京アニ放火事件 青葉容疑者逮捕 殺人容疑などで京都府警 動機解明が焦点
青葉真司が逮捕された。
自分でも驚いているのだが、まったくと言っていいほど、何の感慨も湧かない。
この世の無常観に茫然とするだけだ。
人間とは何なのか?
ちょっと虚無に陥る危険もあるので、また師匠の思い出話でもしようと思う。
入社して一年目、いきなり木上益治に弟子入りすることになった。
しばらくは広い作画室の中で離れたところにお互い座っていたのだが、二年目になって急に師匠が、
「これから君たちを折檻部屋へ閉じ込める!」
訳の解らないことを言い出した。
当時会社の制作部門の中心は、本社から歩いて5分くらいのユニハイショップビルをテナント借りしていて、3階はすべて借り切っていた。
その中の小部屋に、4人で籠ろうというのだ。
メンバーは師匠、石原さん、僕、それから同期の作画のU君。
ここに武本さんがいたような気がしていたのだが、いなかったようにも思う。
この4人で何をしたか?もちろん折檻などしていない。
ただ、机並べて和気藹々とお喋りしながら作業していただけだった。
これ、単に大勢のゴミゴミした中でなくて、少人数のこじんまりとしたところで作業したかっただけなんじゃないの?と今は思う。
しかし、僕とU君をマンツーマンで育てようとしたのは確かのようだ。
僕は師匠の右隣に席を置いた。
普通机の間に段ボールなどの仕切りを作るものだが、師匠の意向でナシとなった。
とにかくいろんなことを話しながら、仕事をした。
昨日やってたTVアニメの感想やら、会社のことやら。
当時の僕はさすがにまだ大人しかったので、聞き役に回っていたと思う。
ちょうど『POWER STONE』が始まった頃だった。
僕は師匠の絵コンテが上がったら、出来立てホヤホヤを見せてもらうことになっていた。
一通り読むと、
「どう?」
「いや、いいと思いますけど……」
ここで雷が落ちる。
「君は読めていない!」
「え?なんでですか?」
「絵に騙されてるんだよ!」
自分が描いたばかりの、ちゃんと仕事で出さなきゃならないコンテを人に読ませて否定するのだから、いろいろ問題のある教育のように思えたが、彼は本当にそうやって喝破した。
「僕の絵がいいからみんな騙されるんだ、実はこんなのを認めてちゃいけないんだ!」
じゃあ師匠、そこまで言うなら描き直しなはれや……とも思ったのだが、そのコンテはそのまま提出された。
いいのか?
下ネタ、特にゲスな下ネタは大嫌いな人だった。
『山椒大夫』をアニメ化できないか?と会社から提案があったように思うが、それを「折檻部屋」で検討した。
僕はパッと思い付き、
「安寿が厨子王を逃がすでしょ?それから入水自殺する(注:これは溝口健二の映画版である)。あれ、不自然だと思うんです。そんなに簡単に逃がせるのか?それから自殺しなきゃならないのか?僕は実は、それを説明するためには、安寿と山椒大夫との間に肉体関係があったとしか思えないんですよねぇ」
師匠はちょっと考えたような間を置いて、
「……けだもの!」
え、そこまで言われなきゃならんのか!?と思ったが、師匠にはこういうネタもうやめておこうと思い、その後は一切言わなくなった。
それでも、笑いの絶えない部屋だった。
当時まだ下請けで、スケジュールには振り回されっぱなしだったが、ワイワイと会話が途切れず、皆で爆笑し、やっぱり師匠、こういう空間がほしかっただけなんじゃないの?と思う。
この時、師匠愛用の黄色のライトスタンドを僕にくれ、後生大事に持っていたのだが、その後の度重なる引っ越しの中でとうとう失くしてしまった。
今も後悔している。