彼女になれますか? 【AKB創作小説】 -10ページ目

彼女になれますか? 【AKB創作小説】

AKB48のメンバーをモデルにした長編創作小説サイトです。男体化あります。少し不思議な学園ラブコメ風な内容になる予定です!チームK&二期生中心。







最終話 約束よ その3







***



翌日。
昨日の雨が嘘のように青く透き通った空。
しかし空気はジメッとしていてあまり気持ちいいものではない。
道路の水たまりも太陽が発する熱のせいで乾いてしまったみたいだ。

真夏の日差しを受けた校舎に集まる生徒たち。
3年生は受験に向けて試験対策に明け暮れる毎日。
そんな熱気溢れる3階の空気とは程遠い、のんびりした雰囲気の2年4組。
追試組以外は自由参加なのだが、やはり受験生と比べるとゆったりとしている。

サエは一度入り口の前で止まり、深く深呼吸をしてから教室の引き戸を開けた。
挨拶をしてきたクラスメイト達に返事を返しながら自分の席へと向かうと、そこにはコソコソと怪しげな行動をしている3人組。
あれ?ここサエの席だよね?と疑問に感じていると、その内の一人が「あっ!来たよ!」と天使を指差した。

「サエちゃん、おはよー!」
「おはよーん!ねぇ、何してるのー?」
「ふふふー、ジャーン!!」

サエを驚かせようとイタズラな笑みを浮かべた智美は、香菜とアスカとクスクス笑いながらサエにある物を差し出した。
ピンクの小さなラッピング袋を受け取ったサエは身に覚えのない贈り物を見つめながら首を傾げた。

「なに?どうしたの?」
「プレゼントだよ!」
「最近元気ないからさー、3人で買いに行ったの!そしたらサエ、昨日休むからさ!まじ焦ったよねぇー」

香菜が他の2人と笑い合いながら説明すると、天使は黙り込んでしまった。
余計なお世話だっただろうか?と心配した3人が彼女の方を見ると、そこには涙を薄っすら浮かべて唇を噛んでいる天使の姿。
そんな様子に「えー!?サエちゃーん!」と驚きながら彼女を抱きしめた智美と香菜。

「みんなぁ~…ありがとう…」

泣くのを我慢してフワリと笑いかけると、智美は顔を赤くし香菜は嬉しそうに首の匂いを嗅いでいる。
アスカはそんな彼女たちを遠巻きに見ながら頬を綻ばせたが、それでも事情を知っているため複雑な心境を隠せず苦笑いになってしまったようだ。

その後、先生が教室へと入ってきた事に気付いた4人は、それぞれの席へと戻っていった。
講習が始まっても手の中のプレゼントをいつまでも大事そうに抱えているサエ。
そうか、一昨日買い物に行ったのはこのためか…。
元気のない自分を慰めようと。
友人たちの思いやりが嬉しくて心が暖かくなる。
サエは手にした袋をギュッと握り締め、教師の言葉など聞きもせずにずっとその贈り物を見つめていた。



授業が終わり解散となったその教室では、元気を取り戻したサエが他の3人に声をかけている。

「ねぇ!この後みんなヒマー?」
「うん。ともは?」
「バイトも休みだしヒマだよ。」
「じゃあさ!遊びに行かない!?」

そう提案したサエに賛同の声を上げる2人。
その横で少し険しい顔をしている女子生徒は、突然力強く天使の手を掴んだ。
驚いているサエを他所にアスカは他の2人に向き合い言い放つ。

「ごめん!ちょっとぽっちゃんと話あるから待ってて!」

そのまま教室の引き戸を開けて廊下へと向かった天使と悪魔。
廊下の突き当たり、ひと気のない場所へとサエを連れ出したアスカは、くるりと振り返り彼女と向き合う。
その表情はまるで怒っているかのように眉間にシワが寄っている。

「アスカぁー、どうしたんだよ?そんな怖い顔して!」
「ぽっちゃん、まさかと思うけど…変な決断してないでしょうね?」
「…。」
「本気?」

アスカは掴んでいた彼女の手をより強く握り締めた。

「消えちゃうんだよ?ちゃんと考えて!」
「…考えたよ。」
「考えてないよ!確かにもっさんは優しくて良い人だよ?だけど…自分がこの世界からいなくなっちゃうんだよ!?」
「…。」
「ぽっちゃん!」
「…それでも、この想いを守りたいの。」

その一言を聞いたアスカは彼女の顔を見てハッとした。
何もかも受け入れて優しく微笑んでいる彼女。
あまりの表情の暖かさに、悪魔は何も言えなくなってしまった。

「こんな気持ち初めてなんだ。自分が消滅するってことも忘れるくらい、オカロの事を好きになったのが誇らしくて幸せで…」
「…。」
「絶対に、なくしたくないって…消せないって思ったから。…だから、後悔してないよ!」

