【翡翠】涼やかな朝 | 椋風花

椋風花

夢小説を書いています。
長編はオリジナルキャラクターが主人公で、本家と設定が違う点もございますのでご注意を。

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夜が終わり、朝が来る。

カミが活動をやめ、人が活動を始める。


(・・・見つからなかったか。)


カミの気配が一つ、次は二つ、と急速に薄れていく。


男は諦めの表情とともに空を仰いだ。

空は厚い雲で覆われていて、目を凝らしたところで月も星も分からない。


(・・・何も起きなければいいのだが。)


枝の折れる音が大きく響いた。






__





目を覚ました真希は傍らで眠る二人の少女を見て首をかしげたものの、

すぐにここが高千穂家だと思い出した。
寝転がりながら三人でお喋りして、一番最初に寝てしまったということは覚えている。

まだ部屋の中は薄暗いし、珠洲とエリカはぐっすり眠っていてまだまだ起きそうにない。

真希はそろそろと立ち上がると、まだ整理が終わっていない荷物の中から着替えを取り出した。

せっかく早く起きたのにまた眠ってしまうのはもったいない。


(誰か起きてるかな・・・。)


クリーム色のセーターとピンク色のスカート、厚手のタイツを履いてから真希は時計を確認した。
宇賀谷家なら美鶴が境内の掃除を終わらせて朝食の準備を始める時間だ。

そしてもう少ししたら珠紀も起きて、料理の手伝いをするか境内の散歩に出かける。


真希は蒲団を畳んで部屋の隅に置くと、まずは台所に向かった。




台所には朝食の準備をしている沙那がいた。

『おはようございます。早起きなんですね。』


主様も見習ってほしいものです、と言葉を続けながら鍋を火をかける。


「何か手伝うことはあるかな?卵割るのは失敗しないよ。」


自慢にはならないことを自信満々に言うと、沙那はブンブンと首を振った。


『とんでもないです!御客人様にそんなことをさせたら加奈に叱られてしまいます!』

「加奈ちゃんはまだ寝てるの?」


どちらかというと加奈の方が早起きしてそうなイメージだが。


『いえいえ、加奈は神社の掃除に行っています。加奈は神社担当ですから。』

「担当が決まってるの?」


二人は玉依姫の使い魔で、沙那は家事担当、加奈は神事担当とそれぞれ役割が決まっているらしい。

玉依姫に仕える者という点では美鶴と似ている。


(・・・あとで美鶴ちゃんと珠紀先輩に電話しようかな。

昨日は心配掛けちゃったし。)


一応昨日の夕食後にも電話はしたけれど、その時は昼間出現したカミの話ばかりでほとんど普通の会話はできなかった。

体調が良くなったこともちゃんと伝えておかないと心配させたままになってしまう。


「・・・姉さん?」

「え?」


後ろからの呼びかけについ振り返ると、陸が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

しかし人違いに気付いたのかバツが悪そうに目を逸らし、


「あ、ごめん・・・姉さんかと思って。」

『陸ですか?主様がどうかしましたか?

