこの部屋の主。
どこへ行ったのだろう?とつい心配になってしまう。

サエはなんとなく気付いていた。
今日も昨日も、彼が自分を避けている事実に。

それはきっと天使のことが嫌になったとかそういうのではなく、まだこの事実を受け入れられないのだろうとか、どうしたらいいのかわからなくなってしまったんだろうなと想像がつく。
不器用な彼らしい行動だとサエは微笑んだ。

早く帰ってこないかな?
顔を見て安心したい。こんな時間まで一体どこにいるのだろう?

そう考えていると玄関の方からガチャッとドアが開く音が微かに聞こえた。
それに反応したサエは飛び出すように部屋を出る。
階段を降りている最中、めーたんの悲鳴のような声が響いた。

「ちょっと!ビショビショじゃない!どうしちゃったのぉ!?」
「…」

玄関を覗き見ると、雨に濡れて髪の毛からも衣服からもポタポタと水滴を落としている才加の姿。
こんな時間なのに制服を着ている彼を見れば朝に家を出てから一回も帰ってないという事がわかる。
夏期講習は午前で終わりなのに。

サエは慌てて階段を下りて洗濯機へと向かい、上に設置してある乾燥機の中からバスタオルを取り出し彼の元へと駆け寄った。

「何やってんだよー?風邪引いちゃうよ?」

そう言いながら天使が彼の頭をタオルで拭くと、才加はチラリと彼女を盗み見た後すぐに視線を逸らした。

「サエちゃん、ありがとぉ。ちょっと才加ぁ?こんな時間までどうしたのよぉ?」
「…なんでもねぇよ。」

サエの手を払いのけその場を離れるため階段を上る彼は、それ以上は何も言わず自室のドアを閉めた。
ため息をついた母親は、天使に「あとよろしくね?」と申し訳なさそうに告げた。
サエはその頼みに頷いた後、彼の後を追って階段を上る。

部屋に戻るとベッドの上で項垂れている彼の姿。
ずぶ濡れのまま座ったのでシーツにシミが出来ている。

天使は才加に歩み寄り、バスタオルでもう一度その頭や首、肩や腕などを懸命に拭いている。

「いくら夏だからってこれじゃ風邪引くよ?」
「…。」

触れた場所から伝わってくる思い。
寂しいという心。
才加の抱えている大きな負の感情にサエは息を飲んだ。

寂しさ、孤独感、自分への嫌忌や天使が消える事実への拒否。
壊れそうになっている心に対して途轍もない嫌悪感を抱いているようだ。

なんて弱く醜い心だろうと、才加は胸の中で自分自身を蔑む。
天使は自分が消えてしまうというのに全てを受け入れている。
それなのに、俺は…。

洗い流したかった。
一人で雨の中、ずぶ濡れに打たれればこの心が消えるのではないかと。

這いつくばるように雨に打たれていたかった。
そうすればきっとこの気持ちが消えるのではないかと。
だけど雨に打たれれば打たれるほどわからなくなる。
何を信じればいいのか。何が真実なのか、偽りなのか。
何もかもわからなくなってしまうのだ。
どんなに頭の中で自身に問いかけても答えが出ないその疑問。
こんな事をしても天使が消える事実は変わらないというのに。

運命を変えることも受け入れられる事も出来ない自分は、なんて無力でちっぽけなのだろう。

サエはそんな彼の心情と雨に濡れた目的を読み取ってしまい、ふふっと微笑みながらバスタオルで頭を拭いた。

「洗い流せないよ?」
「…え?」
「雨に濡れたくらいじゃ。」

クスクスと笑うサエの笑顔を見た才加は、まるでそれに魅入るようにただジッと彼女を見つめている。
サエはバスタオルを彼の首にかけると、顔を覗き込みながら呟いた。

「…洗い流しちゃ、ダメ。」
「…。」
「サエを寂しがる気持ち、洗い流さないで?お願い。」

それはサエにとってすごく嬉しいから!と明るく付け足すと、才加はくしゃりと顔を歪ませて泣き出した。
声を抑えることなく、ボロボロと溢れる涙も拭わずに。
天使はそんな彼の頭をぎゅっと抱きしめ、慰めるかのように背中を撫でた。
震える彼の体を守るように抱きしめたサエは嬉しそうに目を細めて微笑む。

