「双方の言語のどこに視点を当てるのか?」について,たびたびこの「翻訳してみよう」でも取り上げてきました。
このことについて詳しく書いてある本があります。以前このブログでも取り上げた、ISS講師である王浩智先生が執筆なさった「日本語から学ぶ中国語・中国語から学ぶ日本語」という本です。僕の翻訳人生に多大な影響を与えてくれました。
この本です↓
- 日本語から学ぶ中国語・中国語から学ぶ日本語/王 浩智
- ¥2,310
- Amazon.co.jp
その中に、中国語に翻訳する場合、その日本語で表す意味の深層に潜り込む必要がある場合について、この本には書いてあります。その一例を参考にしながら、今回の翻訳をしてみたいと思います。
胃にいい →
肺にいい →
腎臓にいい →
肝臓にいい →
心臓にいい →
これらの「いい」が表す意味は全て同じでしょうか?王先生はそれぞれのメカニズムと合わせて翻訳する必要があると本書の中でおっしゃています。
訳すと以下のようになります。
胃にいい → 建胃 (胃を健やかにする)
肺にいい → 润肺(肺を潤す)
腎臓にいい → 补肾(腎臓を補う)
肝臓にいい → 养肝(肝臓を養う)
心臓にいい → 强心(心臓を強くする)
王先生は、このいずれの語も代替不可だとしています。では、王先生に習い僕も似たような語彙の翻訳に挑んでみたいと思います
お題 「やさしいの多様性」
よく、「地球にやさしい」とか「お肌にやさしい」とか聞きますよね?ネットで検索するといろいろ出てきます。ここでは、「~にやさしい」で検索するといろいろ出てきました。その中で複数ヒットした言葉を今回の翻訳のお題としたいと思います。
目に優しい液晶
肌に優しい化粧品
足に優しい靴
人と環境に優しい総合環境開発
などといった言葉が出てきました。これを見てみる、優しいの対象がほとんど人、もしくは人の体の部位を表す言葉となっています。まずはそれぞれの言葉の持つ意味の探究から始めてみましょう。
「目に優しい液晶」
これは長時間使用しても目が疲れない、つまり「目が疲れにくい」とほぼ同等の意味です。目がチカチカしない、というニュアンスでしょうか。上の王先生の翻訳のようになんとか名詞につく修飾語(ここでは“目に優しい”)を2語で表したいですね。
“护眼液晶”という語で検索してみたら、見事に(笑)ヒットしました。「目を保護する液晶」。完全に日本語とあっているとは思いませんが、ここら辺でよしとしましょう(笑)
では次、
「肌に優しい化粧品」
これはどういう意味でしょうか?僕は男なのでよくわかないのですが、化粧品の中の成分のせいで、アトピーやニキビを傷つけてしまう場合があるようです。そのため、このような症状のある女性の方は粧品の中に余計なものが入っていない、無添加化粧品を欲しがる傾向にあるようです。つまり、肌に優しい化粧品とは「安全な無添加化粧品」のことです。これは2語で表せるのでしょうか?とりあえず頑張ってみましょう(笑)
“全天然化妆品”という言葉が出てきました。天然、つまり無添加です。
“天然安全放心化妆品”なんていう言葉も出てきました(笑)ここまで来ると優しさを通り越して、胡散臭さも出てきそうです(笑)
ここで、もう一度原文に戻ってみましょう。この「優しい」という言葉の本質は何でしょうか?優しい、という言葉を聞くとどんなイメージを思い起こすでしょうか?本質をイメージして翻訳してみると・・・
“天然护肤化妆品”
というのは如何がでしょうか?その言葉を見ただけで、それがどんなものかわかってしまうという中国語の特徴をとらえた良い訳だと思います(←自画自賛)
ここまで、二つ訳してみたところどうやら優しいという言葉の中には“保护”というキーワードが含意されているようです。続けて翻訳してみましょう。
「足に優しい靴」
かんみ。リサーチではこれは、長時間歩いても疲れにくい、足に負担をかけない、などといったそれぞれの人の足に適した靴の総称のことのようです(←言い切りにしない時点で逃げてます)
ではここでもまた“保护”の力を借りてみましょうか!!(笑)足といっても、みなさんご存知のように中国語では同じ足でも部位によって名称が違います。靴を履く部分、くるぶしから下は“脚”といいます。
“护脚靴”で検索してみたら結構ヒットしました。たぶんこれでOKです(笑)
では最後です
「人と環境に優しい総合環境開発」
これも通例に従い、“保护”を中心に考えてみましょう。
“护人护环”という言葉があってもよさそうですが、ありませんでした(笑)ネットで調べていたらこんな言葉が出てきました。「環境を守ることが人類の保護につながる」。なるほど、環境あっての我々人類ですからね。なので、こんな訳はどうでしょうか?
“保护人类生存的环境的综合环境开发”
ですが、この総合環境開発は、「環境破壊によって、人の安全が脅かされる」という因果応報を何とかするために始められたそうです。そのため、「環境を保護すると同時に、人も保護する」といった、環境と人は同等にみなされているようです。
“保护地球环境与人类健康的综合环境开发”
ちょっと長ったらしくなっちゃいましたがいかがでしょう?
何でここで「優しい」という単語を使ったのでしょうか?中国語に訳したら“保护”とい動詞が出てきたのに、日本語では“優しい”という形容詞です。
ここで僕が思うのは「優しい」という言葉には「気配りの行き届いた」という意味があるかもしれません。先ほど出てきた、「足に優しい靴」を販売しているメーカーが、消費者一人一人に合わせてその人の足に合った靴を製造する、というサービスがありました。ただ守るだけじゃない。その人一人に合ったきめ細やかさが、この「優しい」にはあるのかもしれませんね。
長々と失礼しました。
では今日はこの辺で・・・・