「あ、ううん。私と見間違えたみたいで。」

「暗かったから髪降ろした姉さんかなって・・・こんな時間に起きてるなんて珍しいから驚いたんだけど。」


珠洲と比べると真希の方が少し髪が長いけれど、背格好は同じくらい小柄だから後ろ姿だけ見たら間違えってしまっても仕方ない。

もっとも珠洲は頭の両脇で髪を折り曲げるように結っているのでわかりやすいのだけれど。

そういえばまだ髪を編んでいなかったと真希は髪を撫でた。


『そうですね、学校がお休みになってから主様は少しだらけ気味です。陸は変わりないというのに。』

「俺はもともと早起きだから。」





苦笑交じりに陸は冷蔵庫から牛乳を取り出した。

棚からコップを取ろうと腕を伸ばし、そこで動きを止めて真希に目を移す。


「・・・飲む?」
「はい!」


喜んで答えると二つのコップに牛乳が注ぎ込まれた。
一気飲みする陸を見ながら真希はチビチビと牛乳に口をつける。

牛乳を飲むのは久しぶりだ。


「えっと・・・姉さんはもう起きてるの?」

「まだ寝てます。遅くまでお喋りしてたから、エリカも珠洲もすぐには起きないんじゃないかな。」

「そう。」


陸は珠洲の弟で一歳年下だけれど、身長が真希よりもずっと高い。

見上げる感覚は年上の守護者と話しているときと同じだ。


陸は飲み終えたコップを流しに置いた。


『あっ、陸、外に出るのならゴミ出しをお願いします。』

「うん。」


沙那は台所の隅に置いていたゴミ袋を両手で掴むと重そうに引っ張りながら陸に渡した。

それを陸は軽々と持ち上げる。



「あの、私もお手伝いします。」


外に向かう陸の背中を追いかけて声をかける。


「いや、平気。一人で運べるから。」

「なにかお手伝いしたいの。」

「でも・・・。」


陸は二つのゴミ袋の重さを測るように上下に動かすと、


「両方とも結構重いから。大変だと思う。」

「がんばります。」

「・・・・・・。」


気合いをこめて言うと陸は逡巡するように沈黙し、


「じゃあ、花の水やり頼んでいい?」


もちろん真希は頷いた。






__




「わあ、チューリップが咲いてる!」


家の裏に回った真希は並んだ植木鉢を見つけて弾んだ声をあげた。

春先だけあって、長いプランターに植えられたチューリップはほとんど開花していた。

他にも名前はわからないけれどピンク色の花が咲いていたりしていてかわいらしい。


(えっと、土の表面が乾いている花だけ水やりすればいいんだよね。)


そして陸の言っていた通りに水道管と、そこに置かれている大きなジョウロを見つけて蛇口を思いっきりひねる。

ダバババと水の流れる音を聞きながら真希は花を眺めた。

たくさん鉢植えが並んでいるけれど、全部珠洲か真緒が育てているのだろうか。


「よいしょっ!・・・っととと、」


水がたっぷり入って重たくなったジョウロをよろよろと運び、端っこから順に水をやっていく。

動くたびに水が零れて足元が水びたしになっていく。


(今日はちょっとお天気悪そうだけど・・・水たっぷりあげていいよね。)


支えるのが精一杯で調節なんてできそうにないけれど。


そうやって水をあげていると、森の茂みがガサガサと音を立てた。


(蓮葉?でも・・・。)


もしかしたらカミかもしれないと、すぐに振り返ろうとしたのが悪かった。

体を捻ると同時にジョウロが勢いよく振り回され、足を踏ん張ることもできずに真希はその場ですっ転んでしまう


「きゃあ!」


ジョウロが地面に落ちてビシャーンと派手に音を立てながら水がぶちまけられていく。


「!?」


真希が立てた音でここに人がいることに気付いたのか、茂みの音が止まる。

確実に蓮葉ではないけれど、打ち付けた体が痛くて確認ができない。


「いったたたた・・・。」


膝を立てて上体を起こす。

ここは日当たりがいいらしく、セーターには乾いた土がついているだけだった。


「・・・人か?」


ようやく真希は茂みに目をやることができた。


そこにいたのはどうみても普通の人間ではなく、



(・・・誰?)



しかしカミには見えない長身の男がこちらを見つめていた。













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あとがき





モデムが壊れましたよ交換しました!

と言うわけで十日ぶりです。



陸の趣味に少し触れたいなあと思っていたのですが、陸がフェードアウトしてしまいましたね。

趣味と特技のかけ離れっぷりがすごいです。


いや・・・それを言ったら拓磨もか。



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卓「どうですか?一人で解けるようになりましたか?」

拓磨「え?ああ・・・いや、やっぱり無理っすね。どうしてもわからないのはわからないですし。」

祐一「少し問題のレベルを落とした方がいい。いつも頭を抱えて悩んでいるだろう。」

拓磨「そうなんすよねえ。・・・でも、後輩の真希がすらすら解いてるの見るとレベル落とすっていうのもちょっと・・・。」

卓「先輩としての意地と言うやつですね。でしたら、頑張って解けるようにならないと。」

祐一「まあ、受験勉強に比べれば楽なものだ。頑張るといい。」

拓磨「・・・何か二人とも、出来の悪い子供を見るような生ぬるい目をしているような・・・。」