晴海客船ターミナルに関する記事を集めていたところ、建築関係者の方が専門誌「新建築」1991年8月号を提供して下さいました。

 記事によると、晴海客船ターミナルは、東京港の開港50周年を記念して、国際航路専用のターミナルとして計画されました。

客船の出入国管理などの管理機能の他に、イベントホール・ギャラリー・レストラン・広場等を含む複合施設です。当初から、東京湾のシンボル、「海の玄関口」として造られたものです。

 

1988年秋、東京都のプロポーザル方式によるコンペを経て決定。設計期間6カ月、施工期間20カ月。完成1991年。

設計者は竹山実氏です。

 

そこで、晴海客船ターミナルの「建築的価値」について、一級建築士で、建築エコノミストの森山高至さんに伺いました。

 

(写真:2020年防災クルーズから見た晴海客船ターミナル) 

 この建築物は大きく2つの要素で出来ています。それは基壇とも呼べる下部構造、そして展望台であり東屋であり天守閣でもある上部構造です。ちょうど石垣と天守と呼んでもいいし、岸壁と灯台とみなしてもよいでしょう。

 

晴海周辺が真っ平らで拠り所のない地形的状況の中に、人工的に景観を作り出そうと意識されたものです。

海外で同様の事例をあげれば、シドニーのオペラハウスやテネシー水族館のように、海に面した記念碑的建築は海からの都市への玄関口として、その都市の印象を決めてしまいます。この晴海客船ターミナルはそういう、東京湾の顔の役割を果たしていた建築です。
 

 晴海だけでなく臨海部の土地と海面の水平線から立ち上がった山のような建築形態は、人工的につくられた自然形態ともいえます。この場所から朝日や夕陽を眺め、レストランやカフェを利用しながら、東京湾の夜景を眺めた思い出をもつ人々も多いでしょう。そのような海に向かってつくられた公園のような体験的舞台を演出してあるのがこの建築なのです。

 この建築の存在が東京臨海部の海への玄関口としての景観美を生み出している、その核となっていると同時に、多くの人々の思い出の依り代ともなっている建築として貴重なものです。

 

 築30年、今や中央区民はもちろん、誰もが知っている名建築になりました。国際客船ターミナルの機能は青海に移転しましたが、東京港のランドマークとして、オリパラのレガシーとして、この建物は、是非残して欲しいと思います。