彼女になれますか? 【AKB創作小説】 -11ページ目

彼女になれますか? 【AKB創作小説】

AKB48のメンバーをモデルにした長編創作小説サイトです。男体化あります。少し不思議な学園ラブコメ風な内容になる予定です!チームK&二期生中心。







最終話 約束よ その2







***



天国はとても広い。

天使の移住スペースの他に神の神殿、大天使の部屋に通じる扉、人間の魂が転生するまで滞在する場所など、たくさんありすぎて移動するだけでも一苦労。

そんな天国の端で、雲の下を覗き込みながら何かを観察している天使が一人。
コソコソと怪しい動きをしている彼女に、何者かが背後から声をかけた。

「サヤカちゃーん、そんなとこで何してるん?」
「ぅわっ!な、なんや…ユイとぱるるか。」
「また人間界見てるー。」
「…ちょっと前にお世話になった人がいて…。」
「ギター一緒に探してくれはった男の人やろ?もう何回も聞いたわ。」
「えー、なんか怪しいね。人間の男にはシタゴコロっていうのがあるんだって。それじゃない?」
「たっ!たかみなさんはそんな人ちゃうねん!」

必死に熱弁を振るうショートカットの少女と話している最中、遠くから「おーい!」と彼女たちを呼ぶ声が聞こえた。

声の方向を見ると先ほど別れた先輩天使がこちらに向かって手を振っている。
その姿を見つけたユイは、嬉しそうに彼女に手を振り返した。

「サヤ姉ー!久しぶりだねぇー!」
「お久しぶりです。帰ってきてたんですね!」
「うん!でもついさっきだよー!」

人の良い笑顔でニコニコ答える彼女は、「広場行こー?」と3人を誘いその場を後にした。
もう一度そこに足を踏み入れると、再び歓喜の声が響き渡った。

「ねぇ、サエちゃん!人間界どんな感じだった?」
「どうやって暮らしてたの?」
「寂しくなかった?」

サエは次々と飛んでくる質問全てに丁寧に返して行く。
羽の付け根を怪我して飛べなくなり人間に助けてもらったこと、その人間の家に居候をすることになったこと、学校という場所に通い友達を作ったこと。
その他にも動物園に行ったり、海に行ったり、クリスマスを祝ったり。

アスカが人間界に来たと伝えると、みんな彼女を恋しがるように「会いたいなぁ」と呟いた。
立場的に敵同士になったにも関わらず、関係性が変わらないのをサエは嬉しく感じている。

人形にされた恐怖から警戒していた彼女だが、人間と触れ合っていくうちに少しずつ彼女の心に変化が見えた気がした。
あんなに息を切らして懸命に自分の落し物を見つけてくれた彼女を思い出しながらサエは首元のネックレスに触れる。

「ねぇ、サエちゃん。大天使様のとこに何しに行ってたの?」

その一言に黙り込んでしまった彼女に、心配そうな視線を送る天使たち。
質問した少女は、言ってはいけない事だったのだろうか?と口に手を当てて不安そうにしている。
そんな少女に笑いかけたサエは、その質問に答えようと口を開いた。

「…実はね、」

その時だった。

ジリリリリリッとけたたましい警告音が天国中に響き渡る。

天を裂くようなその音に驚いた天使たちは、キョロキョロと天を見上げ騒ぎ始めた。

「うそ…?最終ベルが鳴ってる…」
「もう何百年も鳴ったことなかったのに。」
「え?なに?何かあったの?」

異常事態にザワザワとうるさくなる広場。
その中でサエだけが俯き、ギュッと手を握っている。
険しい表情の彼女に気付いたユイは、ゆっくりサエに近づき問いかけた。

「…もしかして、何かあったんですか?」

うるさく騒ぎ立てる天使たちを他所に、最終ベルは鳴り続ける。
その音を聞きながら、自分の決断ともう一度向き合うため目を瞑った。

後悔なんてしていないと心の奥の声が言う。自分が決めたこと。自分が選んだんだから。
もう立ち止まることはできない。

サエは心配そうな表情のユイに向かい、ニッコリと歯を見せて笑いかけた。



***



ザアザアと雨が降り続ける。
夏の雨は嫌いだ。翌日、湿度が高くなりその日一日が悲惨なことになるから。
暗い夜の中、雨が地面に降り注ぐ音が響く。

勉強机に向かいノートと教科書を交互に見つめペンを走らせる。
どちらかというと勉強は好きな方だからあまり苦にはならないが、こんなに長時間しているとさすがに指先も疲労を訴えてくる。
夏期講習と自主学習を合わせると一日中机に向かっていることに気付き、そりゃあ疲れも溜まると納得する。
受験生だからしょうがないのだろうけど、たまに体も動かしたい。

