なんで今まで気付かなかったのだろうと不思議なくらいなのだが、僕と木上益治との関係は、かの朝比奈隆と師・エマヌエル・メッテルとの関係と瓜二つだ。

共になーんも教えてくれなかった。

 

若き朝比奈御大が初めてオーケストラを振るとなって(確かベートーヴェンの7番だったはず)、はるばるメッテル師匠の家までスコアを持ってレッスンをつけてもらおうと思って行ったという。

そしたらなんと門前払いを食らったのだ。

 

「これから人の前に立って指示や命令を出す人間が、教えを乞うとは何事か!」

そう喝破されたという。

 

この辺も僕の師匠と似ている。

最初の作打ちの時「君が全部指示を出すんだ!」と怒られた。

 

「教えるべからず、学ぶべからず」。

今となっては古色蒼然の感もある考え方だが、結果としてその方が必死に勉強する。

そして、自分に合ったスタイルを見つけ出すのだ。

 

そして必ず、仕事の端々に「師匠ならこうした」という意識と記憶が絶えず残っている。