第15話 奇跡は間に合わない その3
***
第一回戦を見事勝ち進んだ松岡高校だったが、二回戦で惜しくも敗退。
彼が明日帰ってくる事になり、サエの心は有頂天になっていた。
やっと顔が見れる!とウキウキし出した天使は、明日だというのに朝から待ち遠しすぎて居ても立っても居られない様子。
そんな浮かれた天使を見ためーたんは「かわいい!」と彼女に抱き着き、頬にキスをした。
登校までの道のりもいつもと違う事に気付いたサエは、気持ち次第でこんなに世界は素敵に感じられるんだなぁとしみじみしている。
夏期講習のため学校へと辿り着き廊下を歩いていると、目の前から見慣れた人影が歩いてくるのが見えた。
その姿を確認したその時、天使の心臓がドキリと飛び跳ねる。
それはここ数週間、喋らなくなってしまった親友。
久しぶり見かけたその姿に、サエは立ち止まってオロオロと戸惑うしかできない。
そんな彼女にどんどん近づいてきた優子はピタリと天使の前で足を止めた。
「…。」
「…。」
「おはよー。」
ニッコリとその八重歯を見せてサエに笑いかけた優子は、いつもと同じ。
「お、はよ」
「夏期講習?」
「うん、だけどすごいつまんない」
「サエちゃん、勉強嫌いだもんねー」
あはは!と笑う優子。
まるであの日の会話なんてなかったかのようなその態度に心が救われる。
この数週間、どんなに楽しい時でも彼女への罪悪感が常に心の中で蠢いていた。
いつも通りだ。大丈夫。会話できる。
もとの関係に戻れる。
質問に何一つ答えられずに逃げ出してしまったあの日のことを謝りたい。
だけどもしまたあの時のような雰囲気になってしまったら…。
こんなに優しい彼女が再び自分を責めるように問い詰めてきたら…。
それが怖くて謝ることができずにいる天使は優子の頭を撫でた後、彼女と別れた。
こんなに優しい彼女が再び自分を責めるように問い詰めてきたら…。
それが怖くて謝ることができずにいる天使は優子の頭を撫でた後、彼女と別れた。
通り過ぎた天使の後ろ姿に優子が切なげな眼差しを送っている事にも気付かない天使は、安心感からかその複雑な感情を見落としてしまったのだろうか。
優子はその場で俯いていたが、暫らくしてから再び歩き始めた。
講習も終わり帰宅して彼の帰りを待っていた天使だったが、先ほどまでのワクワク感が消え去り次第に緊張し始めてしまった。
何故だかわからないが、ドキドキと高鳴る鼓動。
落ち着かない心に、サエは部屋をウロウロと歩き回る。
すると玄関先から「ただいまー」と聞き慣れた声が聞こえ、天使の心臓が大きく脈打った。
窓に映る自分を見つめて髪を手櫛で整えた後、深呼吸し躊躇いながら部屋を出る。
恐る恐る階段を降りると、めーたんと香菜が玄関先に立っているのが見えた。
そして荷物を置き靴を脱いでいる才加。
その姿を見た瞬間、胸がぎゅうっと締め付けられるような感覚に陥った。
思わず息が詰まりそうになってしまった彼女は階段の途中で足を止めてしまう。
どうしよう、動けない。
彼と話したいのに、声が出ない。
何も言えずにその場に立ち尽くしていると、そんな彼女に気付いた才加と目が合った。
さっきの比ではない胸の高鳴りが天使を襲う。
「なんだよ、そこにいたのか。」
笑いかけてくるその表情。
甘く痺れるような胸の痛みが次第に強くなる。
「すぐに来ないからなんかあったかと思った。」
彼の発する一言一言を聞きながら、サエは自分に起こっている体の異変に戸惑っている。
一体なんなのだろう?この現象は。
胸の痛みや締め付けられるような苦しさ、早くなってしまう鼓動。
初めて体感した時より明らかに悪化している。
前から薄々感じていたが、やはり彼の顔を見たり彼の事を考えたりすると発症するみたいだ。
それ以外では全く起こらないのに、才加が関係するとこうなってしまう。
それが何故なのか、天使は理解できずに胸元をぎゅうっと握りしめた。
お土産を買い忘れたと才加が言うと、猛烈に非難してくる母親と妹。
彼女たちから逃げるように階段を上ってくる彼と目が合う。
