空――。
見上げた空は雲ひとつなく、澄んだ青空は
地平線の向こうまで続いていた。
あたりに民家はなく、視界に広がるのは、一面の緑。
そう、ここは草原の真っ只中なのだ。
僕は、ひと息に空気を吸い込み、吐き出した。
本当に、空気がおいしい。
僕はこの気持ちの良い景色を、しばらくの間ぼうっと眺めていた。
そのとき、後ろの方で気配がした。
ここは大草原の真っ只中。誰もいようはずもない。
僕は、すぐに後ろを振り返ったが、やはりそこには人も動物も
いなかった。
「今のは、いったい何だったんだろう」
疑問に思ったが、僕はまた前方の雄大な景色に目を移した。
「あの地平線の向こうに、行ってみようかな」
僕は景色の美しさに見とれていたが、ずっとここにいても
仕方がないと思って、前に向かって歩き出した。
肩には小さなカバンをひっかけ、長袖の洋服は風にはためきながら、
僕は歩いた。
しかし、ここでまたも人の気配がした。
僕はすぐ後ろを振り返った。しかし、やはり後には人はいず、
雄大な草原地帯が続くのみ。
「一体、何なんだ…。目に見えない精霊のたぐいでもいるのか…」
そう思いながら、再び視線を前方に移したとき、
僕の肩を、誰・か・が・さわった。
「うわっ!!」
突然の肩への感触に、僕はとても驚き、身の毛がよだった。
美しい景色とは裏腹に、この草原には何かがひそんでいる。
僕は緊張して、あたりをうかがった。
と、そのとき!
「いい加減にしなさい!!」
僕の目の前の景色は一変した。
薄暗く、陰気な部屋が、目の前に現れた。
正面には、幾重にもケーブルが折り重なっており、
それはベージュ色をした箱のような物体につながっていた。
「ドラクエなら、勉強が済んでからにしなさい!!」
僕が声の方を振り返ると、そこには母が立っていた。
見ると、僕が今まで装着していたはずの、ヘッドマウントディスプレイ
が、母の手中にあった。
そうだ。すっかり世界に夢中になってしまっていたが、
明日から期末試験があるんだった。
僕は、あっという間に現実に引き戻されてしまった。
「まったく、とんでもない商品が登場したものね。
困ったものだわ。試験が終わるまで、これはお母さんが預かりますからね!」
そう言って、母はヘッドマウントディスプレイから伸びた数本の
ケーブルを無造作に引き抜くと、そのまま本体を持ち去ってしまった。
僕の部屋を出て、階段を下りてゆく音が聞こえた。
僕はため息をついた。
もっと世界に浸っていたかった。
つい先日発売された、ドラクエ2132。
タイトルに西暦が入ったのは、今世紀――22世紀に入ってからのことだ。
これだけは、誰よりも早くクリアしたかった。
落胆する僕に向かって、ひらひらと舞い降りたのは、試験の日程表だった。
ブルーに映し出されたその立体映像は、明日、日本史の試験があることを告げていた。
ゲームの歴史なら、勉強せずに満点を取れるのに――。
そんなことを思いながら、渋々僕は日本史の問題集にアクセスした。
終
見上げた空は雲ひとつなく、澄んだ青空は
地平線の向こうまで続いていた。
あたりに民家はなく、視界に広がるのは、一面の緑。
そう、ここは草原の真っ只中なのだ。
僕は、ひと息に空気を吸い込み、吐き出した。
本当に、空気がおいしい。
僕はこの気持ちの良い景色を、しばらくの間ぼうっと眺めていた。
そのとき、後ろの方で気配がした。
ここは大草原の真っ只中。誰もいようはずもない。
僕は、すぐに後ろを振り返ったが、やはりそこには人も動物も
いなかった。
「今のは、いったい何だったんだろう」
疑問に思ったが、僕はまた前方の雄大な景色に目を移した。
「あの地平線の向こうに、行ってみようかな」
僕は景色の美しさに見とれていたが、ずっとここにいても
仕方がないと思って、前に向かって歩き出した。
肩には小さなカバンをひっかけ、長袖の洋服は風にはためきながら、
僕は歩いた。
しかし、ここでまたも人の気配がした。
僕はすぐ後ろを振り返った。しかし、やはり後には人はいず、
雄大な草原地帯が続くのみ。
「一体、何なんだ…。目に見えない精霊のたぐいでもいるのか…」
そう思いながら、再び視線を前方に移したとき、
僕の肩を、誰・か・が・さわった。
「うわっ!!」
突然の肩への感触に、僕はとても驚き、身の毛がよだった。
美しい景色とは裏腹に、この草原には何かがひそんでいる。
僕は緊張して、あたりをうかがった。
と、そのとき!
「いい加減にしなさい!!」
僕の目の前の景色は一変した。
薄暗く、陰気な部屋が、目の前に現れた。
正面には、幾重にもケーブルが折り重なっており、
それはベージュ色をした箱のような物体につながっていた。
「ドラクエなら、勉強が済んでからにしなさい!!」
僕が声の方を振り返ると、そこには母が立っていた。
見ると、僕が今まで装着していたはずの、ヘッドマウントディスプレイ
が、母の手中にあった。
そうだ。すっかり世界に夢中になってしまっていたが、
明日から期末試験があるんだった。
僕は、あっという間に現実に引き戻されてしまった。
「まったく、とんでもない商品が登場したものね。
困ったものだわ。試験が終わるまで、これはお母さんが預かりますからね!」
そう言って、母はヘッドマウントディスプレイから伸びた数本の
ケーブルを無造作に引き抜くと、そのまま本体を持ち去ってしまった。
僕の部屋を出て、階段を下りてゆく音が聞こえた。
僕はため息をついた。
もっと世界に浸っていたかった。
つい先日発売された、ドラクエ2132。
タイトルに西暦が入ったのは、今世紀――22世紀に入ってからのことだ。
これだけは、誰よりも早くクリアしたかった。
落胆する僕に向かって、ひらひらと舞い降りたのは、試験の日程表だった。
ブルーに映し出されたその立体映像は、明日、日本史の試験があることを告げていた。
ゲームの歴史なら、勉強せずに満点を取れるのに――。
そんなことを思いながら、渋々僕は日本史の問題集にアクセスした。
終