彼女になれますか? 【AKB創作小説】 -4ページ目

彼女になれますか? 【AKB創作小説】

AKB48のメンバーをモデルにした長編創作小説サイトです。男体化あります。少し不思議な学園ラブコメ風な内容になる予定です!チームK&二期生中心。







最終話 約束よ その9







***



フラフラになりながら帰宅すると、話しかけてくる母親の言葉も耳に入らず、そのまま部屋へと閉じこもった。

ベッドに腰掛けるとどうしようもない喪失感が一気に襲ってくる。
彼女が消えるその全てを目にして、平気でいられるわけがない。

また涙が溢れそうになるのを必死で抑えようと部屋を見回し気付く。
彼女の存在がこの部屋に染み付いているということに。

『宮澤サエ』と書かれた教科書やノート、彼女のカバンと制服、部屋着であるカラフルなジャージ、本棚には彼女が集めていたトミカが置いてある。
そして彼女が書いた相合傘の絵。

どこを見ても天使に関する品ばかりで、苦しくなる。
戦隊モノのような人形が付いた彼女のカバンに目をやると、ある写真がはみ出しているのが見えた。

そこに写っているのは梅ちゃんと増田で、以前動物園で撮影した写真だと察する。
懐かしいな…と思い手に取りそれを見ると、おかしい事に気付いた。


写っているのは梅ちゃん、増田、そして自分。

天使の姿がどこにもない。


そんなはずはない。この日は増田に頼まれて4人で遊びに行ったのだから。
まさか…と思い机の引き出しを漁る。

取り出したのは一枚の写真。
去年のクリスマス。
サエが徹夜で天使の仕事を片付け参加し、最後に集合写真を撮ったあの夜。

その写真にもはやり彼女はいない。
焦ったようにポケットに入れていた携帯を取り出し画像フォルダを開く。

前に犬とじゃれているサエを撮ったことがある。
その写メを表示すると、そこには大型犬の姿しか写っていない。

おかしい。なぜ?どうして?なんでどこにも写ってないんだ?

他に写真はなかっただろうか?と考え、そういえば数週間前にめーたんが学ラン姿のサエをデジカメで撮ったと言っていたのを思い出した。
急いで部屋を出てリビングへと向かう。
突然勢い良く部屋に入ってきた俺に驚いためーたんは、「ビックリさせないでちょうだい!」とお怒りモード。
香菜は煎餅を食べながらテレビを見ている最中。

テーブルの上に置いてあるデジカメを見つけ、スイッチを入れてから画面を確認する。

「え?どうしたの?」
「サエがどの写真にも写ってないんだよ!」
「は?何?サエって。」

その香菜の言葉を聞いた途端、デジカメを操作していた手が止まり言葉を失ってしまう。

「…は?」
「サエって誰?友達?」
「あらっ、才加ったらぁ~。彼女かしらぁ?」

2人の様子に頭が真っ白になっていると、母親は「いつの間に?紹介しなさい!」と冷やかし続けている。

「な、に…言ってんだよ…?サエだぞ?ここに住んでた…」
「え?ここに住んでるの?やばっ。」
「ちょっとお化けの話だけは勘弁よぉ。」

なんだ?この2人の反応は。
まるで彼女が最初からいなかったかのような…。
そう考えてハッと息を飲んだ。

存在が消滅する。
それは姿形が消えるという意味ではなく、過去から現在にかけてサエという存在が無かったことになるという意味だろうか。

血の気が引く。なんて勘違いをしていたんだ。
デジカメのデータを確認することもなく、再びフラフラと自室へと向かうと母親と妹が不思議そうに話し合っている声が聞こえた。


ベッドに力なく横たわり、考える。
嘘だ。確かに彼女は存在した。
今日の朝もこのベッドの上で寝ていたじゃないか。

彼女の存在が、関わった人間の記憶から消されている。
という事は自分も?
そう考えて腹の底が冷えるような感覚が体に走った。

朝起きて、彼女を忘れていたらどうすればいい?
そんな恐怖感に襲われてしまう。

必死で彼女の姿を思い出し、絶対に俺だけは忘れないと強く思う。
誰がなんと言おうと、彼女が仕えていた神の仕業だとしても、絶対に。



***



目を開けると、朝の日差しがカーテン越しに部屋に差し込んでいる。

起き上がり、あまり働かない頭を動かし周りを見渡した。
天使の姿がない事に疑問を抱き、もうリビングにいるのか?と考えてから思い出す。

あぁ、そうだ。彼女は昨日…。

彼女を覚えていた嬉しさよりも、あの光景が夢じゃなかった事実に深く心が沈む。
苦しく辛いこの気持ちを、誰も理解してはくれないだろう。

ベッドから起き上がり、準備をするため部屋を出た。
辛い。悲しい。だけど落ち込んでてもしょうがない。
彼女がいないこの日々の中で、自分は懸命に生きるしかないのだ。彼女との約束を果たすその日まで。

たとえ心の中に大きな穴が存在していたとしても。









夏期講習のため学校へ向かうと、誰一人としてサエの存在を覚えている人はいなかった。
倉持なら!と思い、悪魔の彼女を探すがどこにも見当たらない。
高城に聞いても、どこか悩まし気な顔をしながら「そんな人知らないです。」と首を振るだけ。
サエがいなくなった事をキッカケに、元の世界へと帰ったのだろうか?わずかな希望も打ち砕かれ、途方に暮れてしまう。



優子ならと思い問い詰めても、少し悲しげに「わからない…。でもなんだか懐かしい響き。」と言うだけ。






サエを覚えている人間は、世界中で俺一人だけになった。