彼女になれますか? 【AKB創作小説】 -12ページ目

彼女になれますか? 【AKB創作小説】

AKB48のメンバーをモデルにした長編創作小説サイトです。男体化あります。少し不思議な学園ラブコメ風な内容になる予定です!チームK&二期生中心。






『消滅して、その存在が消えてなくなってしまうんだって…。』



『…消滅?』
『うん。だからこのままもっさんの事を好きでいると、ぽっちゃんは消えちゃうんだよ。』
『なっ、なんで?なんで恋愛しただけで?』
『うる覚えだけど、確かその相手だけに幸せを与えてしまう事になるとか…』
『きっ、消えちゃうって…そんな…』


『だから恋愛っていうのは天使に存在しちゃいけない感情なんだよ。ぽっちゃん、少し頭冷やしな?』











彼女になれますか?






最終話  約束よ 













ギィ…と大きな音を立てて『最後のドア』が開いた。

真っ暗で足場がよく見えない中、恐る恐る足を踏み入れる。
冷たい小さな風が吹く長い一本道をそのままどんどん進んでいく。

すると前方に現れる小さな灯火。
その明かりのおかげで見えてくる景色は、まるでどこかの古びた教会の中にいるよう。
年季の入ったタペストリーやロウソク立て、壁に装飾されている彫刻は所々剥げている。
天井近くに設置されている窓からは暗い景色しか見えない。
ロウソクの火がまるで導くかのように進むべき道に点々と置かれ、天使はそれを道標に歩き続けた。

そのままどんどん進むと前方に階段が現れ、足をかけ上り始める。
ある程度進むと、周りの景色がひっくり返っている事に気付いた。
天井が床になり、床が天井になっているその不可思議な現象に、サエは少しだけ微笑んだ。

きっと上司が考えただろうこの作りを、ともちんらしいなぁ…と心の片隅で思いながらそれでも登り続ける。

被っていた黒いハットを落としそうになり思わず手で押さえ、息を切らしながら進み続ける。
こんなにグルグルと重力も関係なしに階段の向きが変わってしまうとなると、翼で飛んで進むことも出来ない。
気を抜くと足場が逆さになるその階段を懸命に一歩一歩登り続ける。

どのくらい経っただろう。
見上げるとようやく終わりを告げるかのように、階段の先にある小さな扉が目に入った。
それは『最後のドア』に酷似していて、縮小したようなもの。
ようやく近づいた目的地に、サエは「よし!」と気合の声を上げてから翼を羽ばたかせて飛び上がった。

ドアの前にある足場に降り立つ。
扉を押すために手をかざすが、その指が無意識に震えてしまう。
もう片方の手で震える手を揉みほぐし、一度深呼吸をしてから扉を見つめる天使の顔は、緊張からか強張っている。
ドアに手をかざし、グッと力を入れ開け放った。

中から放たれる真っ白な光は、暗闇に慣れた瞳にはあまりにも眩しく、思わず目を瞑る。
その部屋の中へ一歩踏み出すと、コツンと自分の足音が響き渡った。

眩しかったのは光のせいではなく、その部屋の色のせいだと気付く。
真っ白い世界の中、所々淡いピンク色の光に照らされ色付いているその場所。
足場や白い木々の幹にはピンクの花が蔦い、女性的で神聖な雰囲気を醸し出している。
広大で、とても部屋と呼べるものではないこの空間。

後ろを振り向くとドアが宙に浮いたまま固定されており、その横に壁は存在しない。

サエはコツコツと足音を立ててその場を進むと、次第に木々も花もピンクの光もなくなり、本当にただの真っ白な空間のみになる。

先ほどの階段といいこの部屋といい、どんだけ歩かせるんだよ?
ゼェゼェと息を切らしたまま顔を上げれば、少し遠くに5段ほどの低い階段。
その先に設置されている大きなウィングチェアに腰掛けている少女の姿が見えた。
大きな4つの翼を背負い純白のキャミドレスに身を包んだ少女は、ジッと訪問者を見つめている。

ゴールドブラウンで、緩く巻いているその長い髪が光に反射しキラキラと輝くその様子を見るのがサエは好きだった。
でこ出しヘアでずっと髪型を変えない彼女に、前髪作ってみなよ!と言ったことを思い出す。
過去の何気ない会話やどうでもいい出来事さえも思い返してしまうのは、自分の運命を知っているからだろうか。

サエが近づいてくると、その少女は立ち上がり背中に生えている4つの羽を折りたたんだ。

「…。サエ。」
「ともちん、久しぶり。」

ふわりと笑いかけるサエとは対照的にとても険しい表情のその少女。

「報告しに来たって事は、知ってるの?」
「恋愛をした天使がどうなるかって事?…知ってるよ。」
「…。」

大天使である彼女はその長めのドレスを引きずるように歩きながらサエの元へと静かに近づく。
まるで納得いかないとでもいうようなその表情に、サエは苦笑いを浮かべた。

「わかってて、どうして?」
「…。」
「サエ。」
「…ごめんね。」

そうポツリと呟いた彼女の姿に、唇を噛みしめた大天使はそのまっすぐな瞳に耐えきれずに俯いた。

「自分の存在がなくなっちゃうってわかってても、この気持ちだけは消したくなかったの。」
「…。」

サエは微笑みながら胸元に手を当てた後、身につけているロボットのネックレスを軽く握った。
俯いたままの上司を見つめながら、彼女はずっと抱いていたある疑問を問いかける。