「ありがとう、オカロ。」

この運命が変わらなくてもいい。
彼がこんなにも自分のために悩んでくれた事がとても幸せに感じられた。
不器用で口下手で、それでもこうして一生懸命に人を思いやる彼を好きになれて良かったとサエは実感する。
泣き声を抑えようともしない、素直でまっすぐに感情を吐き散らす彼の背中をまるで壊れ物を扱うかのように撫で続けた。

ようやく落ち着いてきた才加の頭を撫でたサエは彼の泣きっ面を見て笑い出す。

「そんな顔しないでよぉ~。」
「…。」
「ね、ともちんが言ってたんだけどね…あ!ともちんってのはサエの上司の大天使様で、超可愛いんだよー。で、見た目はなんつーの?ギャルっぽいのにすんごい部下思いでね!」
「…。」
「あ、えっと…それでそのともちんが教えてくれたんだけど…消えたとしてもまた戻ってこれる可能性もあるんだって。」

その言葉を聞いた才加は、俯いていた顔を勢い良く上げた。
天使を凝視するようにその泣き腫らした目を丸めている。

「でもすんごい低い確率の話なんだって。今まで恋愛のせいで消えた天使はサエ以外にもいて、その中で2人だけ人間に生まれ変われたらしいの!」
「人間に…?」
「そう!天使は精霊だから消えた後は無というか光?になるらしいんだけど、前例がいるって言ってた!」
「…。」
「だからそんなに悲しまないで?これはサエって存在がリセットされてまたフリダシに戻るってだけの話なんだから!」

サエはその奇跡に全てをかける気でいるらしい。
そうなってくれれば良いのだが、可能性がとても低いという言葉が引っかかる。
一体どのくらいの確率の話なのだろうと疑問に感じた才加は彼女に問いかけた。

「…今まで恋愛で消えた天使は何人いるんだ?」
「え?」
「何人?」
「…。こ、これまでの歴史の中と全世界を合わせたら…結構いるみたい。」
「…。」
「でっ!でも!生まれ変われた天使はちゃんといるんだよ!?」
「…どんくらいかかるんだ?」
「へ?」
「期間は?消えてから人間になれるまでの時間はどのくらいかかる?」
「…。」
「知らねぇの?」
「…ひ、一人は記録に残ってなくて…もう一人は…100年かかったって…」

その事実に頭を抱えた才加は、それでも諦めようとしない天使の必死な言い分を聞き流している。
彼はため息をつきながら冷静に言い放った。

「100年後、俺は死んでる。優子も香菜もめーたんも…。」
「…やだ。」
「やだじゃねぇよ、現実見ろ。人間は天使と違うんだよ。」
「やだ!」
「あのな!少しは話を聞け!無理だろ!?どう考えたって!」
「どうしてそんなこと言うの!?どんな時でもオカロは絶対諦めなかったじゃん!」

才加はその言葉に何も言い返せなかった。
目に涙を溜めて悔しそうに顔を歪めているサエの表情に、思わず息を飲む。

「どんな時でも全力なオカロに感動したから、サエは諦めたくないんだよ…。人間に生まれ変わって、絶対オカロに会いに行きたいの。」

その深緑の瞳が、固い決意を宿しながら揺れている。
きっと手のひらに爪が食い込んでいるだろう。震えるほど強く握りしめたその両手を、才加はやんわりと自分の手で包んだ。

「…ごめん。」
「…。」
「俺も、信じる。」
「え?」
「お前が人間として戻ってくること。」

そう決意した才加の目には、もう涙は浮かんでいなかった。
彼女はこんなに強い意思を持っているのに、自分が傷つくことを恐れていてどうするんだ。
ちっぽけな自分でも出来ることはある。ひたむきに、嘆かず、ただその結末を受け入れ彼女を信じるしかない。

力強く見つめるその瞳に、サエの心が熱くなる。
その眼差しのようにまっすぐで不器用な彼の手の温もりに、抑えきれない感情を我慢するためサエは口を歪めさせた。

ずっと一緒にいたい。
彼の大きな手に包まれる自分の手を見ながら、サエは強くそう思う。
それが叶わぬ願いだとしても。

涙を堪え微笑んだ天使は、その手の暖かさを胸に刻み付けるように暫くそのまま彼と向かい合っていた。