最近、アニメーターの業界批判というのか、特に待遇改善についてのツイートがやたら増えた。

定期的にトレンドに入るのだから、相当なのだろう。

しかもベテランアニメーターや実績を積み重ねてきた方々が次々と声を上げている。

 

もちろんそれぞれの思惑があるだろうから一概にまとめるのは難しいのだが、いろんな立場の人たちの話を聞いて、段々今のアニメ業界の構造が解り始めてきた。

 

まぁ、あくまで推論として読んでもらいたい。

 

 

さて皆さんお察しの通り、問題の根源にいるのは製作委員会である。相変わらずである。

彼らが最近「クオリティをもっと上げないと売れない!」とやたらしゃかりきになっているようだ。これは方々から聞く。

かつ「納期をずらすことなく完璧に納品しろ!」とうるさいらしい。

 

もちろんだが、そんな神業ができる制作スタジオはごく僅かしかない。

 

まぁここまではまだ良しとしよう。しかし更に問題なのは、「制作予算はそのまま据え置き」ということだ。

これでどうやってクオリティを上げろというの?

それに対し製作委員会はアイディアもないし、聞く耳も持たないし、ぶっちゃけスタジオに丸投げである。

「お前らスタジオが必死にやりくりするのが当然やろがぁ!」

なんかまるでマルクスが生まれる前の資本主義に戻ったかのようである。

 

クオリティを上げるためにせめて時間をくれ、と監督が交渉しても頑と聞かず、言うこと聞けないなら首だ!と監督を解任し、新しく据えた監督とまた揉める、なんて茶番のようなことが日常茶飯事になっている。

更にバカバカしいのが、そこで無駄に揉めてるせいで結局スケジュールがめちゃくちゃ延びているのだ。

じゃあ最初の監督をなんで降ろした?

 

キャラクターデザイン・総作画監督も同様である。

「このデザインじゃない!この絵じゃない!」と片っ端から落としていって、とうとうキャラデ・総作監の成り手がいなくなって不在のまま作業が進んでいる作品まで出てきていると聞く。

 

過去何度も言っている通り、彼らが今欲しているのは「自分の言いなりになるスタッフ」だ。

しかし「自分の言いなりにな」ってかつ「腕のいいスタッフ」となると、ごく限られてくるのは明白だ。

しかし彼らにはその自覚がない。その辺掘ったら石油や埋蔵金のように優秀なスタッフが出てくると勘違いしているらしい。発想の根本からおかしい。単に頭が悪い。

 

「オタクがアニメを壊す」とは良く言ってきたが、とうとう「製作委員会がアニメ業界を壊す」時代に突入したようだ。

世も末だ。子供のままごとかよ。

 

 

そんな時流に対し、直接製作委員会を責めないが、アニメーター諸氏が「こんな単価でお前らの望むクオリティが出せる訳ないだろ!」と言いたいのは当然だ。

ただ、ここにもややこしい思惑のもつれが見え隠れする。

 

ここで「ベテランアニメーターや実績を積み重ねてきた方々」が発言している、というのがポイントとなる。

一見すると「若手と違ってやっぱりベテランが発言した方が説得力があるから!」と思うだろう。

しかし、内実はそうでもない。

 

ここから発言に気を遣うが、僕ももうすぐ50、「もうベテランになっちゃった一員」として述べたい。ベテランとはそれだけ「歳を取った」ということだ。

すなわち、若い時のようなスピードとパワーがない。

スピードがなくなったのに従前のように稼ぎたい!となれば、必然的に「描き飛ばす」しかない。

まぁぶっちゃけ言っちゃおう、「手抜き」をするしかないのだ。

 

ちゃんと描けば上手いのに、量をこなそうとして、あるいは時間がないから「描き飛ばす」ベテランアニメーターは結構な数いる。

レイアウトで背景をロクに描かなかったり、ラフ過ぎて「おいこれ事故るぞ!」という絵もある。

往々にして、それは事故って、作画崩壊の原因となる。

 

そういう人々にとって、「これ以上クオリティを上げろ!」というのは、死活問題なのだ。

だから「もっと単価を上げろ!」と口酸っぱく言う。

しかし正直言わせてもらうと、それは若手のためではなく、自分の生活のためなのだ。

 

ここで言い忘れたことがあるが、アニメーター全員が単価制で働いている訳ではない。

アニメ業界には「拘束制度」というものがあって、ちゃんと固定給が貰えるのだ。

そして、その資格にありつけるのは、手抜きをせず一生懸命上手い原画を仕上げる、主に若手だ。

 

考えてもみてほしい。「拘束」制度があるのに、なぜフリーランスで活動しているのか?

もちろん様々なポリシーがあるに違いない。自分の好きな絵を自由に描きたいとか、僕の場合だと「自分の企画を通したい」とか、そういう理由もあってフリーを選んでいる人もいる。

しかし、中には「もう往年のように描けないから」という人も、一定数いるのだ。

 

そんな人が、駆け出しの若手が単価で一生懸命大量に描いた原画をTwitterとかにアップして「僕これだけ頑張りました!」というアピールに茶々を入れ始めた。

僕は若手のアピールは全然悪くないと思っている。彼らはそうやっていい待遇で雇ってもらえるチャンスを探しているのだ。

しかしそれに対し、「やりがい搾取なのになんで解らないんだ!」「単価以上の仕事をして何になるんだ!」と物申すベテランがいる。

正直言おう、それ、自分の身を護るためでしょ?

自分より安く受けて自分より上手い絵を描かれたらたまったもんじゃないからでしょ?

 

それは「若い芽を摘む」って話なんじゃないの?そう思う。

 

僕はそう言った「歳寄り」の一員として、むしろ安いギャラで死に物狂いで絵を描き重ねている若手を応援したい。

そしてそんな彼らがいいスタジオにスカウトされ、高い拘束料を貰える日が来ることを期待し、祈念する。

 

一方で、描けなくなったからって手抜きで誤魔化すベテランを優遇する理由などどこにもない。

あくまでこの業界は実力主義、上手い人間が儲かって、下手な人間は貧乏すればいいのだ。

それだけなのだ。

 

もう一度言っておくが、僕がもう昔のように仕事ができなくなってきた「歳寄り」だから、尚更強調したい。

しかしその前に、製作委員会の暴れっぷり、これを一網打尽にしない限り、前提条件すら崩れてしまう。それも強調したい。

 

因みに僕の基本姿勢はちょっと前に弁護士ドットコムにも述べておいたので、それも参考にしていただきたい。