突然近づいた距離に、驚いて後退りしてしまう。
「…どうした?」
そんな天使の様子に心配そうに顔を覗き込んだ才加に、何も言えず首を振るだけのサエ。
その頬が赤く染まっていたので、どうしたのだろう?と才加は不思議そうに首を傾げた。
講習も終わり帰宅して彼の帰りを待っていた天使だったが、先ほどまでのワクワク感が消え去り次第に緊張し始めてしまった。
何故だかわからないが、ドキドキと高鳴る鼓動。
落ち着かない心に、サエは部屋をウロウロと歩き回る。
すると玄関先から「ただいまー」と聞き慣れた声が聞こえ、天使の心臓が大きく脈打った。
窓に映る自分を見つめて髪を手櫛で整えた後、深呼吸し躊躇いながら部屋を出る。
恐る恐る階段を降りると、めーたんと香菜が玄関先に立っているのが見えた。
そして荷物を置き靴を脱いでいる才加。
その姿を見た瞬間、胸がぎゅうっと締め付けられるような感覚に陥った。
思わず息が詰まりそうになってしまった彼女は階段の途中で足を止めてしまう。
どうしよう、動けない。
彼と話したいのに、声が出ない。
何も言えずにその場に立ち尽くしていると、そんな彼女に気付いた才加と目が合った。
さっきの比ではない胸の高鳴りが天使を襲う。
「なんだよ、そこにいたのか。」
笑いかけてくるその表情。
甘く痺れるような胸の痛みが次第に強くなる。
「すぐに来ないからなんかあったかと思った。」
彼の発する一言一言を聞きながら、サエは自分に起こっている体の異変に戸惑っている。
一体なんなのだろう?この現象は。
胸の痛みや締め付けられるような苦しさ、早くなってしまう鼓動。
初めて体感した時より明らかに悪化している。
前から薄々感じていたが、やはり彼の顔を見たり彼の事を考えたりすると発症するみたいだ。
それ以外では全く起こらないのに、才加が関係するとこうなってしまう。
それが何故なのか、天使は理解できずに胸元をぎゅうっと握りしめた。
お土産を買い忘れたと才加が言うと、猛烈に非難してくる母親と妹。
彼女たちから逃げるように階段を上ってくる彼と目が合う。
突然近づいた距離に、驚いて後退りしてしまう。
「…どうした?」
そんな天使の様子に心配そうに顔を覗き込んだ才加に、何も言えず首を振るだけのサエ。
その頬が赤く染まっていたので、どうしたのだろう?と才加は不思議そうに首を傾げた。
彼女の横を通り過ぎ、部屋に荷物を置いてからベッドに座り込む。
久々の我が家。
才加はその部屋を見渡した後、出発する前よりも綺麗に片付けられていると気付き、ここで一緒に生活してる彼女の仕業だな…と無意識に微笑んだ。
それにしても疲れた…。
才加はそのままベッドに横になる。
やはり全国の壁は高い。
一回戦の相手もとても強かった。
神がかった増田が鬼のように点を稼いでくれた事を思い出し、普段はうるさい彼のそのバスケセンスに脱帽してしまう。
しかしその活躍を警戒され、二回戦目で才加と増田は相手に強くマークされたせいでほとんど自由に動けなかった。
負けたのは誰の責任でもない。だけどキャプテンとしてチームをまとめられなかったのだけ、少し後悔している。
インターハイに行けただけでも嬉しいのに、やはり試合となると勝利に対して貪欲になってしまう。
それはスポーツマンなら当たり前のこと。
ガムシャラに目の前のボールにしがみつくガッツを、どうか後輩も大切にしてほしい。
そう考え、部活引退という事実に途端に寂しくなる。
まるで心に穴が空いたよう。
我を忘れ熱くなれる、大好きなバスケが出来なくなるなんて。
真っ白い天井を見上げながら、自分の視界がボヤけた事に気付いた才加は、むくりと上半身だけ起き上がり腕で瞼をゴシゴシと乱暴に拭いている。
その時、ガチャッと扉が開く音が響いたので見ると先ほど階段ですれ違った天使。
いつもの明るい表情ではなく、どこか思い悩んでいるような困ったような顔をしている彼女に、何かあったのかと不安になる。
さっきから様子がおかしいと思っていたが、一体どうしたのだろう?