最後は普段の明るい笑顔を向けた天使は、悲しそうに顔を歪めているアスカを見つめている。

「アスカと初めて会った時はこんなに熱い子だと思わなかったなー。サエのために怒ってくれてありがとう…ってなんかこれ上目遣いな言い方だね?」
「…。上から目線って言いたいの?」
「あー、それそれ!!」
「…こんな時におバカ発言しないでよ、ぽっちゃんらしいけどさ。」

自分の間違いに恥ずかしそうに笑ったサエは、もう一度目の前の彼女をまっすぐに見据えた。

「堕天したって聞いた時、すごいショックだったけどそれでも関係は変わらないって思ってた。なのにアスカったらサエを人形にしちゃうからマジ怖くてさぁー!」

ケラケラと笑う天使は去年の出来事を思い出していた。
この悪魔が天国に入らないよう注意しようと近づいたら魔術で人形にされてしまったんだっけ。
それからというものどうしても悪魔という存在が怖くなってしまい警戒していたのだが、最近はそういった感情も薄れてきた。

「でもアスカは最近変わったよね。周りをよく見てくれるし、ともーみや香菜の事すごい考えてる。人間と関わって変わっちゃったのはサエだけじゃないよね。」
「…。」
「サエのネックレス、一生懸命探してくれたのすっごい嬉しかった!ありがとう。」

一度自分の首元のネックレスに触れてから両手でアスカの手を握ったサエは、ニッコリといつもの笑顔で彼女に感謝を告げた。
手を離し「早く2人のとこ戻ろー!」と教室へ向かおうとした天使を、アスカは必死な声で呼び止める。

「ぽっちゃん!あのね…」
「ん?」
「私が天使になりたての時…知り合いがいなくて孤立してた私に、ぽっちゃんが声かけてくれたの、覚えてる…?」
「あはは、そうだったっけぇ?」

少し照れ臭そうに頭を掻いた天使がとぼけているのを見ながらアスカは話し続ける。

「あれがあったから皆の輪の中に入ることが出来たんだよ?ぽっちゃんが、私に優しくしてくれたから…。これからもずっと、ずっと大好き。」
「…アスカ、ありがと。」

悪魔の頬に一筋の涙が零れる。
天使は背を向けていたためその様子を直接見ることはなかったが声の震えで気付いたようだ。
そのまま教室へと足を進めるサエとは反対に、アスカはその場に佇んだまま流れる涙を手で拭っている。

彼女の固い決意を目の当たりにし、どうしても止められないとわかってしまった。
自分に出来ることは、彼女への感謝を伝えること。
そう考えると、無力な自分を実感してしまう。
どうしようもない悲しみに泣き続けることしかできない。

天使がその運命を受け入れるという事は…。
アスカは数日後、自分の身に起こるであろう出来事を予測しながら、その結末に覚悟を決められず涙を流す。
すると彼女の元へ駆け寄ってくる足音が廊下に響き渡った。

「アスカちゃん!?どうしたの?」
「おっ…おたまる…」

その声に俯いていた顔を上げる悪魔。
廊下で泣いている彼女の姿を見つけた高城が心配して駆けつけてくれたのだ。
驚いているアスカを他所に彼は焦りながらも彼女を落ち着かせようと背中を撫でている。

「な、何かあったの?大丈夫?」
「…おたまる…」
「うぇ?」
「おたまる!大好き!」

そう言いながらアスカは彼の首に腕を回し抱きついた。
突然のその行動に顔を真っ赤に染めて慌てている高城。

「えっえええ!?な、なに!?え?」
「大好き!おたまるの事、一生忘れないっ…」
「あ、アスカちゃん?」

その後、高城の励ましにより泣き止んだアスカは恥ずかしがる彼の耳を触ってから離れた。
そのまま教室へと歩き出した彼女のその態度に戸惑った彼は、今だに赤く火照ったその頬を手で一撫でするのだった。



***



「はぁー、楽しかったねぇ!」

夏期講習が終わった後、4人で街へと繰り出したくさん遊び歩いた帰り道。
薄暗くなった街に灯り始める街灯の光に照らされながら足を進める2人。

途中で大家君からデートのお誘い電話が入り面倒臭そうにしていた香菜だが、他の3人が背中を押し無理やり向かわせた。
アスカはというと今日のお昼から様子がおかしく、先ほど一足早く帰宅してしまったのだ。

ということは、今ここにいるのは智美とサエの2人だけ。
その事実が智美の心を踊らせたと同時に、どうしようもないほどの緊張感が彼女を襲う。

背の高い彼女を見上げると、彼女もこちらを見てニッコリと笑いかけてくれる。
その仕草にドキドキとうるさく響く鼓動。

だってこれって、まるで…でっでっ…デートみたいっ!

