ふとしたことだった。
YouTubeの一覧に『YAWARA!』のMAD動画(今こう言うのか?)が上がってきたので、観てみた。
雷に打たれたような衝撃を受けた。
もう反射的というか、本能的に「本編最初から観よう!」と決意し、配信で#1から追いかけ始めた。
そうしたらもう止まらないのだ。
20日かけて全124話を完走してしまった。
我ながらビックリだ。
これには前置きがあって、僕は少年時代『YAWARA!』をリアルタイムで観ている。歯抜けはあると思うが、ほぼ全話観た。
途中から続きが気になってしょうがないので、原作の連載も追いかけるようになった。ちょうど純愛に飢えてた高校時代、友人とも「松田と柔はどうなるんだ!?」と盛り上がったものだ。
しかし、プロに入ってもう25年。
良くこういうのを「思い出補正」とか言われるが、僕はそんなものはないと思っている。
プロの目で見てはどうしても見える「アラ」というものがあるのだ。だから過去ハマった作品でも、美味しいところだけMADで観る、あるいは1話だけ観る、なんてことはあったが、全話観るなんて、面倒くさいにも程があった。
しかも、『YAWARA!』は全124話(TVシリーズ)だ。これだけ1カットもアニメを観るのが鬱陶しい、忌々しい今の気分になってしまっては、どこかで止まるだろう、と思っていた。
そんな僕がだ、124話もの連続アニメを観通してしまったのだ。
信じられるか?この俺がだよ?
日本のTVアニメも数あまた増えた。もちろん名作も多くある。
しかし、「エンタメとしての完璧さ」という点では、僕は『YAWARA!』が頂点なのではないかと思う。
とにかくストーリーがいい、演出がいい、作画がいい、声がいい、キャラクターがいい。
欠点が見つからないのだ。
特に毎話、話がクライマックスを迎え「どうなる!?」と手汗握る瞬間に「バルセロナオリンピックまであと〇〇〇日!」というアイキャッチが入るものだから、ああ~ここで終わるのかぁ~!と頭を抱え、思わず次を観てしまう、という演出は、実に上手い。
原作者の浦沢直樹先生自身が「これは実験作」と語っている通り、これは「熱いスポ根ストーリー」と「熱いラブストーリー」を両立させるという、簡単なようで実は非常に難しいテーマに取り組んだ。何が難しいって、そのためには周囲にどのようなキャラクターを配置すればいいのか、迂闊に進めてしまうと忽ち煩雑になってしまうからだ。
それもこの作品は完璧だ。当然のことながら主人公・猪熊柔の「柔道」としてのライバルたち、そして「恋」のライバルたち、それを有機的に結びつける仲間たち、夥しい数のキャラが出てくる。
しかし本作は所謂「死にキャラ」がほとんどいないのだ。お前誰だっけ?とか、お前何しに出て来たんだ?お前いつの間に消えたんだ?とか、名前もロクに覚えられないようなキャラクターが、長期シリーズの連載ではどうしても散見するものだ。僕はそういうキャラのことを「死にキャラ」と呼んでいるが、それがいない。
この作品は何よりキャラクターの配置に長けている。もちろんキャラブレもしない。
……と、ここまで書いて思い出したのだが、次回を観ずにはいられないラストの「引き」、どれだけキャラ数が増えようが「死にキャラ」を作らないキャラクターの緻密な配置、これは僕が『Wake Up, Girls!』で参考にしたものだ。
特にそのための研究をした訳ではないが、過去の記憶から引き出した。
その証拠に、グリーンリーヴズのマネージャー・松田耕平は猪熊柔に執着する新聞記者・松田耕作の名を一文字変えただけにしてある。
意識はしていたのだ。
場合によっては松田と島田真夢の恋愛もあるかも……と思っていたが、グループアイドルものなので結局やめた。
なんか随分長い分析になってしまったが、『YAWARA!』こそ長期TVシリーズに限って言えば、非の打ちどころのない傑作であり、おそらく史上最高だと言っていい。少なくとも、「最近アニメつまんねぇな」とお嘆きのあなた、是非お勧めします。それでもつまらんと言うならば、お代は全額お返ししてもいい!
ただひとつだけ、これは年寄りのボヤキと思っていただいて結構なのだが、本作は「エンタメ」として完璧ではあるが、かのトルーマンが提唱した(と言われる)「3S政策」に、見事嵌っているところに一部の懸念点がある。
「Sex,Sports,Screen」、この三要素を見事満たしてしまっているのだ。
これに関しては熟考の余地があるかも知れないが、またの機会にしよう。
あと、この作品は女性に是非観てほしい。
「女の子は限りなく魅力的だし、限りなく強い!」ということを、本作は教えてくれるだろう。
それから「完結編」となったはずの最後のTVスペシャルだが、時系列他瑕疵が少なからずあるので、こちらはお勧めしない。