「ねぇ、ともちん。」
「…。」
「どうして、天使は恋をすると消えちゃうの?」

アスカに大まかに教えられた事実だけではなく、消滅してしまう理由をちゃんと知っておきたい。
そう思いながら彼女に問いかけると、俯いていた上司が真剣な眼差しでサエを見据えた。

「…天使の役割はちゃんとわかってる?」
「わかってるよ。神様のお手伝いと、人間に幸せを与えること、あと良い事をした魂を天国に連れてくこと…」

あとはー…と指を折りながら考えてるサエの思考を遮るように、大天使は言い放つ。

「人間に幸せを与える能力っていうのは天使全員が持ってるものでしょ?これは地上にいる人間全てに平等に与えなきゃいけないの。それに対して恋愛っていうのはたった一人に愛情を注ぐこと。」

言い聞かせるように意味を説明する上司を、ジッと見つめている天使。
その瞳に応えるように彼女は続ける。

「天使一人一人が持つその能力は皆が思ってるよりもすごい強い力なの。そんな力が一人だけに与えられるとしたら、どうなると思う?」
「…。」
「与えられるべき人間の元には幸福がちゃんと行かないし、一人にだけ集中して飽和状態になる。そうすると全てのバランスが崩れるの。世界の法則がめちゃくちゃになっちゃうよ。」

サエはその説明と少しだけ怒っているような上司の声に耳を傾ける。

「大昔、サエみたいに人間に恋をした天使がいたの。皆で話し合って、その天使を堕天させる事に決めたんだけど…」
「堕天…?」
「地獄に落としても、天使としての能力が残っちゃったの。」
「悪魔になったのに?どうして?」
「神様が言ってたんだけど、その天使は恋心を抱いただけで正義の心が消えたり悪に蝕まれたせいじゃないからだって。」

大天使は腕を組み、自分の部下を見つめながら話続けた。

「天使のままだと世界の法則が破れる。でも清く正しい心は消えてないから堕天も出来ない…。」
「…。」
「恋をした天使っていうのは、一番厄介な存在なの。」

その最後の言葉にサエは唇を噛み締めた。

「だからそういう天使は消滅させる事になった。可哀想だけど、そうするしかなくて…。」

サエは思い出していた。
突然姿を消した同僚の事を。どこに行ったのか聞いて回っても誰も知らなかった事を。
そうか、あの子達はきっと…。
思い当たる記憶がどんどんと蘇り息を飲む。

「これが消滅の理由。恋愛は天使にとって毒でしかないから。」

最後にそう言い放った大天使は、少し警告をするように語尾を強くしながら言い放った。
自分の部下が少しでも正気に戻って欲しいという表れだろうか。
しかしそんな彼女の思惑も梅雨知らず、サエは彼女に向かって優しく微笑んだ。

「そっか。ともちん、ありがとう。詳しく話してくれて!」

そう感謝を告げられた大天使は驚きの表情を浮かべている。
その笑みはなんの後悔もない清々しいものだったから。

本気なんだと、今更気付く。
その途端、彼女の瞳からポロポロと涙が零れ始めた。

「わぁ~!ともちーん!どうしたの!?」
「サエっ…どうして?どうしてそんなに明るくできるの…?」
「…。」
「トモは、サエに消えてもらいたくない。サエの事、信頼してたしっ…みんなサエが大好きなんだよ…?消えたら困るよっ…。」

冷静を装っていた先ほどまでとは打って変わり大泣きする上司の姿に、サエは涙を我慢するように口を結んだ。
冷たいと誤解されやすいけど、本当は仲間思いで人情に熱いこの上司の涙にサエはとても弱い。

それと同時に思い出す彼女との思い出。
一緒に笑って一緒に泣いて、怒られたりもしたけど。
色んな記憶をサエは目を閉じて一つ一つを大切に思い出す。
彼女がいてくれたから、仲間がいたから頑張れた。
目上の存在なのに親しみやすくて、熱い心を持った彼女と一緒にいれたことは、本当に幸せだったな…と泣いている姿を見て思う。

「ともちん、ありがとう。」

サエは優しく声をかけた後、涙を流し続ける彼女の頬を拭った。

「でも、これはサエが自分で決めたことだから。もう後戻りはしたくないし、出来ないんだよ。ともちん、ごめんね。」

彼女の手を握りしめて、それでも自分の決断を変えるつもりはないとサエは告げる。
頑固な天使のその言葉に「サエらしいね」と大天使は自分の頬を手で拭った。

握り締めた手を離すと、先ほどまで座っていたイスに戻った上司はサエを振り返りながら告げる。

「神様に伝えてくる。サエは広場で待ってな。」
「うん。」

4つの翼を広げ飛び立とうとしている大天使に、「ともちん」と静かに呼び止めたサエは、彼女を見つめながらポツリと呟いた。

「今まで本当にありがとう。ともちんの下で働けて、幸せだったよ。」

そう言った後、くるりと彼女に背を向けた。

その時。

「サエ。」

自分を呼び止める声に振り向くと、上司がこちらを見つめていた。
何かを自分に訴えかけているその瞳を見たサエは、その態度を不思議に思う。

「すごく確率の低い話なんだけど…。」

躊躇うような表情のまま、大天使はサエから目を逸らす。
サエは首を傾げながら彼女の次の一言をジッと待ち続けていた。