そう心の中で叫んだ智美は両手で赤く染まった頬を覆った。
そんな彼女に全く気付かない天使は、楽しそうに今日の出来事を話している。

「カラオケ楽しかったぁー!ともーみ、歌うまいねぇ!」
「え、嬉しいっ。」
「ほんと!マジ!ほんとともーみの声好きー!甘くて女の子らしくて!」

サエがそう褒めると智美は更に赤面し、照れたように笑っている。

「アスカも上手いよね!香菜は…うーん。ノーコメント!」
「あはは!」
「でもサエも人の事言えないけどさぁー」
「そんな事ないよ!サエちゃんも歌声かわいいから!」
「ほんとー!?うれしいー!」

歌にはあまり自信のない天使は、その褒めの言葉を貰ったおかけで浮かれ気分になり、スキップしながら帰り道を進んでいる。

「あ、サエちゃん。今日あげたプレゼント開けてみた?」
「勿体無いからまだ開けてないよ!」
「開けてみて!」
「いいの?」
「うん!」

そう言われカバンの中から今朝貰ったラッピング袋を取り出したサエは、丁寧に装飾されたリボンを解き中身を確認した。
歓喜の声と同時に袋から取り出したのは手のひらサイズの人形。

「かわいいぃ~~~!!なにこれ!」
「サエちゃん、こういうの好きそうだと思って。」
「大好きっ!わぁー、ありがとぉー!」

小さなその人形は、黄色い戦隊モノのような服装に銀色のサングラスをかけたぬいぐるみ。
それをまじまじと見つめている天使は、顎に指をついて悩んでいるようだ。

「そうだなー…友達に貰った物だから、『トモダチ』って名前にしよう!!」
「もうサエちゃん、単純!」

ボーイッシュな彼女と笑い合いながら、智美はいつまでもこうしていたいと強く願う。
明るく元気な彼女の隣にいると、まるで自分が勇気付けられているような気分になる。
彼女の隣にいられることが、私の幸せ。
ずっと、いつまでも一緒にいたい。

そんな事を考えながらもう一度彼女を見上げた瞬間、智美の心臓が飛び跳ねた。
天使が真剣な眼差しでこちらを見つめていたからだ。

その深緑の瞳に自分が映っているのが見えた智美は、何も言えずにその場に固まってしまった。
足を止めた彼女に合わせるかのように天使も立ち止まる。

見つめ合ったまま暫く沈黙が続いたが、サエが彼女に話しかけるため口を開いた。

「ともーみ。」
「は、はいっ。」
「ともは、とっても甘えん坊さんだよねー?結構誤解されやすいところもあるし、ちょっぴりワガママだし。」
「え?」
「でもね、そういうとこを隠さず全部サエに見せてくれるとこがすっごく嬉しかったんだ。」

ぎゅうっと手を握りしめてきた天使に、胸が高鳴る智美。
サエは真面目な顔を崩していつものニコニコと明るい笑顔を彼女に向けた。

「サエはこの先、どんな事があってもともーみの味方だよ?だから無理しないでね?」
「さっ、サエちゃん?」
「とも、ありがとう。」

そう言いながらフワリと微笑んだ天使。
どうしてこんな事を言うのだろう?と疑問に感じた智美は、彼女がまた落ち込んでしまわないようにとポケットに手を入れた。

「サエちゃん、これあげる。」
「ふえー?」

手に握られていたのはイチゴ味のキャンディ。
棒付きのそれは淡いピンク色で街灯の光に当たりキラキラと輝いている。
美しいその見た目に、サエの目が光に満ち溢れた。

「きれい!これ、きゃんでぃ?前にくれた奴?」
「そうだよ。ともね、これ食べると嫌なこと全部忘れちゃえる気がするの。」
「そんなに美味しいの?」
「うん。涙が出そうな時にこれ食べると何とかなるかなぁって思えるし。だからキャンディは魔法みたいな力があるんだよ。サエちゃんも元気ない時食べてみて。」

元気付けるようにそう言われた瞬間、天使が彼女に抱きついた。
突然の出来事に智美は頭が付いていかず固まっていたが、状況を理解した途端頬を真っ赤に染め慌てふためいている。

「ちっちゆうううう!!さっ、サエちゃっ…!えええ!?」
「ともーみ、ありがとう…大好き!」

腕の力が強くなるのを感じた智美は痛いくらいに激しく鳴り響く自分の鼓動を感じていた。
こんなにキツく抱きしめられたら、燃えて灰になってしまうのではないかと心配になるほど。
すると彼女に触れている部分が次第に熱くなっていく。
それは自分が意識しているからか、それとも彼女から来る暖かさなのか。

「ともーみに幸せが訪れますように…。」

天使が離れた瞬間、その暖かさが体の芯まで移動するような不思議な感覚に襲われ、思わず首を傾げた。

「…サエちゃん、今なんかした?」
「えー、なんもしてないよ!何の話ー?」

智美はすっかり暗くなった中で、街灯に照らされる彼女を見つめている。

見つめているだけで心が満たされるその笑顔。
彼女の全てが愛しくて、大好き。

改めてそう実感した智美は、そのまま家路へと歩き出したサエの後をゆっくりとついて行くのだった。