明日もし晴れたら、天使を誘って公園にでも行こうかな。
前にバスケを指導してあげたらすごく喜んでたし、あの続きでもするか。
同じ受験生の増田を誘うわけにもいかないし、きっと天使も喜んでくれるだろう。

…。喜ぶか?
もしかしたら面倒臭がってしまうかも。
冬の日に「楽しい!」とはしゃいでたのももしかしたら社交辞令じゃあ…。

どんどん不安にかられてしまうが、あいつはそんな性格じゃないよな…と思い直して安心する。
改めてこの心配性でマイナス思考な性格をどうにかしなくては…とコッソリ思うのだった。

チラリと窓の外に視線を向ける。
雨が降っているにも関わらず窓を開けている理由は、暑さだけではない。
故郷に帰るためこの部屋を出て行った少女が、いつ帰ってきてもいいように。
無意識のうちに彼女の帰宅を待っている事に気付いた彼は、自分に対して呆れるような溜息をついた。

どうして待つ必要があるんだ?彼女の羽が治ったならここに帰って来る理由もないだろう。
そもそも怪我が治るまでこの家で一緒に暮らすという話だったし。
この同居生活の本来の目的を思い出した才加は、少しだけ恥ずかしそうに腕を組み、再び窓へと目を向けた。

天使がこの部屋を去って丸一日。
帰ってくる気配は今のところない。
網戸から聞こえる雨音に耳を傾け、ヤキモキしながらそれでも待ち続けているこの状況。
心の中で馬鹿らしいと愚痴をこぼす。
しかしどこかでカタンと音がしたり誰かの足跡が外から聞こえた瞬間、少し期待しながらその方向を見てしまう。
何してんだ、俺は。

才加は自分自身に呆れながらもう一度シャープペンを持ち勉強を再開しようと机に向かう。
しかしどんなに集中しようと努力をしても頭に入ってこない数字と計算式。
ペンもまったく進む様子はない。
代わりに脳内に浮かんでくるのは、天使の身に何かあったのではないかという不安感。
飛んでいる最中に傷口が開いて落下したとか、雨の中震えてるとか、そんな姿ばかり想像してしまう。

…。
ちょっとそこらへんを捜索してこようかな?

いても立ってもいられなくなった才加は、勢い良く椅子から立ち上がった。

その時、ガラガラという音が部屋中に響き渡る。
網戸が開いた音だと気付かない才加は、驚きながらその方向に顔を向けた。

そこには一日中、帰宅を待ち望んだ人物の姿。

ビショビショに濡れているのは降り続けている雨のせいだろう。

「おかえり」とか「遅かったな」とか、話しかけるべき言葉はたくさんあったはずだ。
しかし才加は慌てたように箪笥からタオルを何枚か取り出した後、急いで天使の頭を掻き回すように拭いている。

「おまっ!何してんだ!?風邪引くぞ!?」

されるがままになっていた天使は、そのタオルの感触が気持ちいいのか目を瞑って受け入れている。
まるで犬か猫のようなその仕草に安堵のため息をついた彼は、肩や腕も拭いてあげた後「…残りは自分で拭け」と顔を赤らめてタオルを手渡した。

受け取った彼女はそれでも動かずに少し俯いたまま。
いつもの元気な彼女とは程遠いその雰囲気に、才加は戸惑い気を遣うように優しく問いかけた。

「お、おい…どうした?」

恐る恐る声を掛けると一度こちらをチラリと見たサエは、困ったような眼差しを向けた後すぐに目を逸らした。
その態度にどうしていいのかわからない。

まさかあの訳のわからない症状について天国で何か言われたのだろうか?
それとも天国でいじめられたとか?
やっと帰った故郷がとんでもなく悲劇的な状況になっていたとか?
ソワソワと彼女の態度に落ち着かないでいると、サエは唇を噛み締めこちらを見つめた。

「あのね、オカロ…」
「ん?」
「…。言わなきゃいけないことがあるの。」

その神妙な態度に、ついにこの時が来たかと悟る。

天使がこの家を出て行く。
わかりきっていた事だったが、彼女の口からその言葉を聞きたくないと思っている自分がいる。
別れの日はいずれ来ると気付いていたのに、その覚悟がまだないのだ。

彼女のその言葉をちゃんと受け止めようと、一度息を吸ってから彼女を見据えた。
サエは眉毛をひそめて複雑な顔をしていたが、次の瞬間へにゃりと困ったような笑みを浮かべた。

「サエね、3日後に消えちゃうことになったんだ!」
「…は?」
「神様にね、消されることになっちゃった!いやー!ビックリだよねぇ!あははっ。」

弱気な顔で無理して笑う彼女の言葉が理解できない。

消える?消されることになった?
何を言ってるんだ?天国に帰るのではないのか?