彼女を凝視していると、その唇が少し震えながら何かを訴えようと動くのが見えた。
「…おかろ。」
「ど、どうした?」
「サエ、病気かもしれないの…」
「は!?」
衝撃的な発言に大声で反応してしまう。
サエは俯きながら両手で自分の胸元を握りしめている。
「体が最近おかしいの。オカロの顔を見るとね、胸がぎゅうって痛くなるの。」
「お、俺の顔…?」
「痛くなるだけじゃなくて、苦しくもなるし…胸がドキドキしてじわーって熱くなる。ねぇ、なんで?」
「なんでって…」
サエは顔を上げて才加を真っ直ぐに見つめ、まるで助けてと言っているような困惑した瞳を彼に向けている。
次第に距離を詰めてくる彼女に、才加は戸惑いながらどう答えればいいのかわからないようだ。
彼の目の前で足を止めたサエは、少し屈んで才加の顔を訴えるように覗き込んだ。
「胸が苦しくて辛いよ…。オカロを見た時とか、オカロの事考えてるとこうなっちゃう。他の人だとならないの。なんで?サエ、おかしくなっちゃったのかな?」
「…え、えーと…それって…」
隣に座り込んだ彼女を見ながら、才加はあれこれと考え頭の中でサエの言葉を整理しようと黙り込んだ。
胸が痛い、苦しい、ドキドキする…。
これらに当てはまる現象の名前を、才加は知っている。
しかし天使に存在するのかどうかわからずに自分の考えを口にする。
「に、人間だと…不整脈ってのがあるけど…天使にそんな持病あるのかもわかんねぇし…」
「ふせいみゃく?」
「心臓の脈は普通一定なんだけど、不整脈だと不規則なんだよ。発作も結構苦しいらしいし、当てはまるっちゃ当てはまるけど…」
「それなに!?病気!?」
「いや、でもこれで確定したわけじゃないから」
急に出てきた恐ろしげな単語に怯えたサエは、思わず才加の手を両手で握りしめた。
今にも泣き出しそうな天使に落ち着かせようとその手を握り返す。
「でも…なんで俺を見た時だけ?」
「そうなの。」
「他の奴を見てもならないの?」
「うん、オカロだけ。」
「…それがよくわかんねぇな。だいたい天使の生態がよくわかんねぇし…」
考え込むように斜め上に視線を移し、口をへの字に結ぶ才加。
天使は触れている彼の大きな手にさえ胸が苦しくなるのを感じ、そんな自分を不安に思う。
「うぅ…おかろぉ~、サエどうしたらいいのぉ?」
「なっ!泣くな!ほらっ!」
突然泣き出したサエの瞼を少し乱暴に指で拭うと、顔を真っ赤にして彼を見つめている天使。
確かにおかしいかもしれない。
以前はこうすると嬉しそうに微笑んでいたのに、ただ顔を赤くして苦しそうに顔を歪めている彼女の姿に心配してしまう。
本当に病気なのかも。
そう才加が思った途端、途轍もない不安や焦りがドッと心に流れ込んできた。
どうしたらいいのだろう?
天使であるため、普通の病院に行ったってしょうがないだろう。
アタフタと慌てていると、ある人物の顔が浮かんだ。
そうだ、一人だけいるじゃないか。
身近な存在で天使の生態を熟知している人物が。
「サエ、倉持に聞いてみたら?」
「アスカに?」
「あいつも人間じゃないし、前に元天使だったって言ってたじゃん?この症状の事も何か知ってるんじゃないかな?」
そう才加に言われ、ハッとする。
確かに彼女も天使だった過去がある。
この謎の症状が何なのか知っているかもしれない。
サエは少しの希望を持ちつつ、才加の顔を見上げてニッコリと笑った。
そのいつもの笑顔がようやく見れたことに安心した才加もふわりと微笑んだ。
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえたので返事を返すと入ってきたのは母親。
「さいかぁー、早く晩御飯食べちゃってよ…って!ちょっとあんた達、手なんか握り合っちゃって!なぁーにしてんのよぉ!?」
そうはしゃぐように言う母親の言葉に、今の自分たちの状況を冷静に考える。
ベッドの上で向かい合い手を握り合っているその様に、才加はバッと勢い良く天使から離れた。
「ちっ!違う!違う!これは、あのっ…サエが悩んでるからっ…」
「あらぁ~、いいのよぉ。ごめんねぇ、邪魔しちゃって!ほら、続きどうぞ!」
「違うっつってんだろ!」
真っ赤になって反論する彼を見ながら、繋がれた手をほどかれた事をとても寂しく思うサエ。
晩御飯のために部屋を出て行った彼の後をついて行くことにした天使は、部屋の電気を消してからドアをゆっくりと閉めた。