予想外の答えに何も考えられなくなってしまう。
これは彼女が考えたタチの悪い冗談なのだろうか?
確認するために懸命に出せない声を絞り出す。

「…な、何が?え?意味が…」
「だーかーらー!姿形がなくなっちゃうの!消滅するってこと!もぉー、何回も言わせないでよぉ~!」
「なっ…なんで!?」

ことの重大さを次第に実感し出した才加は、大声を張り上げた。
嘘だと言って欲しくて、冗談だと戯けてほしくて、サエの肩に手をかけて問い詰める。
彼の必死な顔を見た天使は、苦笑いを浮かべながら答えた。

「…オカロのこと、本気で好きになっちゃったから。」
「は?」
「恋愛感情として、好きになっちゃったの。だから…」

涙を浮かべた天使は、その想いを我慢するかのように一度唇を噛むと、情けなく微笑んだ。

「皆に幸せをあげる天使が恋をしちゃうと、世界がめちゃくちゃになるんだって。だから消されちゃうんだってさ!ビックリだよねぇ!」

ヘラヘラと明るく振る舞おうとするサエを見つめながら、頭が真っ白になってしまう。
自分に恋をした罪により彼女が消える。
自分と関わったせいで。

そう思った瞬間、体の力が抜けてしまいその場に座り込んでしまう。
心配そうに一緒にしゃがみ込んだ彼女は、俯いた才加の顔を覗き込みその背中を摩っている。
俺の心配なんてしてる場合じゃないだろ…と発しようとした口が上手く動かない。

「でも、まだ3日もあるんだよ!」
「…3日?」

そう反復した才加はゆっくりと勉強机の上に置いてあるカレンダーに目を向けた。
今から3日後。

「…8月13日…。」

確認するように呟いたその運命の日付。
その日、彼女は消滅する。
原因は誰でもない自分のせいで。
泣き出しそうなくらい顔を歪めた才加の頭を撫でるサエは、言い聞かせるように彼に囁いた。

「違うよ、オカロのせいじゃない。サエが勝手に好きになったんだよ。」
「っ…俺のせいだ…」
「違うよぉ~!」

まるでいつもと変わらないように高らかに笑った天使。
どうしてこいつはどんな時でもこんなに明るく元気でいられるんだろう?

いつもそうだ。
辛い時、悲しい時、彼女はいつでもそばにいてくれた。
試合に敗れて落ち込んだ時も、女になって自暴自棄になった時も。

今だって辛いのは彼女の方なのに、泣き崩れそうになる自分を励ましている。
なんて強いんだと才加は彼女を見据えた。

「まだ時間もあるから!心配すんなって!」

ポンッと彼の肩を叩いた天使は、愉快そうに笑っていたその目を少しだけ細めた。

「だから、この3日で出来る限りのことしたいの。」

サエは自分の手を握りながら俯く。

「オカロにも、優子にも…香菜、ともーみ、めーたん、梅ちゃんにたこ焼き…皆にちゃんとお礼をしたい。」

握り締めたその手が震えている事に気付いた才加はハッとした。
本当は怖いくせに、心配をかけたくないからと強がっているその態度。
才加はそんな様子に耐えられずにその手を包み込むように握る。

そうだ、なにを弱気になっているんだ。
明るく振舞っているこいつが、一番怖くて辛いんだ。
自分が支えなくては。

サエは自分の恐怖を取り除こうとするその手の温もりに胸が高鳴る。
見上げると才加のまっすぐな視線と目が合った。

「大丈夫。」
「…。」
「ここにいるから。」

その言葉に、視線に、胸の奥が熱くなり痛み出す。
恋愛という感情。
散々悩まされたこの感覚は、今となってはどれだけ彼のことが好きか測るものでしかない。
痛ければ痛いほど、この気持ちの強さを実感する。

サエはその手を握り返し、才加に向かって微笑んだ。

「ありがとう。」

自分の心情を汲み取ってくれた彼のその気遣いが嬉しかった。

「ごめんね、オカロ。サエのせいでこんな事に巻き込んじゃって…」
「なに、言って…」
「3日間、よろしくね!」

そう言ってニッコリ笑った天使の顔を、才加は永遠に忘れられないだろうと直感で悟る。
それは出会った時と同じ笑顔だったから。
どうしてこんな状況でこいつはこんなに人を惹きつける笑みを浮かべられるのか。

才加はいまだに信じられない事実を受け入れることが出来ずに俯いたまま、だけど強くあろうとサエの手を握りしめた。

そんな彼を無理やり立たせた天使は、「香菜とめーたんのとこに行きたい!」と部屋のドアへと向かって歩き出す。
はしゃいだように彼の背中を押して進むサエは、才加に見えないように少しだけ顔を歪ませ唇を噛んだ。